Lost Memorial
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「……! ……ム! ……スタム!! 起きろ、ロスタム!!」

 体が揺すられる感覚と、聞き慣れた声が叫んでいる。

「う……? ヒューイ……?」
「お前、ここで寝たのか? ほら、起きろよ。もうすぐ出発するぞ」
「……あぁ……」

 一見して呆れていると分かる、いつも通り魔道師のローブをまとったヒューイに言われ、 俺はのそのそと起き上がる。

「どうした? 怖い夢でも見てたのか?」

 ヒューイが俺の顔を覗き込み、ローブの袖で目を拭う。

「ばっきゃろ。そんな年じゃねぇって!」

 俺は一気に目が覚め、抵抗するが軽くあしらわれてヒューイにされるがままにされる。

「これで良し、と。急いで出かける用意をして来い。食事は歩きながら摂るしかないな。 食堂でサンドイッチでも作ってもらうか」
「おぅ……」
「ほら、早く仕度する。女性を待たせてはいけないよ。まぁ、ロスタムには分からないかもしれないけどね」
「てめぇ!!」
「あははは」

 俺のパンチを笑いながらヒラリとかわし、ヒューイは塔の中へ消えていく。

「ヒューイ!! 待ちやがれ!!!」
「悔しいなら追いついてごらんよ」

 俺は知らず知らずに部屋に誘導されてるとも知らず、ヒューイを追いかけ続けた。
 部屋の前に着いた時のヒューイの得意げな顔は多分一生忘れないだろう。
 支度を済ませて城門前に着いた時、ちょうどヒューイが食堂から俺の朝食をもらって来てくれた所だった。
 バスケットの中に詰め込まれていたのは俺が大好きなネーブルジャムサンドとハムサンド。
 うーん、さすがヒューイと調理長。俺の好みをしっかり把握してくれてるぜ。

「さぁ、行こうか。早くしないと本当に怒られてしまいかねないからね」
「了解!!」

 相変わらず空には分厚い雲。神に地上を見ることを許されなくなった太陽は、どうしているだろう。
 俺の“太陽”は、俺の隣でいつもと変わらない笑顔を見せてくれている。 そして、もう一つの“太陽”は遠くなる城壁で千切れるんじゃないかと思うほど手を振っている。
 全く、あの辺はまだガキだなぁ。

「まったく。これが今生の別れってワケじゃないのにねぇ」

 隣で“太陽”が笑う。



 俺は、幸せ者なのだ。いい女が居なくても、下っ端だろうと、俺には“太陽”が二つもある。

 だから。俺は幸せなのだ。




そう、だよな? ヒューイ……










fine...




presented by 紫龍様


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