「ごめん!今日だけは・・・我慢してくれるかな?」
珊瑚がすまなそうに何度も俺に謝った。
「今日琥珀がお弁当いるのを忘れてたっていうもんだから・・・・」
予定外でご飯が足りなくて・・と小さく呟く。
「いいですよ、気にしないでください。今日は食堂にしますから。」
ここに居候するようになってから、俺は毎日珊瑚の手作り弁当を持参して
通勤するようになっていた。
食堂はまずい・・とこぼした俺に、
自分の分は毎日作っていた珊瑚が一つ作るのも二つ作るのも同じだから・・・・
と頬を染めながら言い出したのだ。
それはこちらにとっては棚からぼたもち、大歓迎だった。
早くに母親を亡くした彼女は当然というべきか料理がうまい。
それも俺たち野郎が泣いて喜ぶほど煮物は絶品だ。
そんな料理上手な嫁さんを貰える俺は世界一幸せもんだと心から思う。
いや、珊瑚ならたとえ料理下手でもかまわないんだが
それはそれで可愛いからな・・・・・・・
多分しまりのない顔をしていたんだろう
思い切り珊瑚が怪訝そうな声を出した。
「・・・・・・・・どうしたの?遅刻・・・・するよ?」
「・・・・・・・・・いってきます・・・・・」
緩んだ頬を締めなおし(笑)
メットとディパックをおもむろに掴んで俺はバイクに向かった。
大概通勤の足はバイクだ。
渋滞も関係ないし、直に風を切るのは気持がいい。
珊瑚と出会う前は時折車通勤もあったのだが・・・・
女性を誘うときなんかにはそっちのほうが都合がいいわけで・・・・
・・・・・こほん!まぁそれは過去の話だ
今の俺の車の助手席とバイクのタンデムシートは珊瑚のみ。
それで十分過ぎておつりがくる、と弥勒はふっと笑いながらバイクを走らせた。
───午前中の仕事を終えて、ようやく昼飯にありつくべく食堂に向かう。
そんな俺の姿を見つけた数人の看護婦らがいっせいに近寄ってきた。
「弥勒先生?めずらしいんですね、お弁当じゃないんですか?」
「でしたら!私たちとご一緒しません?!」
嬉々として俺の両脇を固めた彼女らにまんざらでもなく・・・・
「これだけの綺麗な女性に迫られては男なら断れませんよ」
極上の笑みを彼女らに向けたそのとき───
「・・・・・・・・・・楽しそうだね・・・・・・」
珊瑚の低い氷のような声が背後から聞こえた。
心臓が口から飛び出るかと思うくらい驚いた俺は声も出ず。
そろそろと振り向くと・・・・・・
手に紫紺の包みを抱えてこちらを冷たい目で睨む珊瑚がそこにいた。
「珊瑚・・・・・・・・・どうして・・・・」
「・・・どうしてもなにもお弁当がないのはやっぱり気の毒だから
あわてて用意してこっそり届けにきてみれば・・・・・・・」
その声音がますます低くなる。
「これは必要なかったみたい・・・・・・やっぱり殺生丸先生に食べてもらお・・・」
「!!!な?!珊瑚っ?!!」
くるりと踵を返した後、最後にもう一度振り向いて冷たく一言。
「今日は迎えにこなくていいから」
「ちょっ・・・ちょっと待て・・・・」
「弥勒先生!!先生の患者さんが大変です〜!すぐきてください!!」
別の看護婦が切羽詰った顔で俺を呼び止める。
俺を引きずっていかんばかりの勢いだ。
すでに珊瑚の姿は消えていて・・・・
どうしてこうなるんだ〜〜〜・・・・・・・・
昼食は食いっぱぐれ、尚かつ愛しい珊瑚の機嫌をもそこねてしまい
半ばやけくそ気味な弥勒先生は今日も心で叫ぶのであった。
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