俺の名は弥勒。
某病院で理学療法士・・・つまりリハビリの指導なんぞを生業としている。
そして合気道7段、すでに師範の域だがそれよりも仕事のほうが数段おもしろい。
それに。
その仕事のおかげで、かけがえのない俺の人生のパートナーをみつけたのだ。
ただ一人の愛しい女性・・・・・・珊瑚を。
その俺の大事な珊瑚とは想いも通じてようやく仮の婚約を交わし。
・・・・・仮・・・・・・っていうのが気にくわないが。
珊瑚と俺は確かに出来上がった、それは間違いない。
その晩飲み明かした親父さんにも告げたのだ。
「珊瑚君をください」と。
勿論、珊瑚はまだ17で
すぐに・・・なんてこっちだって思ってない。
とりあえず婚約のお願いだけはしておきたくて。
さすが男手一つで娘を育てただけあって親父さんの娘に対する愛情は半端じゃない。
案の定、珊瑚を手放すことに難色を示してきた。
俺に対しての親愛の情は深くても、はいそうですか・・と
溺愛する娘をほいほいとはやれないのだ。
しかし。
そんなことで引き下がれるか!
いざとなったら駆け落ちでもなんでもしてやろうじゃねぇか・・・
こんな物騒な想いを感じたのかどうかはわからないが
なんとか食い下がる俺にしぶしぶ親父さんは条件を出した。
「まだ珊瑚は高校生だ。まだあの子のこの先の人生を決めてしまうには忍びない。
とりあえず卒業してからはっきりと婚約、結婚はせめて短大くらいは出てからでも遅くはなかろう?」
やんわりと俺にそう告げる親父さんのその穏やかな顔には
いやとは言わせない
と、暗に告げるなにかが含まれていて。
俺としてはすぐにでも婚約して、珊瑚をとりまく諸々の危険分子のやつらに
「俺のもの」
という烙印を見せつけてやりたかったのだが。
とにかく珊瑚を狙う野郎の数ははんぱじゃない。
私設ファンクラブだとて俺が知る限りでも3つはある。
学校でのことでも珊瑚はいつだったか言ってたな
・・・彼氏はいないのか、と探りをいれたときの返事は
「あたしなんかちっとも女らしくないから全然もてないよ?未だに告白なんかされた事もないし・・・
あ!でもやたらと男の友達は多い・・・・・かな?」
お前・・・・全然わかってねぇ・・・・
やつらはなんらかの方法でなにかしら珊瑚にアプローチをしているだろう。
が、色恋には天然とも言えるくらい疎いこいつにかかっちゃすべてが
「みなお友達」
でしかないのだ。
はっきり告白されないのはきっとそいつらがお互い牽制しあってるから。
一瞬そいつらが気の毒になったが、そこは俺の為涙を飲んでもらおう。
・・・・・・・珊瑚は俺のもんだ。
ありありとこの先なんかあったら珊瑚との婚約はないぞ、と顔に書いてある
親父さんの許可をもらい「仮」の婚約者の地位を手に入れた。
なおかつここの屋敷に居候まで勧められて。
あのとき俺は手放しに珊瑚との「一つ屋根の下」状態に喜んだのだが・・・
これはやはり監視されてる・・・・・・・?
自分の目の届くところに俺を置いておけばまかり間違っても
「既成事実」
など起こるはずもなく。
俺はもしかして・・・・・・・とんでもないことをしてしまったのか?
はぁ・・・・・・珊瑚とのばら色の日々は甘くはないってことか・・・・・・・
弥勒は天国からいっきに地獄に叩き落されたような気分で
がっくりと肩を落として大きくひとつため息をついた。
もどる すすむ