「弥勒先生vコーヒーが入りましたわ」
美人といえるであろう類の看護婦が、いそいそとカップを手渡して微笑みかける。
「あなたのような綺麗な人に入れてもらうと、コーヒーも格段においしいですねぇv」
臆面もなくそんなセリフをいつものごとくさらっといいながら
弥勒はそれを看護婦から受け取った。
「も〜うv先生ったら〜vv」
「あ!こちらのお菓子もおいしいですわv」
「なにいってるの!弥勒先生はこちらの方がお好きでしたよね?」
これまたいつものごとく(笑)数人の看護婦が彼の周りに集まって騒がしい。
少し前の弥勒ならそんな時間はあたりまえに楽しんで戯れの一つ二つも囁きながら
過ごすことが当然・・・・だったのだ。
だが今の弥勒の心情は顔こそにこやかにしているものの
内心はあせりと不満で不機嫌そのものだ。
(はぁ・・・・まずいのにつかまっちまった・・・はやくここから抜け出してぇ・・・・)
仕事が一段落してようやく一息つける時間ができたのだ。
最近の弥勒にとってこの時間は、何を置いても珊瑚の所へ顔を出すことを日課としていたのである。
しかし敵もさるもの、いつもいつもそうはさせじと機会を伺っていたらしい。
向かおうとした気配を読まれ、囲まれてしまい結局振り切れず、今に至る。
うららかだった春の陽気は過ぎ去り、まぶしい新緑の初夏に季節は移りつつある。
天気もいい。
こんな日は珊瑚を中庭にでも連れ出してあわよくば膝枕なんぞでお昼寝を・・・と
相手が骨折患者ということも忘れて不埒な考えをめぐらせながら
ふとなにげなく窓の外を眺めてみると。
そこには弥勒が今求めてやまない大切な、黒曜石の瞳の乙女。
・・・・・・その隣には・・・・・・・
「!!!殺生丸っ?!!」
整形の珊瑚の主治医である殺生丸医師が珊瑚と連れ立っていたのである。
なんであいつがっ?!!
・・・・・・・・それも腕を組ませてやがる・・・!
なんで車イスか松葉杖を使わないんだ〜〜〜〜!!
思わず窓に手をかけ足まで乗り出す勢いに看護婦が「ここは2階ですっ!」
と悲鳴のような声を出したので俺はかろうじてとどまった。
・・・・・・やべぇ・・・飛び降りるところだったぜ・・・・・・
あまりの狼狽ぶりを目の当たりにして看護婦たちがあっけにとられているのにもかまわずに
俺は脱兎のごとく部屋を飛び出した。
「・・・・・・・・ん?・・・・」
「どうかしました?殺生丸先生??」
あたりを見回すような仕草に珊瑚が不思議そうに問い掛ける
「いや・・・・・誰かが呼んだような気がしたのだが・・・・気のせいか」
「・・・・くすv・・・・おかしな先生」
ふわりと珊瑚が微笑んだ。
その微笑にはさしもの「クールで無口で硬派」の呼び名も高い
美形外科医の殺生丸の表情も緩む。
普段めったに笑わないこの男の穏やかな顔を知るものはそうそういまい。
そこだけ空気が違うような、そう・・・誰もが振り返ってゆくだろう。
そんなお似合いな二人・・・・の間に割り込む輩がここに一人。
「殺生丸先生・・・・確か回診のお時間では・・・・・?」
珊瑚の腕を自分のほうに引き寄せながら、笑顔を顔に貼り付けたような弥勒が佇んでいる。
「・・・・・・・そうか・・・・・悪いな」
別段怒った風も見せず殺生丸はそのまま珊瑚を弥勒に預けると
何も言わずに病棟に向かいだした。
が・・・
ふ・・・と何かを思い出したように振り向くと弥勒に向かって
「看護婦と遊ぶのもいいがほどほどにな・・・・・」
ぴきっ
(・・・・殺生丸のやろぅ・・・・・・!見てやがったのか?!)
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
なぜか漂う気まずいようなこの空気。
誤解もいいとこだぜ・・・・・・はぁ・・・・・
「・・・・・さん・・・」
「・・・・・・・・・さっさと戻れば?・・・・・・・」
表情も変えずに珊瑚は言い放つと弥勒に背を向けて歩き出す。
・・・・・・・妬いてんのか・・・・・・?
そう思うとなぜか冷たくされているにもかかわらず弥勒の顔は自然と緩んでしまい、
思わず笑いを漏らしてしまった。
「・・・・・・なに笑ってんのよ・・・・・・」
その不謹慎な笑いを聞きとめた珊瑚がこちらに向き直る。
不機嫌きわまりない、というように睨みながら珊瑚が口を尖らせた。
笑顔の珊瑚はとびきり可愛いが、怒った顔もまた捨てがたい。
この娘のいろんな表情を見られるならこういうのも悪くないな・・・・
「いえ・・・お前に妬いてもらえるとは思いませんで・・・」
「・・・・ばっ!!誰がっ?!焼きもちなんか!!」
「・・・・・・・俺は気が気じゃなかったが・・・?」
珊瑚の腕を捕らえるとその耳元にそっと囁いた。
そのくすぐったさと恥ずかしさにあわてて弥勒から身をよじると
心外だ、といわんばかりに目を剥いた。
「・・どうして?殺生丸先生はあたしの主治医だし、今日はお天気もいいから
ギプスをとってもらった後でお散歩に誘われただけだよ。」
はぁぁぁ・・・・・・・弥勒は大きく心のなかでため息をつく。
こいつは・・・・・なんにもわかってねぇ・・・・自分がどれだけ男の視線を惹きつけているのか。
実際あの仏頂面したくえねぇ殺生丸でさえ珊瑚には甘い。
そうじゃなくても珊瑚が病室から出てこようもんなら
病棟の若い野郎どもがわれ先にと群がってきやがる。
なまじっか外科病棟は元気なやつが多いから困りもんだぜ。
そうなるのを極力避けるために俺はそばにいるんだが。
「いつもそうだが・・珊瑚の面会は同級生の女子はいいとして
・・・なんであんなに野郎の団体が多いんだ?」
そうだ、毎日毎日日替わりでこれでもかと押しかけるやつらたち。
「・・・・・ん、なんか私設ファンクラブだとか・・・・・///
要らないって言ってるんだけど・・・・・・」
恥ずかしいのだろうだんだん珊瑚の声が小さくなる。
「・・・・・・・は?・・・・・・」
俺はすっとんきょうな返事をしてしまう。
なんだって???
「あたし、新体操してて・・・・なんか知らないうちにできてて・・さ・・・」
新体操・・・・その姿の珊瑚はさぞかし・・・・と想像しながらもこの先の珊瑚との
甘い日々を確保するには険しい道のりが待っていることを
痛感してしまった弥勒であった。
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