釣行報告

NO.61 2年振り、秋田県・役内川水系の渓流釣り

「本当に申し訳ありませんでした!」。大型消防自動車1台、救急車1台、パトカー3台が、役内川の脇を走る国道108号線にズラリと並んだ。

2年振りに秋田県・役内川の渓流釣りに出掛けた。メンバーは、いつもの相棒・キヨシにその友人の丸ちゃん、そして剣道の達人(実は七段)と小生の4人。長老・大槻さんは、仕事のやりくりがつかず今回は欠席となった。

夕方4時過ぎ、小生と達人は、餌釣りで国道108号線脇の役内川中流域に入った。キヨシと丸ちゃんは、下流に向かった。午後6時40分の待ち合わせでキヨシ達と別れ、達人を少し上流域に入れ、小生は200m程下流に入った。

ひと流し目に餌のブドウ虫が、ヤマメに潰されたので、最初のポイントで少し粘った。しかし、結局、それ切りアタリがなく、少し動こうと上流を見ると、達人が300m程先に見えた。そこで、1度国道に出て、上流の橋まで行き、下って来ようと思い、一気に橋まで歩いた。途中、竿を振る達人の姿を間違いなく確認した。したがって、橋から下ってくれば途中で達人に会うはずだった。

 

ところが、行けども行けども達人の姿はなく、とうとう最初の入渓地点まで着いてしまった。最初は、土手でワラビでも採っているのを見過ごしたのだと思い、しばらく待っていたが、一向に現れない。国道に上がったのかとも考え、道にも上がってみたが、姿は見えない。そこで竿と道具類を入渓地点に置いて、土手の草むらを探してみたが、何処にもいない。

 

ここで俄かに心配になった。秋田への道すがら、1月に軽い脳梗塞を患い、やっと回復したという話を聞いていた。発作を起こして川に転落、下流に流された。「まさか!」。キヨシに携帯で連絡を取り、2人と落ち合ったのは6時15分過ぎ。辺りは薄暗くなって来た。

達人は、役内川は、今回が初めて。全く土地勘がないのだ。一人で別の釣り場に移動したりすることは考えられない。もしかしたら、小生が入渓地点に辿り着く前に、もっと下流まで下った可能性もあるかもしれないと、キヨシが下流一帯を“捜索”。小生と丸ちゃんは、土手の草むらに倒れているかもしれないと、もう1度丹念に探してみた。

しかし、いくら探しても見つからない。「もしや」と思い、定宿の『新五郎湯』に電話をしてみたが、案の定いないという。入渓する前に一旦『新五郎湯』に寄って荷物を下ろしてきてはいるが、入渓地点との距離は優に10km近くある。土地勘のない達人が、歩いて帰るわけがない−その時点では、そう思った。

すぐに『新五郎湯』のご主人とおばあちゃんが大きな懐中電灯を3つ持って飛んできてくれた。「万が一と言うこともある。警察に電話しよう」ということになり、おばあちゃんが電話してくれた。

 

さあ大変。最初に到着したのは、駐在所のパトカー。続いて救急車が到着、間もなく雄勝町の警察署のパトカー2台、最後に大型消防自動車までが駆けつけてくれた。

メンバー全員が“事情聴取”され、いよいよ“捜索”に掛かろうとした時、『新五郎湯』のおばあちゃんの携帯電話が鳴った。

「えっ、ウチに現れた!!」。おばあちゃんの声に全員が振り返った。キヨシが電話に出て、達人本人であることを確認すると同時に、3人揃って冒頭の文句が口を突き、土下座せんばかりに頭を下げた。

 

東京のイヤ、都会の警察なら「いい加減にせんかい!!」と、がなられるところだが、そこにいた15、16人の消防団員と警察官が、声を揃えて「よかったでねーかい」と言ってくれた。その顔は皆笑っており、2度、3度と最敬礼してしまった。

原因は、達人の勘違いだった。まず1つ目の勘違いは、集合時間を何故か5時半頃と思い込みさっさと国道に上がってしまったこと。もう1つの勘違いは、釣り場と『新五郎湯』との距離を2、3kmだろうと思ったことだ。

国道に上がって15分程待ったが、誰も現れないので、ぷらぷら宿に向かって歩いて行けば、何処かで拾ってくれると思ったそうである。しかも重大なミスをもう1つ犯していた。携帯電話を車に置いた荷物の中に入れていってしまったことだ。

 

しかし、3人共、心底胸を撫で下ろした。午後7時半を過ぎ、あたりが真っ暗になった時には、本気で最悪の事が起こったと覚悟した。10kmもの道のりを宿に向かって歩いているなど想像だにしなかったのだから。

午後8時半、『新五郎湯』に到着すると、宿の前で達人が深々と頭を下げながら向かえてくれた。「これで3人には一生頭が上がらないな」。リホームされた『新五郎湯』の温泉に浸かりながら達人がボソっと言った。

 

翌日、今度は2人1組が見える範囲で釣ろう−と決めて、役内川の上流域に入り、現場で食べるには十分なヤマメを釣った。

いつものように稲庭うどんを仕入れ、ヤマメの天ぷらを揚げて心行くまで味わって、衝撃的だった秋田釣行は終わった。

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