弥勒先生の華麗なる一日:其の4



あせる気持を抱えて俺は珊瑚の通う高校にたどりついた。
珊瑚と付き合うようになってから、ここへは特別な用事がない限り毎日のように通っている。
新体操のクラブに所属している彼女は帰りが遅い。
その為、俺が仕事帰りに迎えにいくようになったのだ。



今日もがんばってるな・・・・・・



体育館での見学は基本的には部外者は認められていないが
そこは珊瑚がコーチにうまく交渉してくれたおかげで、毎日ここにきては
終わるまで彼女の練習を見ることができる。
婚約者だとか恋人だとか言うのはちとまずいので



───俺はそのほうが都合がいいのだが



同じ家で暮らす保護者のようなもの・・・という建前で許されている。





部活の練習にじゃまにならないよう、こっそりと俺は2階のギャラリー席に向かった。

シートに座って珊瑚の姿を探す。



・・・・・・・・いた



ボールを手に演技に熱中している珊瑚がそこにいた。
何時見てもその姿は綺麗だと・・・・思う。





しなやかな彼女の肢体
のびやかな長い手足
俺の目はくぎ付けになる。





ボールやリボンを自在に操り、普段の珊瑚とは違う妖艶さを
放ちながら演技をする彼女はまさに床の妖精だ。

ふ、と周りを見渡すとこれまたいつもの珊瑚のファンクラブの面々がいる。
そいつらに



「あの珊瑚は俺のもんだ!ざまあみやがれ!」

・・・・・・と叫べたらどんなにかすっきりすることか(笑)





それでもはるかに奴らからみたら羨望の立場にいる俺は目が合った自称珊瑚を守る
ファンクラブ会長ににっこりと余裕の微笑みを返してやった。



そう簡単に珊瑚が守れてたまるか!
まぁ、確実にあいつらよりは珊瑚のほうが強いがな・・・



俺に微笑まれてうろたえる会長をほってもう一度珊瑚の方に視線を戻す。

珊瑚も俺に気づいたようで視線がぶつかった。

・・・・・・・と思った途端不機嫌そうにぷいっとそっぽを向かれてしまった。



やはりだめか・・・・・・・・



予想していたこととはいえ心にちくりと刺がささったような
なんともいえない気持ちになり思わず苦笑いをする。



ここから飛び降りて珊瑚を抱きしめたい衝動にかられる。



どうしたらわかってくれる?
この腕に抱くのはお前だけだということを
言葉が欲しいならいくらでも囁こう
抱きしめて欲しいならずっとこの腕に抱いて離しはしない



・・・・それでも



言葉なんかじゃ伝えきれない
態度だけじゃもどかしい
大きすぎる想いはこの俺を戸惑わせる───





ふと気が付くと、いつのまにか練習を終えていた珊瑚の姿はなく
あわてて俺は迎えにクラブハウスに走った。










クラブハウスのある裏庭に珊瑚はいた。
其の横には・・・・・・



「急に・・・・そんなこといわれても・・・あたしは・・・」
「今までも何度も誘ったじゃないですか?今回もだめですか?」



珊瑚と話をしているのは・・・・確か生徒会長・・・・だ。
前に聞いたことがある。

「何度か映画や遊園地に誘ってくれるんだけど・・・なんでだろ?
あんな頭もよくてスポーツもできる人気な人が、あたしなんか誘うのかな」

珊瑚が笑いながら話してくれたのがあいつのことだ。



ちっ・・・・・・・・とうとう行動にでやがったか



舌打ちをしてそろそろと近づいた。





見るからに爽やかを絵に描いたような会長は、業を煮やしたのか強引に珊瑚に迫る。
困り果てる珊瑚は断りきれずじりじりと間合いを狭まれていた。
その肩に手がかけられようとしたそのとき



「・・・・・・・俺に断わりもなく珊瑚になにをする気かな?・・・会長さん」


あくまでも穏やかに問い掛ける俺の隠された含みに
目の前の少年が縮み上がるのがわかった。
あたりまえだろう、人生のキャリアの違いだ。
伊達にこいつらより年はとってない。



「この俺と張り合おうなんざ百年早い」
「しっ・・・・・失礼しましたっ・・・・!」



青ざめた会長は顔をこわばらせたまま立ち去った。





あとに残された俺たちの間に流れる気まずい空気。










空には真っ赤な夕焼けが広がっていた───



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