幸せの証




宿敵奈落を倒してあたしと法師さまは・・・・・・・夫婦になった。

いろいろあったけど、今は楓さまの小屋の近くに自分たちの
新居を立て二人幸せに暮らしている。
今日は朝早くから法師さまは隣村まで法要に出かけていて留守だ。
早めに戻る、との弥勒の言葉とは裏腹にすでに日は
傾きかけていた。

いつ法師さまが戻ってきてもいいようにあたしは夕餉の支度を
早々にすませて囲炉裏に火を熾すとなべをかける。
だんだんとなべから湧き上がる、暖かな湯気と煮物の匂い。
それを感じながらあたしの心も温かくなってゆくのだ。


なんでもないことのなんでもない幸せ。

愛する人を迎える幸せ。

毎日あの人の為に過ごせる喜び。

あたしはもうひとりじゃない・・・・・・


こうやって法師を待つ夜をなんど過ごしたことだろう。
どんなに遅くなっても必ず彼はここへ帰ってくる。
ムリして帰らなくても、というあたしに法師さまは笑ってこう言うんだ。

「珊瑚と一日でも離れるのはつらいですから・・・」

それを思い出してあたしはくすりと一人微笑んだ。

「さて・・・・今晩もするかな・・・」
なべを火からおろすと、小屋の片隅から袋をもってきた。
そこから取り出すのはきれいな色の「けいと」と呼ばれる
ふわふわの糸。
これはかごめが現代からもってきたものだ。
「これで編むとあったかいのよ」となにやら二本の棒を器用に操って
みるみる布を編み上げる様は不思議な光景だった。
編み方を教えてもらい編み棒と毛糸をもらってあたしも最近
ようやく「編物」をするようになったのだ。
この「編物」、時間をもてあましたときには格好の仕事になる。
今晩も法師が帰るまでの一仕事だ・・・・・











いつのまにか編物をしながらうとうとしてしまったらしい。
ふと暖かな感触を頬に感じて思わずはっと顔を上げた。

「すまん・・・・起こしてしまったか?」

すまなそうな顔をした法師さまがそこにいた。

「ごめん・・寝ちゃってた」
法師さまの添えられた大きな手を自分の手で包み込みながら
あたしは微笑みを返した。
風穴のない法師さまの優しい大きな手のひら。
夢にまで見たその手がここにある。

「また編物をしていたのか?」
「うん・・・・だっていろいろ編んでおきたいから・・・
間に合わないと困るだろ?」

弥勒が手元に視線を落とすとそこには若草色のけいとで編まれた
ちいさなちいさな手袋があった。

「みとん・・・・・っていうんだって。ちょうど生まれるのは
真冬だからこれで少しでも赤子が寒い思いをしなくてすむよ。」

幸せそうな母の顔をして珊瑚がやさしく微笑んだ。
そんな珊瑚の表情は今までのどんなものより暖かく優しい。
弥勒の表情もつられて優しいものになる。
まだ珊瑚のお腹は目立って膨らんではいない。
本当にここに自分と珊瑚の子供がいるのが未だに信じられない気持で。
でもあと数ヶ月もすればこの世に生を受けるのだ。

俺と珊瑚の・・・・・・・風穴などない幸せの子供が。


明日を迎える幸せ。

愛する人を守れる幸せ。

いつでも珊瑚が己の腕の中で微笑む喜び。

俺はもうひとりじゃない・・・・・・


珊瑚を抱き寄せそのおでこに優しくひとつ口付けを落とす。

あたりまえの生活、あたりまえの日々、そうして・・・・・
あたりまえのようにお互いがいる。
これこそが何よりも欲しかった幸せ。

今までは二人で感じていたものをこれからは新たな希望の子供とわかちあおう。

そうして伝えてやろう。

お前は父と母の幸せの証なのだと。

俺と珊瑚の愛した幸せの証なのだ・・・・・と。






後書き

「弥珊祭」に無謀にも投稿した作品です
とにかく甘い話が書きたくてチャレンジしました
お絵かき専門の私は、小説なんて書けないよ〜〜なんて
思いながら書いたのですが、その後パラレルをあんなに
書きまくるとは誰が想像したでしょうか(笑)

これには「おまけ」のSSがありますvこちらからどうぞ




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