競馬雑記帖

NO.15  人気絶頂のフグ釣り!

「フグは食いたし命は惜しし」。命の心配をしながらも食べてみたい魚、フグ。中国では、2000年前から食べられていたという記録があり、その味のよさには定評がある。しかし、フグには青酸カリの600倍と言われる猛毒テトロドトキシンがあり、不用意に食べれば文字通り、命が危ない。

フグの種類は世界で120〜130種、その内、我が国の海域には70〜80種がいるが、釣りの対象(食用)になるのは、その内6、7種である。関東圏で釣れるフグの大半はショウサイフグだが、その他、アカメ(ヒガンフグ)、マフグ、クサフグそして超高級魚のトラフグも釣れる。

 

フグの“旬”ということになれば、やはり冬だが、釣り物としてのフグはほぼ周年楽しめる。以前(20年程前)、関東圏においては、横浜・鶴見の船宿だけが東京湾を舞台にフグ釣りの乗合船を出していただけだったが、現在では、東京湾の各地や千葉県・外房(飯岡など)などからも盛んに乗合船が出るようになった。最大の魅力はなんと言っても、その味のよさである。冒頭に紹介したように、命の危険があっても食べたいと思われる魚である。その味は絶品だ。

 

テトロドトキシンは、確かに比類なき猛毒だが、その毒はフグの身にあるわけではなく、内臓を中心に皮や鰭などにある。知識のある者が捌いたものならば、まず命を落とすようなことはないはずだ。以前、東京湾などの釣り船に乗って、釣ったフグを食べ、中毒死したというニュースを見たり、聞いたりした人もいると思うが、あれらは全て釣った本人(大半がベテラン)が、捌いたもの(肝臓=肝、卵巣=マコなどの内臓系)を食べた結果である。小生の知る限り、資格を持った船長や船宿の人間が捌いたフグを食べて亡くなった人はいない。

 

釣ったフグを処理するためには、都道府県別に発行される「フグ処理師免許」が必要になる。現在、関東圏でフグの乗合船を出している船宿では、最低でも一人は、この免許を持っており、釣ったフグは捌いてくれる。ベテランの中には、“肝”や“マコ”の持ち帰りを希望する人もいるが、船宿によっては拒否する所もある。いずれにしても免許を持った者が捌いてくれたものだけを持ち帰って食べる分には、まず命を心配する必要はないだろう。

 

さて、フグ釣が人気を集める理由だが、味のよさだけが全てではない。釣り物としての面白さも格別なのである。そして、船宿にとっても冬だけの“季節労務者”ではなく、周年楽しめる釣り物として有り難い存在になりつつあるのだ。

フグは、鳥の嘴状の鋭い歯を持っており、釣り糸など多少太くても簡単に切ってしまう。そのため、他の釣りをする人にとっては、厄介者として扱われる。ハリスを切ることなどフグにとっては朝飯前。せっかくハリに掛かった獲物のハリスを切ったり、自らハリを飲み込んで、チモトを噛み切ったりするからだ。まだ、ヨリモドシやサルカンなどの金具類、そしてハリなど海中で光るものを見つけると、見境なく噛み付き、時には、高価な道糸(PEラインなど)を切ってしまうこともある。

ところが、このフグをいざ釣ろうとすると、そう簡単ではない。フグ釣りの仕掛けは、カットウと呼ばれる三本イカリバリをつかった独特のもの。10〜30号の引き通しオモリの下に5、6cmのハリスを出し、ここに丸セイゴなどのハリを結ぶ。さらにオモリの下からもう1本のハリス(15〜50cm=釣り場やフグの大きさなどによって変わる)を出し、これにカットウを結ぶ。

釣り方は、オモリの真下に付いたハリに餌(アオヤギ、エビなど)を付けて沈め、これを食べに来たフグを下のカットウで引っ掛けるというもの。「なーんだ、引っ掛け釣りか」などと言ってはいけない。闇雲に竿をシャクッてもフグは簡単に引っ掛かってくれない。要領は餌釣りと同じく、竿先に出るアタリを見て合わせる。

 

スポーツ新聞の釣り速報欄を見ている人はお気付きと思うが、一時期を除いて、東京湾と外房のフグの釣果は、ビックリするような差がある。東京湾では、トップが20〜30尾もいけば、まあまあ好成績だが、外房では70〜80尾は当たり前、時には、束釣り(100尾以上)も記録されている。どうしてこんな差がつくのだろうか。正直言って、小生も明確な答えは分からない。ひとつ言えることは、釣り人の腕の差ではないということ。

 

外房で何度も束釣りを記録し、船の竿頭になっているような人が、東京湾のフグ船に乗り、1尾釣れないボウズになった−という話しを何度も聞いている。逆に、東京湾では、いつも3、4尾しか釣れない人が外房に行ったら簡単に束釣りを達成した−という話も少なからず聞いた。つまり、東京湾のフグ釣りは、外房に比べてとてつもなく難しいのだ。釣れるフグの種類に変わりはなく、仕掛けが大幅に違うこともない。考えられるのは、海(潮)の違いと魚影の濃さだ。外房は、比較的潮の流れが速く、そのせいか餌に対する反応が早い。結果としてアタリも明確で合わせやすいような気がする。また、魚影の濃さは外房の方が遥かに濃く、それもアタリの大きさ(ライバルが多いので餌争いも激烈)に繋がっているのかも知れない。

対して東京湾のフグのアタリは、時に餌取り名人として知られるカワハギも真っ青になる微妙さを見せる。これを合わせた時の快感は外房では味わうことの出来ないものだ。しかし、そんな東京湾でもある時期は、嘘みたいに入れ掛かりで釣れることもあるのだから、釣りというのは面白い。

 

また、これは、客観的に比べるのが難しいので断言はできないが、同じショウサイフグでも外房で釣れたものと東京湾で釣れたものでは「味が違う」(東京湾が断然旨い)と言われており、小生の個人的な意見を言わせてもらえば、「確かに!」と思うのだが…。

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