192子から、片思いの722へ


722、いま、あなたは椅子に腰掛けPCに向かってる。
私は床に座って、あなたの膝に頭をあずけて目を閉じてる。
あなたが叩くキーボードの音が聞こえるよ。私をちっとも見てくれないで、何を書いてるの?

あなたの心は遠い国に出かけて行って、言葉の糸で風景を織りあげる。
その物語はあなたのお城。こんなに近くにいるのに、あなたは私にお城への道を教えてくれない。

私はどうしたらいいの?
このまましばらくこうしてる?それともいなくなったほうがいい?
もう少し、あなたに触れてもいい?あなたが私に触れてくれる?

あんなに会いたかったのに、あなたの顔を見るのがこわい。
もしもあなたが怒ったり、眠そうだったり、退屈な顔をしていたら、
海の泡になってしまった人魚のように、私も消えなきゃいけないから。
だから、膝に置いた自分の頬に触れるみたいにごまかして、少しだけ手を動かしてみる。
あなたは何も言わない。じゃあもう少しだけ、さわってみてもいい?

二人の体温でしめったあなたの腿を、私は遠慮がちになでているよ。
でもあなたは黙ったままだから、不安になって顔を上げた。
あなたを見上げた私の瞳は、悲しい色であなたを映しているでしょう。

あなたが触れてくれなければ、これはただの夢になってしまう。
固く閉ざされたドアの向こうから、私だけがあなたの名前を呼んでいるの。
鍵を開けるのは、あなたの魔法の言葉だけ。
一度でいいから愛してるって言って。そうすれば私は許される。
あなたを抱きしめて、何回でもキスをして、あなたのまえで、泣くことができる。

暗闇に浮かぶ私の姿を想像して。
私は裸で、グラジオラスの花を持って、あなたの窓辺に立ってる。
グラジオラスの意味を知ってる?
それは冬の湖に浮かぶ白鳥の鳴き声、怠惰な恋人たちの背中を照らす月光、
春先に渡って来た燕の舌を濡らす最初の雫。

あなたにはわかっているはず。
愛って気難しいの。愛って暴力的なの。愛って、魅せられた方に代償を求めるの。
それを受け入れることのできた時にしか、官能って訪れてくれないの。

グラジオラスの花は、その官能への入り口。
男でも女でもない性器のことなのよ。

 



2002.1.17■■

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