ようやく足のギプスがとれたあたしは退院を目前に控えていた。
先生との毎日は楽しくて・・・・離れてしまうのは寂しくて。
でも・・・・・・・あたしは先生にとっていったい・・・・?
「珊瑚お姉ちゃんってば!」
りんちゃんの呼ぶ声ではっと我にかえる。
「・・・ぼぅっとしてた・・・ごめんね、りんちゃん。」
殺生丸先生の妹のりんちゃんはよく病院に遊びにくる。
彼ははあたしの主治医でもあるからか何度か顔を合わせているうちに、いつしかりんちゃんは
あたしに会いに来てくれるようになっていた。
今日もひなたぼっこをしよう、と誘われて他愛も無いおしゃべりをしていたのだが・・・・。
「どうしたの?お姉ちゃん、りんと一緒じゃ楽しくない・・・?」
一生懸命話し掛けていたのだろう。
りんちゃんはあたしに悲しそうな顔を向けた。
「そんなことないっ!ほんとにごめんね!あたしりんちゃん大好きだよ!!」
ぶんぶん頭を振りながらあたしは一生懸命に慰める。
何度も何度も謝るあたしに彼女はようやく安心したようだ。
「よかった〜〜〜vv嫌われちゃったかと思った!」
嬉しそうなりんちゃんはその後とんでもないことを言い出す。
「もうあたしのお姉ちゃんになってくれないんじゃないかって心配しちゃったv」
え・・・・・・・・・・?どういうこと???
あたしがりんちゃんのお姉ちゃん?それって・・・・・・
「りん・・・もう戻りなさい。」
聞き覚えのある静かな声。
あわてて視線をめぐらすと殺生丸先生が立っていた。
「下まで邪見が迎えにきている。」
りんちゃんの頭をやさしくなでてやりながらそういうと、ふっと穏やかな微笑みをその面にのせた。
そんな殺生丸先生の表情はとてもやさしい。
「近寄りがたくて怖い」といわれているようだが、あたしにはよくこんな表情をみせてくれる。
弥勒も綺麗な顔立ちだとは思ったが殺生丸の綺麗さはとても言葉では言い表せない。
弥勒が男性的なら殺生丸のそれは女性的なものだ。
でもけっして女々しいだとかおんなっぽいとかそういうものじゃなくて。
燐とした気高い美しさ。
「じゃぁまたくるね!!」
りんちゃんが笑顔を残して軽やかに去っていった。
いつのまにかあたりは夕焼け色に染まりだす。
その赤い色を頬に受けながらあたしと殺生丸先生は黙ったまま。
その沈黙を破ったのは思いがけない言葉。
「わたしは・・・・・・・・いつでもお前のそばにある。・・・・」
「・・・・・殺生丸・・・・せんせい・・・」
でも・・・・でも・・・・あたしは・・・・・・・!
悲痛な顔をしたままうつむいてしまったあたしに尚もやさしく告げた。
「弥勒・・・・・・・か・・・・わたしは無理強いはしない。
珊瑚の心は自由だ。どちらを選ぼうとも文句なぞいわぬ。ただ・・・・」
そこまで言うと少しその端麗な顔を曇らせた。
「・・・・・・・うわさ・・・だが弥勒には結婚話があるのは知っているのか・・・?」
珊瑚の体が一瞬こわばるのがわかった。
「・・・け・・・・・・こん?・・・・うそ・・・・・・・・・」
殺生丸だとていくら恋敵だからと嘘までついて蹴り落とすつもりなぞ毛頭ない。
自分は自分。
弥勒は弥勒なのだから。
珊瑚にはその言葉をにわかには信じられるはずもなく。
ただ殺生丸が嘘をついているとは思えず、その「噂」にしても世俗にうとい彼の耳にまで入っているという
事実はもはやそれは疑いようもないことだと告げていて。
あたしは・・・・・先生の特別じゃない?
甘い言葉もやさしい口付けもあたしだけのものじゃない・・・・
彼にとっては「いつもの遊び」だというのか。
そうだ・・・なにも約束を交わしたわけじゃないんだ。
いつもあたしだけ子供で・・・戯言を真に受けて・・・
・・・・・・・ばかみたい・・・・・・・・
伸ばされた殺生丸の手を無言で押し返しあたしはよろよろと歩き出す。
触れないで。
何も言わないで。
今は誰にも傍にいてほしくない・・・・・・。
そして一晩中珊瑚の涙は枯れることは無かった。
弥勒は戸惑っていた。
珊瑚は夕方からベッドにこもりきりで誰にも会わないという。
何度か声をかけたのだが、締め切られたカーテンからの返事は
「なんでもない」
の一点張りで。
どうしたんだ・・・・?珊瑚のやつ・・・
気にはなったのだがとりあえず様子をみることにして弥勒は病院をあとにした。
(明日は非番だ、昼間にまた顔をのぞきにくるとするか・・・)
弥勒はこのことを後でとんでもなく後悔することになる。
なぜなら珊瑚は次の日黙って退院してしまったのだから。
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