弥勒はノックの返事もそこそこに、はやる気持を抑えながら珊瑚の病室のドアを開けた。
「弥勒先生?」
・・・・・が帰ってきた返事は自分の期待した娘のものではなく返事の主である
かごめがこちらを見つめている。
「珊瑚君は?」
努めて平静を装いながらいつもの穏やかな微笑みを向けた。
「珊瑚ちゃんなら一人でリハビリですよ〜。
すご〜く淋しそうだったからはやく行ってあげたら?」
慌てて帰ってきたのであろう弥勒が平静を装うことがおもしろく
ついついかごめは笑ってしまう。
「・・・・・・かごめ君にはかないませんね」
潔くそれを認めてまた足早に病室を後にする。
後に残されたかごめが自分に向けて「がんばってね〜」と小さくいうのを背中で聞きながら。
リハビリに没頭していた珊瑚は男が背後に近づいてきたことに気が付かなかった。
「・・・・・・・・・珊瑚さん・・・・・ですよね」
「・・・・・・・・・!!」
いきなり背中で囁かれてびっくりした珊瑚の体制が前のめりになる。
あっ、と思った刹那男の腕が珊瑚を抱きとめた。
「あ・・・ありが・・・・」
礼を言おうと男の方を向こうとした途端、いきなり床に押し倒された。
体制をくずしていたところに不意打ちだったため受身もとれず
後頭部をしたたかに床に打ち付けてしまった。
「いっ・・・・・・・」
半分意識が朦朧とするなかで自分を組み強いている男がにやりと笑うのが見えた。
「・・・・・こんなチャンスめったにねぇよなぁ。いつもじゃまなやつがいるしよ・
・・」
頭を打ち付けているせいで抵抗したくてもできない自分が情けない。
「・・・・・な・・・に・・・する・・・・んだ・・・・・・」
その問いには答えずに男はその顔を珊瑚に近づける。
思わずそのいやらしさに目を瞑ってしまう。
(・・・・・・・!!い・・や・・・・・・・せんせ・・・い・・・!)
・・・・・・そう思った途端自分にかかっていた男の重みが消えた。
目を開けると大きな音とともに男が壁際まで吹っ飛んでいくのが見えた。
「・・・・・・・・・・・・てめぇ!・・・・・なにしてやがるっ・・・・・・・・・」
吹っ飛ばした当人である弥勒がそこにすさまじいオーラを放ちながら立っていた。
「・・・・せ・・・んせ・・・・・」
一瞬彼女を気遣わしげに見つめた後、壁際で半分のびかけている男のもとへ歩み寄ると
その胸倉を掴んで無理やり立ち上がらせる。
「いい度胸してるじゃねぇか・・・・俺の珊瑚に手ぇ出すとは・・・・」
掴む己の腕をクロスさせ男の首を締め上げて、尚も壁に押し付ける。
顔面蒼白なその男はもはや声も出ない。
「てめぇの骨折は右だったよな」
男の右足を踏みつけながら、弥勒の目がすぅっと細められ凄みをました。
「確か明日退院だったよなぁ・・・?このまま入院長引かせてこの俺がじきじきに
指導してやってもいいんだぜ・・・・?」
「・・・・・・ひっ!!!」
それだけは勘弁してくれといわんばかりに縮み上がる。
「・・・・・・・・いいか・・このままとっとと退院しやがれ。いやとはいわせねぇぞ。」
いつもより低い声が怒りを含んでいて、誰も逆らえはしないくらい今の弥勒は恐ろしい。
さんざん脅されてようやく弥勒から開放された男は、ほうほうのていでリハビリ室から
転がるように逃げていった。
男の背中をにらみつづけていた弥勒はようやく我に帰るとあわてていまだに
横たわったままの珊瑚の元に駆け寄った。
「大丈夫か・・・・?」
その背中に手を差し入れるとそっと上体を起こしてやる。
「・・・・・・・・・・」
・・・・・・声をだそうとしても何も言葉がでてこない。
先生・・・・・きてくれた・・・・・・
それまで張り詰めていたものがふっと消えたかわりに
珊瑚の瞳からあふれてくる透明なしずく。
「すまない・・・・俺がいないときにこんな・・・・」
珊瑚を胸に抱き寄せながら弥勒の面持ちが悲痛に沈む。
俺がそばにいればこんな思いはさせなかったのに・・・・・・
あんな野郎に指一本だって触れさせはしなかったのに・・・・・・!
自責の念が弥勒の胸をしめつけた。
「・・・・・・先生のせいじゃない・・・」
ようやくそれだけを告げて珊瑚は弥勒の胸に顔をうずめた。
ふっと体が浮き上がる感覚に慌てて顔を上げると弥勒が自分の細い体を抱き上げている。
「なっ?!なにを・・・・・・」
「このまま病室まで運びます。」
言いながらすでに彼の足は歩き出していた。
「・・・・・いっ・・・いいよ・・・自分で歩けるからっ・・・」
意識の方もどうやらもとにもどりつつある。なんとか自分で歩けるだろう。車イスもある。
だが・・・・・・・
「病院だから抱かれてても誰も疑わないさ。・・・・・それに・・・」
深く真摯な弥勒の瞳が珊瑚をまっすぐに捉えた。
「俺がそうしたいんだ・・・・させてくれないか・・・・・?」
そんな目で見つめられたら嫌なんていえないよ・・・
「・・・・・・・・・ありがと・・・・・・・」
珊瑚はもう一度弥勒の暖かな腕の中で瞳を閉じた。
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