クラスメイトに強引に連れてこられた上、いきなり真っ白なウェディングドレスを
渡された珊瑚は困り果てていた。
モデルをする予定の娘が急遽風邪で休んでしまったらしく
その代打として珊瑚に白羽の矢が立ったのであった。
「こっ・・・これ着るの?!困るよ、他のじゃだめ?」
仮とはいえ婚約者のいる身である。
世間一般の若い娘なら憧れの花嫁衣裳が着れるのだから
大喜びするところだろうが・・・
珊瑚にとってはそれはやはり一生に一度の一番大切なその日のもの
そしてただ一人の人のため・・・
大好きなあの・・・・・
弥勒の面影を思い浮かべるも、次の瞬間には懇願する友の叫びでかき消されてしまう。
「お願いっ!このドレスを着こなせるのはもうあんたしかいないんだから!」
心で決心していてもきっぱりと断ることも出来ない。
困っている友人の頼みを断ることが出来ない性格も彼女の長所なのだが。
(友達のためだもの仕方ないわ・・・)
「わかった、引き受けるよ」
かすかに一つため息を落とし諦めたように承諾する珊瑚。
そのとたん友人の顔がぱっと明るくなったと思うと即座に行動を開始した。
「恩にきるわ!珊瑚、それじゃ早く着替えて支度しなくちゃ!!
メイク道具も揃ってるから念入りにしてあげるからね〜vあー楽しい」
その台詞を聞いて後悔したが後の祭りである。
そうして心底楽しそうなその友人に「念入り」なメイクを施され
にわかモデルの珊瑚が本日のメインである純白のウェディングドレスを纏う。
「珊瑚ちゃん、綺麗!」
「このまますぐお嫁にいけるわね」
袖のないシンプルなマーメイドラインの大人びたデザインのドレスは
珊瑚にぴったりでまさに彼女のためにあつらえたようであった。
舞台そでで待つ非の打ち所のない美しい花嫁に感嘆のため息をもらす生徒たち。
「えっ・・・?あっ・・・その・・・・・////」
珊瑚当人は・・・というと誉められることに慣れてない為
どう対応していいやらわからなく焦っていた。
こんな女らしくない自分でも着飾ると多少は見栄えがするのだろうか。
・・・・・などととんでもない見当違いな考えをする珊瑚は
やはり筋金入りの天然である。
一人また一人とモデルの生徒が次々と舞台に出ては帰ってくる。
十数点あった作品もそろそろお披露目が終わりつつあるようだった。
──もうすぐ・・・・自分の出番だ。
たぶん客席にいるであろう父や琥珀
そして・・・・弥勒がどんな顔をして見てくれるのか───
(綺麗だって・・・言ってくれるかな)
思いをはべらせ深呼吸する珊瑚に
友人がにっこりととんでもないことを告げる。
「ほら、パートナーがお待ちよ!しっかりね!」
「えっっ?!パッ・・パートナー?」
驚く珊瑚におかまいなく強引に舞台に押し出す。
思わず前のめりになりながらも慌てて顔を上げたときには
すでにその目の前で微笑む己のパートナーの姿。
「・・・・・・・会長・・・・・・」
反対側の舞台そでから現れたのは
びしりとタキシードで決めた生徒会長その人であった。
会長は珊瑚の姿に一瞬頬を染めたようだったがすぐに
にっこりといつもの爽やかな笑顔を浮かべる。
それから当然とばかりに珊瑚の手をとると歩き出した。
「あっ・・・?!あのっ」
「・・・・今はモデルです。
僕がエスコートしますから珊瑚君は微笑んでいてください」
さすがにモデル並・・・とはいかないが会長は珊瑚に合わせて
ゆっくりと手を引き始終笑顔を振りまいている。
やはりいつも女生徒の黄色い声を受けているだけあって慣れているのだろう。
大歓声の中会長に手を引かれながら舞台前面まで来たそのとき・・・・
珊瑚の視界に一番見てもらいたかったその人の姿が映った。
(先生!・・・あれ・・・・?なんか怒って・・・・・る?)
視線があったにもかかわらず弥勒の表情は無愛想のままだ。
そう───当の弥勒はものすごく不機嫌になっていた。
今のこの状況を思えば多少露出度の高い衣装を着てくれたほうが
どれだけましか───
弥勒は心で嘆く。
花嫁姿だけなら「綺麗だよ」で済むのだが、なにもわざわざパートナーなど
つけなくてもいいではないか。
それもよりによって珊瑚にご執心の「あの」生徒会長を、だ。
珊瑚のパートナーには後にも先にも自分しかいないのだ。
たとえそれが学祭のたわいもない発表会だとしても
彼女の横に他のやつが立つことなどこの俺が許さない。
・・・・・我ながら実に独占欲の強い男だと呆れるがな・・・
珊瑚に出会ってこんなに熱く激しい感情を知った。
どこか冷めていた自分の人生を彼女は鮮やかに染め上げてくれる。
ただ一人の愛しい・・・・・女性(ひと)。
そのとき前を通り過ぎる珊瑚が慣れないヒールのせいででつまづいた。
・・・・と、その直後素早く生徒会長がその体を支えたかと思うと
次の瞬間には大胆にも珊瑚を姫抱きに抱かかえ上げたのだった。
これには会場の全員が驚いたのだが、珊瑚自身も一体何が起きたのか
わからないままあっけにとられて目を白黒させていた。
ファンクラブのブーイングもなんのその、会長はそのまま歩き出す。
そうして呆然としている弥勒に向かって、その真の恐ろしさを知らない彼は
「ざまあみろ」とばかりに得意げな笑みを向け舞台そでに消えていった。
まさに命知らずとはこういうことをいうのだろう。
ぴきっ・・・・・・・!
とうとう弥勒の何かが切れた・・・・ようだ(笑)
・・・・・クソガキが・・・なめた真似してくれるじゃねぇか・・・・
無言でばきぼきと指を鳴らす弥勒。
───生徒会長のこの先の安否が気遣われる(笑)
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幻の花嫁 :2