弥勒の腕に抱かれて揺られるうちに、珊瑚はいつしか心地よい眠りに誘われていた。
(なんでこんなに安心できるんだろ・・・・・・・)
先ほどの男に触れられたことは嫌悪以外の何ものでもない。
が、同じ男であるはずの弥勒のそのたくましい腕や厚い胸は、珊瑚にとってときめきこそすれ
嫌なものではなかった。
(あたし・・・・やっぱり先生のこと・・・・・・・)
今ようやく己の弥勒への想いに目覚めた娘は、そのままゆらゆらと夢の中に落ちてゆく。
愛しい彼(か)の人のやさしい腕の中で・・・・・・。
弥勒は珊瑚の柔らかな体を抱きながら、ようやく安心したような表情を認めて
ほっと胸をなでおろした。
(・・・・・ねむっちまったか)
さっきのことを思い出すと心がざわめいて今も腹ただしい。
男の下で組み敷かれていた姿を見た途端、全身の血が逆流するかのような思いにとらわれた自分。
この娘に他の男が触れることなど許せない。
できるならこの腕の中でずっと誰の目にも触れないよう閉じ込めてしまいたい。
・・・・・こんなに自分は独占欲の強い男だったのか・・・?
今まで誰とも本気の恋などしたことはなかった。
どんなに美しい女もどんなにやさしい女でも、この心の奥まで入ってはこれなかった。
女性と本気で向き合ったことなどなかったから自分のこれほどまでの貪欲な想いなど
知る由もなかったのだ。
(ある意味・・・これが初めての恋ってやつかもな)
そんなことを考える自分に苦笑しながら弥勒はようやく病棟へ帰り着いた。
案の定ナースステーションでは、担当の看護婦が抱かれて眠る珊瑚を見て何事かと
弥勒を問いただしてきたが、「ただの貧血だから」とやんわりと制してそのまま彼女をベッドに
寝かせるとそっと立ち去っていった。
珊瑚が目を覚ましたのはすでに消灯時間もずい分と過ぎて、もう少しで日付が変わるような
時刻であった。
最初自分がどこにいるのかわからず頭がぼんやりとしていたがやがて運んでくれた
弥勒のことを思い出しベッドからその身を起こす。
(あたし、あのまま眠っちゃったんだ。先生帰っちゃったよね・・・・)
もう一度きちんとお礼言いたかったのに・・・・・。
それに・・・・・・。
(お水・・・・飲んでこよう)
夕方から何も口にしていなかったがお腹は空いてはいない。
変な時間から寝てしまったからこのあとしばらく寝付けないだろう。
隣のベッドで眠るかごめを起こさないよう珊瑚はそっと病室を抜け出した。
電気の消えた廊下はしんと静まり返り、時折聞こえるのはなにかの機械の音のみ。
松葉杖も使わず壁際を伝いながらゆっくりとディルームに向かう。
もうすぐうっとうしいこの足のギプスもとれるだろう。
そうなれば退院も近い。それは待ち遠しいことなのだ。
ただそれは弥勒から離れることを考えなければ・・・・・だが。
大きなため息をつきながら頭をふるふるとふる。
考えてもしかたない。・・・・・・・ここを曲がればディルームだ・・・・・。
・・・・あれ・・・・・・・?
今自分が一番会いたかったその人がそこにいた。
ディルームのソファーに深深と腰を落とし腕を組んで眠っているようだった。
すでに仕事は終えていることを示すように弥勒のいでたちはプライベートなもので。
真っ白な綿のシャツに無造作に黒のジャケットをはおりスリムのジーンズという
見慣れない姿は珊瑚にとっては新鮮でかつ不思議な感覚にとらわれる。
(なんか別人みたい・・・・・もしかして・・・待ってたの?)
あたしのことを?・・・・いや、そんなはずはない。
たとえそうであって欲しいと思っても、彼にとっては自分はただの一患者にすぎないだろう。
特別なんかじゃない、そんなにあたしは自惚れてはいない・・・・・。
自分の都合のいい考えを否定しながらそ〜っと弥勒の隣に腰をおろした。
珊瑚が横に座っても弥勒は起きる気配がなかった。
・・・・・・疲れてるのかな・・・・・・
こんなにゆっくりと弥勒の端正な面を見つめる機会などめったにない。
きりっとしたまゆ。長い睫にすっととおった鼻筋、かたちのよい薄い唇。
今は眼鏡の奥で閉じられているがその瞳は深く澄んでいて。
女の自分がみても見惚れてしまうくらいきれいな顔立ち。
至近距離で何度か見ることもないではなかったが、いつもそれは彼に口付けをされてしまうときだ。
そのことを思い出すと珊瑚の顔は火がでるかのように真っ赤にそまる。
(いやだ!///あたしったらなんてこと思い出すのよ・・・!)
思わずうつむいてしまった珊瑚の頬になにかが触れた。
「・・・・・・・やっとお目覚めですか?」
珊瑚の頬に手をのばした弥勒がこちらをみつめながら微笑んでいる。
「!ねっ・・・寝てたんじゃなかったの?!」
「寝てましたよ、たった今までね・・・お前の甘い匂いがしたものですから・・」
いいながら弥勒は珊瑚の両頬をやさしく包み込んだ。
「・・・・・/////どっどうしてこんなとこにいるのさ・・・・・っ!」
恥ずかしさが先にたって一番言いたかったお礼の言葉がでてこない。
「珊瑚君がきちんと目覚めるまで待っていたんですが・・・
あまりにも熟睡してたんで覚悟を決めてここに居座ってましたよ。」
頬の手を離すと今度は悪戯するようにおでこをつん、とつついた。
「・・・・・・朝まで仮眠になるようならベッドにおじゃまするつもりでしたが」
「////!!!こっ・・・・この・・っすけべ・・・」
叫ぶ言葉はふいに途中で弥勒の熱い唇でさえぎられた。
その口付けは今までのものより数倍も甘くて珊瑚の体を痺れさせる。
「・・・・・叫ぶな・・・・ここは真夜中の病棟だぜ・・・・?」
柔らかな唇を最初はやさしくついばんでいた弥勒は素に戻りながらその唇を
いったん開放してやると苦笑する。
そうして離れがたいといわんばかりにさらに深く己のそれを重ねてゆく。
何度も何度も愛しむように・・・・。
いつしか抵抗をやめた珊瑚は弥勒の腕に身をゆだねていった。
このままずっとこうしていたい・・・・・
ひとつになった影はしばらく動くことはなかった・・・・・・・。
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