───秋。
どこの学校でも文化祭のシーズンたけなわのこの季節。
珊瑚の通う高校も今日はどこもかしこもいろんな飾りつけが施され
お祭りムードで賑わっており活気がある。
珊瑚の招待を受けて弥勒達も学園を訪れていた。
「今年も楽しそうだなぁ!見て!屋台があんなにあるよ」
去年に続いて学園祭を楽しみにしていた琥珀がはしゃいでいる。
琥珀が指差した先にはクラスやクラブの出し物である
いろんな食べ物の屋台がずらりと並んでおり圧巻だ。
「学園祭なんて久しぶりです」
あちこち覗きながらちっとも先に進まない琥珀の後を
笑いながら弥勒と父の二人が続く。
「ここは学祭が派手なことで有名だから人出もすごいだろう?
さて・・・・今年は珊瑚のクラスはなんだったかな」
「大正レトロな甘味処だそうですよ、エプロンドレスがどうのと
はりきっていましたから」
パンフレットを取り出そうとする父に即答する。
随分前から珊瑚に毎日聞かされていたのだ。
準備段階からメニューまで事細かに当事者のように弥勒は詳しいだろう。
「珊瑚はちょうど今ウェイトレスの当番をしているはずです」
「うーむ、甘いものはだめだが抹茶くらいならありそうかね」
「・・・・・・あっても当分飲めないと思いますけどね」
小さく呟いて苦笑する弥勒。
今日はここの学生じゃなくても招待券さえ持っていれば
誰でも出入りすることができる。
いつもは新体操の会場でしかお目にかかれない珊瑚目当てのやつらで
クラス主催の模擬店はごった返しているに違いない。
もてすぎる恋人を持つということは気苦労が多いのである。
「そろそろ先生達着いたかな・・・・」
慌しくぜんざいやらあんみつ等を運びながら珊瑚はふふっと微笑む。
部外者を招待することの出来る唯一のお祭り行事である。
家族や他校の友達、彼氏に彼女を招待できるこの日を
みな楽しみにしているのだ。
珊瑚も年頃の娘らしく己の想い人である弥勒を待ちわびていた。
ただし表向きはただの「身内」ということになっているため
おおっぴらには言えないところがつらいのだが。
「いらっしゃいませ、何にいたしましょう?」
「///あっ・・・あの・・・白玉ぜんざいを一つ・・・」
笑顔の珊瑚に男子生徒が顔を赤く染める。
先程からやたらと他校らしき男子生徒の客が多いのはなぜだろう。
いや、自校の生徒もほとんどが男子の客だ。
珊瑚たちのクラスの出し物は「甘味処」にもかかわらず
大正風に飾り付けられた室内には男子生徒がひしめき合っている。
(へんねぇ・・・カップルとか女の子が好きそうなお店なのに・・・)
「ねぇ・・・・最近の男子ってこんなに甘いもの好きなの?」
素朴な疑問を思わず隣にいる友人に囁く珊瑚
「・・・・・・・あんたそれまじに言ってる?」
相変わらずの彼女の天然ぶりにあきれるクラスメイト。
きょとんとした珊瑚に思わず笑みがもれた。
黙って立っていると可愛いというよりもクールビューティなその容姿。
男子は勿論のこと、同じ女の子の側から見ても思わず見惚れてしまうのだが
本人にいたってはまったくそのあたりの自覚はなく、今回のこの現象も
自分が目当てのファンであふれ返っていることなどまったく知る由もなかった。
こういうところが外見に似合わず可愛いのよねぇ・・・
天性のこの鈍さが魅力でもあり珊瑚らしさでもある。
しかしここにいる恋する男性達には気の毒としかいいようがない。
「ちょっと!珊瑚いるっ?!」
相変わらず男子生徒でごった返す中を強引に掻き分けて
別のクラスメイトが駆け込んできた。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「ああ!よかった〜〜さっ、あたしと一緒に来て!」
珊瑚からぜんざいの乗ったお盆を取り上げると、その腕を掴み
引っ張っていこうとする。
「え?!ちょっと?あたしここ当番が・・・」
「それどころじゃないの!いいわね?珊瑚は借りるわよっ!!」
「了解〜」
背後で落胆の叫びが聞こえるのもなんのその
わけがわからないままの珊瑚をその友人はさっさと
どこかへ引きずっていってしまったのだった。
弥勒達が珊瑚の教室に到着したのはそれからほどなくしてのこと。
しかし模擬店は賑わってはいるものの
危惧したような男子生徒での混雑は見られない。
(おかしいな・・・・珊瑚目当てのやつらがいないなんて)
その疑問はすぐに解けた。
お目当ての当人がいないのだ。
「あっ!珊瑚のお父さんと弟さんですよね、弥勒先生もいらっしゃいませ!」
エプロンドレスをつけた女生徒がにこやかに駆け寄ってくる。
毎日珊瑚の迎えに学校へ来ている弥勒も顔見知りのクラスメイトだ。
「賑わっているようですが・・・・珊瑚はどこへ?」
聞くと同じクラスの家庭科部員が珊瑚を連れて行ったと言う。
家庭科部は今回ファッションショーと銘打って作品発表を行うらしい。
たぶんそれに珊瑚は借り出されたのだ。
彼女から場所は体育館だと教えてもらうと、三人は早々に教室を後にした。
「姉さんがモデルになったら綺麗だろうね」
姉の着飾った姿を思い浮かべているのだろう。
歩きながら話す琥珀は眼をきらきら輝かせていた。
「なにっ?!私は水着モデルなんぞ断じて許さんぞ!」
見当違いに真剣に慌てる珊瑚の父に苦笑しながら首を横に振る弥勒。
「まさか!高校で水着のファッションショーなんかありません」
父のモデル=水着という思考はいまどきどうかと思うのだが(笑)
しかし珊瑚がモデルなら水着じゃなくても文句なしに最高だろう。
琥珀は姉の、父は娘の、弥勒は恋人の。
それぞれが自慢の珊瑚の美しい姿をうっとりと思い浮かべる怪しい三人組であった。
体育館に到着した時には、すでにすごい人でごったがえしていた。
午前の部が大方終わり、ちょうど最後の家庭科部のファッションショーが
始まるところだ。
しかしそのあまりの人の多さに弥勒が怪訝な顔をする。
いくらなんでもただのクラブ主催のファッションショーに
こんなに人が入るものなのだろうか?
まさか・・・・・・・
そう───そのまさかであった。
見渡すと会場には見覚えのある自称珊瑚を守る会の会長を筆頭に
校内・校外のファンクラブであろう一団体が恥ずかしげもなく陣取っていた。
珊瑚がこのファッションショーに出るらしいということは
弥勒たちでさえほんの少し前に聞いただけである。
それなのにもうこいつらはここにいるのだ。
この情報の速さは尋常ではない。
さすがというか・・・ファンクラブを名乗るのは伊達じゃないようだ。
「こんなに混んでちゃ席がないよ、どうしよう」
琥珀の残念そうな言葉に弥勒が大丈夫とばかりにやりと笑う。
そうして人ごみの中に消えた後、しばらくすると今度はおいでおいでと手招きした。
珊瑚の父と琥珀が弥勒の元へ行くとすでにそこには
舞台真ん前の席が確保されている。
「どうしたんだ?こんないい席」
座りながらも父が疑問符を投げかけた。
「なに、ファンクラブの連中に『未来の義父と義弟を丁重に扱え』と
言ったらすぐに席を空けてくれました」
しれっと涼しい顔をして弥勒はなおも付け加えた。
「・・・・・『私の』と言うのを忘れましたが」
「そういうところは君の父親そっくりだな・・・」
父親の面影を宿しているとは常々思ってはいたが、変なところまでよく似ているらしい。
したたかというか世渡りが上手いところには妙に感心する。
「・・・・・・・プラス10点・・・というところか」
「は?????」
思わず採点してしまう珊瑚の父であった。
「あっ!始まるみたいだよ!」
琥珀の声と同時に会場の照明が落とされ、舞台にスポットライトが当たる。
クラブの代表者の挨拶が終わると、生徒の作品を着たモデル担当の
これまたここの生徒がぎこちない動きで一人また一人と目の前を通り過ぎていった。
ミニスカートがあったり胸元が開いていたり。
それなりに可愛い娘を揃えているらしく、目の保養にはいい具合だ。
モデルなどには到底慣れてない為、何人かは転ぶのもご愛嬌だろう。
しかし・・・・・
当の珊瑚がどんな格好で出てくるのか───
それが一番の気がかりな弥勒であった。
あの彼女のことだ
自分の意志に反するものはきちんと断るはず・・・・・・・が
友人の頼みを断れない性格でもある。露出度の高い衣装を着ないとは言い切れない
関係ない女生徒が着るならともかく、ここには珊瑚目当ての奴等であふれ返っているのだ。
頼むからあまり肌を晒してくれるなよ・・・・・・・・
自分以外には、だが。
弥勒の願いは「肌を晒す」という点ではかなえられたといっていい。
だが違った意味で最悪な状況になることを
この後控えていると誰が予想しただろう。
「・・・それでは最後に三年生による記念作品をご覧ください。
テーマは『純白の輝き』モデルは特別ゲストのお二人でーす!」
司会者の言葉に続いて今日の最後のモデルが姿を現した。
「うおーーーーっ!!」
「きゃぁ〜〜〜〜〜v」
男子生徒の雄たけびと女子生徒の黄色い声が一斉にあがる。
そこには黒のタキシードの生徒会長にエスコートされる
純白のウェディングドレスに身を包んだ珊瑚が・・・・・・いた。
すすむ
幻の花嫁 :1