バカンスは危険がいっぱい:6



弥勒達はパトカーに見つからないように、ようやくペンションにたどりついた。



かごめの計らいもあって、弥勒と珊瑚は二人っきりだ。
弥勒が珊瑚を庇って棒を受け止めた左腕は腫れており
珊瑚がその腕に手当ての為に包帯をまいていた。





「・・・・・・ごめん・・・あたしの為にこんな・・・」
沈んだ面持ちの珊瑚に弥勒は笑った。
「なぜお前が謝る?当然のことをしたまででしょう。
しばらく痛むが、なに骨に異常はないからすぐに治るさ・・・それに」
その端正な面から笑みを消すとまっすぐな瞳を向けた。



「・・・・・・・珊瑚を守るためなら腕の一本や二本惜しくはない。」
「・・・・・でも・・・・っ」



泣きそうな珊瑚の頬にそっと手を差し伸べる。
「俺のことはいい・・・・・・・頬少し腫れるな・・・痛むか?」
「・・・・・少し・・・・」

男に平手打ちされた珊瑚の頬はわずかに青みがかかり
口の端には血の滲んだ後があり痛々しい。

「あの野郎まったくひでぇことしやがる。
・・・俺の未来の嫁さんに傷でも残ったら生かしちゃおかないところだったぜ?」



弥勒の言葉と触れる指はやさしくて・・・・・・
こんなあたしなんかで本当に・・・・・?



「あたしなんか・・・・ちっとも女らしくなんかなくて・・・だからこんなことにもなって・・・・・!」

涙が零れそうになるのを必死にこらえながら珊瑚の声が悲痛になる。



「先生にはもっと大人なひとが似合ってて・・・!だからっ・・・・」



「・・・・・・だから?」
黙って聞いていた弥勒が静かに答えた。


「・・・・・他にいい人みつけたほうが・・・・・・・・」
「いいのか?」
珊瑚の言葉をさえぎる弥勒の怒ったような声。
「え・・・・・・・」
「ほんとにいいのか?見つけても。」



自分で言い出したはずなのに、珊瑚の心は締め付けられるようだった。



他の誰かなど・・・・・許せるはずなどないのに。
あの暖かな腕に抱かれるのは自分だけ。
何時の間にかこんなにも想いは大きくて・・・わがままで・・・・





誰にも渡したくない・・・・!





尚も怒ったままの弥勒を見つめているうちに珊瑚の目から大粒の涙が零れだした。



「・・・・・・・・・い・・・や・・・・!」



搾り出すような珊瑚の囁きを聞いて弥勒はようやく表情を緩めやれやれ、と
今度はあきれた声を出した。



「・・・・まったく・・・どこからそんな話になるんだ?そもそも珊瑚が女らしくないなどと・・・
そんなことをいうやつがいたらお目にかかりたいもんだ。」



「だ・・・・だ・だって・・・・」
尚もしゃくりあげながら反論する珊瑚。

「涙で可愛い顔がだいなしだぜ?あぁ・・・もう・・こっちむけって」

珊瑚の頬の涙を己の唇でついばむと弥勒は珊瑚の傷にさわらぬよう優しくキスをした。



その優しい口付けで落ち着いたのだろう。
ようやく珊瑚は泣くのをやめた。



「誰がなんと言おうと・・・・・俺はお前に情けないほど惚れてる・・」
今度は弥勒の顔が泣き笑いのように歪んだ。







「・・・・・だから・・・・冗談でも俺から離れるなんていわないでくれ・・・」







いつも余裕たっぷりで大人のはずの弥勒のこんな姿は初めてだった。



ずっと思ってた。
この人のそばに自分なんかがいてもいいのかって。
あたしだけが彼にこんな顔をさせられるの・・・?
本当に自惚れてもいい・・・・・・?



弥勒は怪我のない方の腕をのばして珊瑚の耳元の髪をかきあげる。
そこには自分が贈った真っ赤な血珊瑚でできた薔薇のピアスがあった。
珊瑚はこれを片時もその身から離す事はなくて。


その小さな所有の証を確認しないと落ち着かない。
情けないほどの己の想い。
珊瑚のいない時間などもう考えられない。
俺は彼女を得て弱くなったのか?強くなったのか?

否・・・・・・・・その両方だろう



珊瑚の耳元に顔を近づけそっとピアスに口付ける。



「・・・・・・・・・あ・・・・・・・」
その体がかすかに震えるのがわかった。



「・・・・・・なにもしない・・・・欲しくないといえば嘘になるが」
弥勒が優しく笑う。

「流石にこの腕では珊瑚の体を抱きしめてやれないし・・・・
なによりキスひとつもままならないんじゃ・・・・・楽しみが半減するからな」
「たっ?!楽しみってなっなにそれっ・・・・!」
相変わらずそんな囁きに真っ赤になって反応する珊瑚が愛しい。

心も体も欲しくなるのはごくあたりまえのこと。
でも・・・・・・・今はまだ・・・・・



「そのかわり・・・・・・・・・」
珊瑚を片腕で己の胸に引き寄せる。
「・・・・・・・今夜はこのまま・・・・・こうしていてくれ・・・」



「・・・・・・・・・・ん・・・・・・」



ここが一番安心できる・・・・・。
珊瑚はいつもそう思う。



己の腕の中で幸せそうな笑みを浮かべる恋人に苦笑する弥勒。


「・・・・・・少しは警戒してくれないと男としてのプライドが・・・」
「え??何?」


どこまでも無防備な珊瑚を少しいじめてみたくなる。




「次は・・・・・・・覚悟するんだな。俺はもう待てない」




珊瑚の心臓は大きくどきんと音をたてた。



怖いけど・・・・・いやじゃない・・・・
ううん・・・・・そうなることを望んでる自分も確かにいるのだ。





あたしはいつでも先生のものだよ・・・・・・。





「・・・・・・・・いいよ・・・・」
「は・・・・・・・・・?」


なんていった?


「・・・・・珊瑚?」
「今度は・・・・・・・ね。」
恥ずかしそうに小さな声でそういうと弥勒の胸に顔をうずめてしまった。



まいったな・・・・・・・・・・・。



自分から安全宣言(笑)をしてしまった以上もう手を出せるはずもなく。
すでに珊瑚は己の腕の中で眠りに落ちかけていて・・・・。





眠れるわけ・・・・・・ねえよな・・・・・。





おそらく朝まで悶々としつづけるであろう己が脳裏に浮かんで
珊瑚を抱きしめながら苦笑いをする弥勒であった。



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