競馬雑記帖

NO.27 シロギス絶好調!!

シロギスと言えば、東京湾を代表する釣り物である。その昔、江戸っ子は「シラギス」と呼び、江戸前の天ぷらには欠かせない材料のひとつである。「ちょっと待って下さいよ。江戸前の天ぷらって言えば、ハゼでしょう、ハゼ」とおっしゃる御仁もいそうだが、残念ながら、ハゼは“季節もの”、そのシーズンは7月から11月に限られる。その点、シロギスは、周年、東京湾の何処かで釣れ、その味も極端に落ちることはないという優れものである。そして、もうひとつ忘れちゃならないのが、シロギス釣りに付き物のメゴチ。そう、あのヌルヌルとした小型の爬虫類みたいな奴である。ところが、その容貌に全く似合わず、これが実に旨い。

 

余談になるが、東京湾を闊歩する屋形舟の売り物は、何と言っても江戸前の天ぷら。その江戸前天ぷらの材料(下ごしらえをして揚げるだけにしてある)を各船宿に卸している業者がいるのだが、メゴチの値段はシロギスを凌ぐ。あのヌメリもあって、処理に手間がかかるということもあるのだろうが、釣り人には意外なはずだ。シロギス釣りの船で、メゴチが釣れても、クーラーに入れずリリースしている人をよく見かけるが、今後はよーくお考えを。大変そうに思える調理法も処理方法を知っている人に教われば、誰にでも簡単に天ぷら種にすることが出来る。個人的にはメゴチの天ぷらの味は、江戸前の材料の中でも1、2を争うと思っている。

 

さて、話を本題に戻そう。メゴチがいくら旨い魚と言っても、やはりそれはシロギス釣りの“外道”である。ごく一部の人たちを除き、メゴチが釣れてくれば、「ちぇっ、メゴチかよ」となる。やはり、釣り物としては脇役の域を出ることはないのである。“主役”であるシロギスは、その容貌から「海の女王」と呼ばれ、パールピンクに輝く魚体は実にきれいだ。25cmを超えれば大型と呼ばれる小型魚だが、20cmを超えるサイズになると、ぐっと幅が出て、天ぷらの材料にしても十分なボリュームになる。唇を突き出したようなオチョボ口をしており、餌を吸い込むように食べる。食いの活発な時は、簡単に釣れるが、潮温が下がり、活性が低くなると簡単には釣れなくなる。シロギスが釣り物として圧倒的な人気を博している最大の理由は、季節によって変化する釣れ方にあるのだろう。

 

ここでまた余談だが、シロギスとメゴチは、ある程度釣り分けることができることをご存知だろうか。シロギスの船に乗っていて、ある人はシロギスばかりを釣り、ある人はしょっちゅうメゴチを釣り上げるといった図を見たことがないだろうか。ビギナーは、あれを偶然と考えているようだが、実は違う。よーく見ていると、釣り方が微妙に違うことに気が付くはずだ。しょっちゅうメゴチを釣っている人は、仕掛けを入れると、ほとんど竿を動かさず、アタリが来るまでじっと待っているタイプが多いはず。それに対して、シロギスばかりを釣る人は、始終竿先をこまめに動かし、仕掛けを同じ場所にじっとはさせていないはずだ。

シロギスは、ほぼ海底スレスレにおり、下を向いて餌をついばむように食べる。そのため、動く餌にも俊敏に反応するが、メゴチは海底にベッタリとはり付いているため、動いている餌を追うのは得意ではない。したがって、メゴチを避けて釣るには、始終餌を動かしていればいいわけで、シロギスばかり釣る人は、そのことをよく知っているわけだ。

 

その昔(と、言っても昭和40年代前半だが)、東京湾には、アオギスというキスもいた。別名・ヤギスといい、シロギスよりもかなり大きくなり、30cmを超えるものも珍しくはなかった。脚立釣り(東京湾沿岸部の浅瀬に脚立を立て、その上に座って釣った)という独特な釣り方で、竿も専用のものがあり、実に人気の高い釣り物だった。食べてはシロギスには遠く及ばず、決して旨い魚ではなかったが、何故それほどまでに人気が高かったかといえば、引き味のよさだったと聞いている(小生は、残念ながらアオギス釣りの経験がない)。しかし、東京湾沿岸部の浅瀬が次々に埋め立てられ、彼らの産卵場所だった沿岸の藻場が無くなると同時に東京湾から姿を消してしまった。現在でも九州の一部と沖縄周辺には生息しているが、釣りものとして注目を集めることはほとんどない。同じキスでもシロギスのように、釣りの面白さと食べての味のよさを兼ね備えた魚ではないだけに、脚立釣りという独特な釣り方があってこその人気だったのかも知れない。その点、シロギスの人気は根強いものがある。東京湾だけではなく、隣の相模湾や外房・飯岡沖などでも非常に人気の高い釣りものとして君臨している。

 

今シーズンは、そのシロギスが絶好調である。とくに東京湾では、関東地方が梅雨に入った頃から、水深10mを切るような浅場でも釣れ出し、束釣り(100尾以上)など全く珍しくはなく、2束を超える成績も記録されている。ビギナーが入門するには絶好のチャンスだろう。

釣りはどんな釣りでも同じだが、魚が釣れなければ面白くはない。取り合えず釣りやすいものからスタートすることを薦めたい。その点、この時期のシロギスは最適だ。入門を考えている人のために、お薦めタックルを紹介しておこう。

 

「小物は道具で釣れ」−釣り格言にある言葉だが、小物、すなわち数釣りを楽しむ釣り物ほど道具が物を言うのである。誰にでも簡単に釣れるということは、どんな竿やリールでも釣れるということでもある。そのため、竿もリールも安価で適当な物を選びがちだが、少し精通してくると、そうした道具では面白くないということがすぐに分かるはずだ。感触の世界の話なので、うまく説明出来ないが、安物買いの銭失いにならないためにも最初からある程度のレベルの道具(竿とリール=共に1万円前後の物なら十分)を買うことを薦めたい。竿は長さ2m前後でオモリ負荷15〜20号程度でやや先調子のもの。リールは、PEライン1〜2号が100m程巻けるサイズがいい。竿とリールの重さにバランスの取れたものを選ぶのもコツだ。ラインは少々高い(100mで2000〜3000円)が、PEラインを奮発しよう。全くと言ってよい程伸びがなく、小さなアタリも的確に竿先に伝えてくれる。仕掛けは何処の船宿にも常備しているので、それを利用すればよい。最近では、各船宿のオリジナルも多く、実に良く出来ている。

 

さあ、今年の夏はシロギス釣りに出掛け、江戸前天ぷらの種を調達して来よう。メゴチのキープも忘れずに!

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