弥勒先生の華麗なる一日:其の7



風呂上りに台所に寄り冷蔵庫から冷えた缶ビールを一本取り出した。
それを片手に、夕涼みをかねて縁側に向かう。


今日は空気が澄んでいていつもよりも星がよくみえる。
夜空には夏の星座たちが輝いているのだが
星座なんぞにうとい俺にはどこをどうすれば形になるかなんて
さっぱりわかるはずがない。



ガキの頃は夏になると田舎でいやというほどの星空をみていたっけ
そういえばここんとこ帰ってないな
一度珊瑚を連れておじきのところにでも行くか・・・・



田舎の山寺で寺の住職をしている夢心和尚は父方の伯父だ。
飲んだくれで破戒僧だが、自分はなぜかこの和尚が好きだった。
いざというときには頼りになる不思議な和尚。

しかしあいつのおかげで俺は10にもならないうちから
酒の味を覚えたわけで、今考えるととんでもないくそ坊主だぜ
俺と珊瑚の子供には絶対近づけさせねぇぞ・・・・・!



今からそんな心配をする俺は確実に親ばかになりそうだった。





「まだ寝ないの?」
背後から声がかかる。
振り向くとパジャマの姿の珊瑚が佇んでいた。



「珊瑚こそ・・・もう部屋に引き上げたはずでは?」
「うん・・・・なんだか寝付けなくて・・・・さ」



そういいながら彼女は俺の隣に並んで腰をかけた。
そよそよと吹く風が珊瑚のほのかに甘い香りを運ぶ。
ふと見ると長い髪を高く結い上げている珊瑚の白いうなじが目の前にあった。
白く細い首筋は女性特有の柔らかさで絶妙なラインを描いている。





・・・・・・・・これは・・・ちとやばいな・・・





ここは珊瑚の家なのだ。
どこに親父さんや琥珀の目があるかわかったもんじゃない。
理性をふっとばすわけには・・・・・いかない。

己の正直な欲望をなんとか奥底に追いやって視線をそらせた。



「星・・・・綺麗にでてる・・・・」
縁側から庭に出た珊瑚が星空を見上げていた。

「田舎ならもっとたくさんの星がみられます。そろそろ蛍も飛びますよ」
「蛍・・・・・あたしも小さいときにはよく見たなぁ・・・・懐かしい」
「・・・・・・・・今度見にいきましょうか」
「ほんと!!つれてってくれるの?」



「・・・・ってきゃっ?!」
俺に向かって駆け寄ろうとした珊瑚がつまづいて倒れこむ。
間髪をいれずその体を抱きとめた。
遠ざけたはずの甘い香りが腕のなかで俺を誘う。



それになにより薄いパジャマの下には・・・・・・



「・・・・・・・・・・・・・珊瑚・・・・・・・・」
「あ・・・ごめん、あたしそそっかしくて・・・・重いでしょ」
あわてて体を離そうとするがそうはさせない。

「先生・・・・・・・?」
無言で自分を抱きしめる俺に珊瑚が小さく囁いた。
小首をかしげる様はなんともいえないほど、女を感じさせる。



これで本人は女らしくないとか平気でいうから始末が悪い・・・・



思わず苦笑しながら己のおでこを珊瑚のそれにくっつける。
両頬をそっと手のひらで包み込んで呟いた。





「はやく俺のところに来い・・・・・・」





かろうじて理性を繋いではいるがこの状態をいつまで保てるか。
自分としてはすぐにでも彼女と結婚して二人で暮らしたい。
今の俺の切実な本音だった。



「うん・・・・・でもあと少し・・・・・待ってて・・・ね」



珊瑚が恥ずかしそうに微笑む。
そして・・・・・・・



「あ・・・・先生と結婚してもここにいるんだから一緒かも」





はい?





思わず顔を上げる俺



「珊瑚・・・・・それはどういう・・・・」
「え?お父さんが先生は婿養子だからお前はここにずっといるんだって・・・」

だから今とあんまり変わらないでしょ?とあくまでも無邪気な珊瑚。



あんのくそおやじ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
いつの間にそんな話になってるんだ!?





今夜もまた心の叫びを高らかに
悩める弥勒先生の華麗な(?)一日は過ぎてゆく





結婚しても甘い新婚生活がはたしておくれるのか?







────弥勒の苦悩はまだまだ続くのである(笑)







完       おまけ編につづく



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