弥勒にバイクの後部にのせられて珊瑚は港のみえる小高い丘まで来ていた。
ここは大好きな海が見えるお気に入りの場所でもあった。
お気に入りの場所には大好きな人がいて・・・・・・・
いつかこんな風景を願っていた自分がいる。
そして今まさに皮肉にもそのときなのだ。
ただ・・・・・・・・そばにいて欲しいと願ってもやまない人は───
あたしのものじゃ・・・・・ない。
「いい眺めですね」
ヘルメットを片手に展望台のベンチに腰をおろす弥勒。
そうしてあたしに手招きをすると隣に座るように促した。
「・・・・・座りませんか?」
いつもの変わらない穏やかな微笑み。
・・・・・・・どうして・・・・・・・?怒ってないの・・・
尚も無言で佇むあたしに彼はそれ以上何も言わなくて。
お互い無言の時が流れてゆく。
永遠のような時間に耐え切れず、しぶしぶあたしは彼の隣にゆっくりと座り込んだ。
ただし弥勒とは反対を向いて。
その姿に苦笑しながらようやく弥勒が口を開いた。
「・・・・・・なにか私に言いたいことでもあるのではないですか?」
珊瑚の体がビクっと反応する。
「お前が黙って退院したのは私がなにか気に触ることでもしたのでしょう?」
「・・・・ちっ!違う!先生は何も・・・・!」
思わず弥勒の方に向き直るとぶんぶんと頭を振った。
「たっ退院が待ちきれなくてさ、先生に迷惑かけるのもなんだし・・・」
こちらをまっすぐに見つめる瞳に耐えられずあたしはまた視線をそらした。
「はぁ・・・・・・・迷惑だなんて思ってないのですが・・・・
しかしせっかく愛車までぴかぴかにして準備してた私は間抜けです。」
がっくりと肩をおとして大げさにため息をついてみせる。
そんな弥勒の姿にあたしは慌てて取り繕った。
「あたしなんかにそこまでしてくれなくても!大事なひとがいるのに!!」
・・・・・・・しまった・・・・・・・・
「やはり何かあるとは思ってましたが・・・・」
もう一度大きくため息をつく。
「大事な人とは・・・どういうことですか?」
こうなったら覚悟を決めて聞くしかない。
「・・・・・・・結婚・・・するんでしょ・・・・・・」
「はぁっ?!なんでそうなるんですか?」
「・・・・・・・結婚話があるって噂だよ」
・・・・・・・珊瑚の耳に入っていたとは・・・
弥勒は己の迂闊さにあきれながらもきっぱりと否定した。
「結婚はしません」
「うそ」
「うそじゃない・・・・・・・珊瑚これを・・・・」
あたしの目の前にビロードの小箱を差し出した。
「これ・・・・・は?」
開けてみるとそこには真っ赤な珊瑚でできた小さな薔薇の形をしたピアス。
「珊瑚は古来から幸福のお守りとされてきたようです。
そして珊瑚の艶やかな「赤」は生命の赤。そして・・・・・・・・」
そこまでいうと弥勒は少し照れたようにこほん、とひとつ咳払いをしながらはっきりと告げた。
「安産のお守りでもあるようで・・・将来珊瑚には丈夫な私の子供を産んで欲しいですから」
え?何ていった?
「・・・・・産む?誰が?」
「珊瑚が」
「誰の子供を?」
「私の子をv」
「・・・・・・・・・・・なんで・・・・・・?」
弥勒はベンチからずり落ちそうになった。
・・・・・・ここまで鈍いやつはそうそういねぇ・・・・・
この先もこの天性ともいえる鈍さに振り回されることを想像すると頭が痛いが
気を取り直そう。
「あ〜〜〜〜っもう・・はっきり言わなきゃわかんねぇのか!」
「なんなのよ!わけわかんないっ!!」
「俺の嫁になれっつってんだよ!!わかったか!!」
「わかったわよっ!!・・・・・・・・ってえぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ?!」
あたしは有に1分以上は固まってしまっていたであろう。
そんなあたしを先生はそっと抱き締めてくれた。
「・・・・俺は珊瑚としか結婚しない。珊瑚しかいらない。
お前だけを・・・・・・・・愛している。」
先ほどまでの空虚な心に暖かなものが広がってゆく。
弥勒の真摯な言葉と眼差しは真実のもので。
珊瑚の乾いた心に染み込んでいった。
・・・・・・・ああ暖かい・・・・あたしのものだこの腕もこの胸も。
「・・・・・・・返事は・・・・・?」
珊瑚は返事が出来なかった。
幸せすぎて体が震えるほどで。
一瞬その想いのすべてをこめて輝く瞳で見つめ返す。
弥勒はそれ以上の返事を求めなかった。
満足げに微笑むとそっとその唇に了承の口付けを落とす。
その口付けはやさしく甘くさわやかで、何度か交わしているはずなのに初めてのようで。
そうして二人してその口付けに酔いしれた。
いつまでも・・・・・・・・
もどる すすむ