弥勒と会長がクラブハウスの中に飛び込んで見たものは・・・
いろんな用具を積み上げて窓辺にくっついている珊瑚だった。
それもドレスの裾をたくしあげ太もももあらわなあられもない姿である。
「珊瑚・・・・・・・」
声を詰まらせながらも隣にいる会長への牽制は忘れない。
「・・・・・お前は向こうを向いてろ」
背筋が凍るかと思われるほどの低い声音である。
会長は即座に従いあさっての方を向いた。
「今降りるから待って・・・ってあ、あれ?」
そういった珊瑚のドレスの裾がどこかに引っかかったらしい。
取ろうとしたその体がバランスを崩す。
「あっ?!」
「珊瑚っ!!」
がらがらと崩れ落ちる足場と共に落下する体を弥勒の腕が
すんでのところで抱きとめた。
「・・・・ってぇ・・・この・・・お転婆っ」
しっかりと珊瑚をその身を呈して庇いながらも睨みつける弥勒。
「ごっごめんっ!痛かった・・・よね?」
自分の下敷きになっている為相当なダメージを受けたことだろう。
が、返ってきた答えはまったく異なるものだった。
「・・・ドレスよりも自分の身の方を優先してくれ。
破らないよう気を使うのも悪くはないんだがな」
「え・・・・でも先輩達が一生懸命作ったものだよ?破くなんてできないよ」
はぁ〜と弥勒はため息をつくとやっぱりな、とばかりに苦笑いした。
自分のことよりも他人のことを考え優先するその性格には
いつも悩まされるものである。
が。
「・・・・・そこが可愛いからどうしようもねぇな・・・」
「え????なんか言った?」
「いや、なんでもない」
小さく呟いた言葉に珊瑚が首を傾げたが、ぽんぽんとあやすように頭を叩かれ
弥勒の笑顔になにやらはぐらかされてしまったようだ。
「あの・・・大丈夫ですか?」
その存在を完全に無視されていた会長がそこでようやく声を出した。
「・・・・まだいたのか」
「会長!助けてくれてどうもありがとう」
どこまでも冷たい弥勒の言葉をよそに笑顔で礼をのべる珊瑚。
会長はちらりと弥勒の顔色を伺いながらも
珊瑚の姿に安堵の表情を浮かべた。
そしてなにか言いたげではあったが、弥勒には到底かなわないと
悟ったのかそのままクラブハウスから去っていった。
(引き際は心得ているようだから勘弁してやるか・・・)
遠くなるその後姿を眺めて心で呟く。
「ね、さっきも聞いたけど・・・どうしてわかったの?」
ドレスの埃をはたきながら珊瑚が尋ねた。
「そんな目立つ格好で行動してりゃ嫌でも誰かの目につくさ。
・・・・・・・そんなことより・・・」
いきなり弥勒が珊瑚を抱き上げ歩き出した。
「ひゃっ?!なっななななに?!!」
大慌てで降りようとするも弥勒の腕はびくともしない。
「こら、あばれるな!・・・・そんな足で無理するつもりか?」
「え・・・・・・」
呆れた表情を向けながらも弥勒の歩みは止まらない。
驚いた珊瑚は抵抗することを止めて、まじまじとその端整な面を見つめた。
さっきの落下の時に足首をどうやら捻ったらしく歩行が少しつらい。
でも、たいしたこともないし心配かけるのもどうかと思ったため
平静を装い誰にも気付かれないようにした・・・つもりだったのだけど。
(なんでもわかっちゃうんだね・・・・あたしのこと)
大好きな弥勒の胸に抱かれて珊瑚はその瞼を閉じた。
大きくて暖かいこの腕の中に包まれていると気分はどこまでも穏やかだ。
規則正しい彼の心臓の音もかすかに感じることもできる。
・・・・やっぱりここがあたしの場所なんだ・・・・・
会長では感じることのなかったこの不思議な気持ち。
一番安心できる場所をくれる
ただ一人の愛しい・・・・男性(ひと)
「珊瑚・・・・・・・?」
返事がない代わりにかすかな寝息が聞こえた。
毎度のことだがこうやって腕の中でいると安心するのか
珊瑚はあっというまに眠りに落ちてゆく。
「・・・ったく・・・ちったぁ警戒しろっつーの」
珊瑚の体を抱えなおしながら弥勒が苦笑いする。
時折男として本当に見られてるのか?と疑いたくなるのだ。
こうも安心されて無邪気に体をゆだねられるのもどうか・・・・
小さくため息を落とすと珊瑚のおでこに軽く口付け
弥勒はそのまま保健室に向かった。
「姉さん、大丈夫かな・・・」
大きなりんご飴をなめながら琥珀が呟く。
「弥勒君がいったから心配なかろう」
こちらはイカ焼きをほおばる父。
珊瑚のことを弥勒にまかせ二人は学祭を堪能していた(笑)
ぴぴぴっ♪
「お・・・弥勒君からのメールか。なになに・・・
『珊瑚と無事再会、軽い捻挫のため保健室にて治療。
が、ただ今睡眠中につきしばらくここで待機します』
・・・・・・これは当分帰ってきそうにないな」
珊瑚に会えたのならそれでもう心配することはない。
が、別の意味で心配なのは確かだった。
この手で手塩にかけて育ててきた大事な娘だ
嫁にいくまではしっかりと父親の自分が守ってやらねばならん。
しかしあまりとやかく言いすぎるのも大人気ないとは思う。
娘の恋愛に父親がでしゃばりすぎて嫌われるのはもっと困るのだ。
「・・・・・・今日のところは大目にみるか。琥珀!」
携帯を琥珀に差し出して父が叫ぶ。
それを見てまたか、といった顔をする琥珀。
「いいかげん携帯メールくらい覚えたらどうなのさ」
───メール受信はできても返信のできない機械音痴な父であった。
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幻の花嫁 :5