師走───
どこの家でもこの時期は忙しく新しい年を気持ちよく迎えるべく
大掃除や正月準備に追われている。
ここ、珊瑚の屋敷でも世間一般並に残り少ない年末の日々を慌しく過ごしていた。
「えっと・・・黒豆でしょ、きんとんでしょ、昆布巻きに・・・伊達巻き・・・と」
数種類のおせち料理とにらめっこをする珊瑚。
もう後数日で正月がやってくるのだ。もたもたしてはいられない。
実際珊瑚の手際は素晴らしく、準備には余念もないのだがなにぶん作る量が半端じゃないのでなにかと時間が掛かるのだ。
珊瑚の家族は父と弟の琥珀、加えて婚約者である居候の弥勒と自分なのだが、
家が合気道の道場をしている関係で正月からの来客の数が多い。
父は大の酒好きだし自分ももてなすことは好きな為か、年々来客数が増えているように感じるのは気のせいだろうか。
弥勒に言わせれば年頃の珊瑚目当ての不届き者が増えた、というところであろう。
「後少し料理を作って・・・っと!そうだ、お雑煮用の大きな鍋。
どこにしまったかな・・・」
台所の棚の奥を探してみるが見つからず。それもそうだろう。
十数人前の料理が作れる大鍋など、こんな狭い場所にしまってあるはずなどないのだ。
(やっぱり蔵の中だ)
エプロンを外すと珊瑚は蔵のある裏庭に向かった。
「珊瑚、障子の紙が少々足りないのですが・・・」
縁側で真新しい障子の張り替えをさせられていた弥勒がひょっこりと台所に顔を覗かせた。
しかし目当ての珊瑚がいない。台所には作りかけのおせちだけが残されている。
(屋敷のどこかにいるんだろう)
黒豆を一つつまんで口に放り込むと、弥勒は珊瑚の姿を探して台所を出て行った。
「あれぇ・・・?確かにこのあたりにあったと思ったのに・・・おかしいな・・・」
薄暗い蔵の中で珊瑚はお目当ての大鍋が見つけられずにあちらこちらを探っていた。
とにかくここの蔵には物が多い。それも先祖代々伝わってきた得体の知れないお宝?も
奥の方で眠っている。実際珊瑚はこの蔵にあるものはほとんど知らない。
多分父でさえ半分ほどしかわからないであろう。
だから鍋があるとしたら比較的新しい場所は確かだ。
それを頼りにまた珊瑚は鍋を発掘すべく棚を探し出す。
あちらこちらを珊瑚の姿を追い求めていた弥勒はようやく裏庭で
蔵の扉が開いていることに気が付いた。
そっと覗くと案の定そこにはなにかを探している珊瑚の姿がある。
最初はほんの悪戯心だったのだ。まさかあんなことになるとは・・・・
「珊瑚・・・ここでしたか。探しましたよ」
「・・・先生?どうしたの?」
尚も手を休めない珊瑚に近づきながら、後ろ手で蔵の扉を閉める。
ここには小さな換気のための小窓が高いところにあるだけで・・・
これを閉めてしまうと薄暗くなる。
ただ珊瑚の反応が見たかっただけの弥勒だったのだが・・・
「えっ!ちょっと!そこ閉めちゃダメっ!」
ギィィ・・バタン・・・・・
「そんなにいやだとは・・・大丈夫ですよ」
悪戯っぽく笑う弥勒に尚も悲痛な表情で珊瑚が叫ぶ。
「ここは中からは開かないのーーーー!」
弥勒は固まっていた。珊瑚は何て言った?
「・・・・開かない?カギは掛かってないが」
「掛かってないけど・・・・」
最初は見えなかった珊瑚の表情だが目が慣れてきたのだろう
ようやく読み取れるようになってきた。怒ったような困ったような・・・そんな顔だ。
「・・・扉の具合が悪くて・・・外から引かない限り中から開けられないんだ」
「どうしてそんな扉そのままにしておくんだ?」
弥勒がもっともな疑問を投げかける。
自分が悪戯心など起こさなければこんなことにはならなかったはずだが
それ以前の問題もあるのは確かだ。
「・・・あまり利用することもないし、蔵に行くときは必ず誰かに声をかけて
行くようにしていたから・・・」
「・・・・今日は?」
その質問に思わずうっ、と声を詰まらす。
「お父さんと琥珀は餅つきの為の買い物に出てて・・・先生は・・・・ここにいる」
思わず大きなため息をもらす弥勒だった。
「ということは俺達は暫くここに缶詰ってぇことか・・・・」
小窓があるせいで真っ暗闇は逃れてはいたが、ここから出られるのが日のあるうちとは
限らない。珊瑚の父と琥珀は暫くすれば帰ってくるだろうが,ここにいることがわからなければ
いないのと同じこと。
運の悪いことに母屋とは離れていて、家の者でもここに足を運ぶことは稀なのだ。
「とりあえず・・・なにか灯りになるものを探しましょう。
私はここを探します。珊瑚はそっちを」
「うん」
別のものを探し出すと今まで見つけられなかったものが見つかる事はよくある話で。
「あ!鍋!・・・・こんなところにあった」
最初の目的であった大鍋が見つかったものの、今度はロウソクの一本も出てこない。
暫くあちらの棚こちらの棚・・・とめぼしい場所を探っていた珊瑚は
ふと棚の奥に置かれた綺麗な和紙が貼られた箱を見つけた。
その箱をそっと手に取り丁寧に埃を払ってやる。
15センチ角のあまり大きくないそれは古い年月を物語るように色褪せていたが
箱自体は丈夫でどこも擦れたり破れたりしてはいない。
(なんだろう・・?懐かしいような・・)・
「珊瑚!ロウソク見つかりましたよ」
早速ポケットからライターを取り出すとそれに灯をともす。
薄暗かった蔵の中がロウソクの灯りに照らされてぼんやりと浮かび上がった。
「先生、煙草吸うの?見たことないけど・・・」
「ん・・・?あぁ・・・前は吸ってましたけど・・今は止めてます。
ライターはつい癖でポケットに入れてしまうんですよ」
答えながら弥勒はライターをポケットにしまう。
「ふーーーん・・・なんで止めたの?」
「それは・・まぁ・・そのほうがいいでしょうが」
「確かに健康にはいいだろうね」
「・・・・そういうことにしておきます」
そういって弥勒はにっこりと微笑んだ。
珊瑚は今ひとつ理解不能、というように首を傾げている。
「それより・・・その綺麗な箱はなんです?」
弥勒に言われて珊瑚は自分がずっと大事そうに箱を抱いていたことに気付く。
「これ?そこの棚で見つけたんだけど」
「開けてみませんか」
弥勒に促されて箱の蓋をそっと持ち上げた。
・・・・そこには小さな手巻きのオルゴールらしき物と赤いビロードの箱
そして黄ばんだ一通の封筒が入っていた。
「これは・・・・・・」
珊瑚の瞳が大きく見開かれる。