競馬雑記帖

NO.19 知っていそうで知らない魚達

日本近海には実に多くの魚達が生息している。それだけに「知っていそうで知らない魚」、「名前は知っているけどよく知らない魚」、「名前は聞いたことはあるが…という魚」等が沢山いるはずだ。そこでここでは、そうした魚達を紹介しようと思う。

釣り人として、自分達の楽しみの相手をしてくれる“釣魚”たちを知っておくことは、最低限の礼儀だろう。釣れた途端に「これって何て魚!」じゃ、相手に対して失礼だろう。

 

まずは知っていそうで知らない魚」から。代表選手とも言えるのが、「シログチ」だろう。大体、シログチと聞いても「それって何」と答えるはずだ。実は、シログチもイシモチも同じ魚である。和名シログチ、俗称イシモチという訳である。とくに東日本では、以前からイシモチの呼び名が定着しており、一部スポーツ紙釣面で和名表記した途端、「シログチって何だ」と問い合わせが殺到したそうだ。また、西日本のニベもシログチをひっくるめてニベと呼んでいるものだから、ますますややこしくなってくる。

 

いずれもスズキ目ニベ科の魚であり、親戚筋なのだから構わないと言えば構わないのだが…。ニベ科の魚は世界中に分布しており、その種は240を超えている。余談になるが、中華料理のコースで最後に出てくる餡かけ魚、あれは正式にはニベなのだそうだ。しかし、日本には60cmを超えるようなニベが滅多にいないので、代用としてコイが使われるようになったとか。

同じく「クロムツ」も「知っていそうで知らない魚」のひとつだろう。最近では、非常に値段が高くなったこともあり、鮮魚店やスーパーで見かけることはほとんどないが、昔は海辺の町の食堂などで定食の材料として出されていたものだ。そのクロムつが、実は半分以上がクロムツではなく、「ムツ」であることを知る人は少ないはずだ。しかし、これは、シログチと違い無理のない話。ほんの20数年前までは、学術的にも同じ魚とされていたのだから…。

ムツは最大でも40cm程にしかならないが、クロムツは60cmを超えるものもいる。それは体色がその名の通り、クロムツの方が黒いのが特徴なのだが、30cm以下の時には、ほとんど差がないので見極めは難しい。ちなみに写真の魚はムツである

 

次ぎに「名前は知っているけどよく分からない魚」。“代表選手”は「マトウダイ」か。活きた餌を好むので、活きイワシを使ったヒラメ釣りの外道として釣れてくることが多いが、日本では(NZでは、ジョンドーリーと呼ばれ、非常に人気の高い魚)、釣り物として狙うことはまずないので、その実態を知る人は少ない。

呼び名にも2つの説がある。体側の中央に的のような黒い模様があるので、その名が付いた(マトダイが変化してマトウダイと呼ばれるようになったというもの)という説と、顔が馬の顔のようなので、“馬頭”つまり“マトウ(馬)ダイ”と呼ばれるようになったというものだ。魚類図鑑などでは、後者を有力としているようだが、小生は前者を支持したい。馬の頭なら「マトウ」ではなく、「バトウ」という気がするが…。まあ、呼び名はともかくとして、この魚、最大60cm以上に育つのだ。しかもその身は白身で癖がなく、小骨もないので西洋人には好まれる。NZで大人気なのもそのせいだろう。日本人にはやや淡白な感じなのだが、ソテーにしてソース(NZではレモンソースが大人気)をかけて食べるには実に向いている魚なのである。

 

最後は「名前は聞いたことはあるが…という魚」。「イトヨリ」などはそんな魚の典型かもしれない。先日、スーパーで30cm程のイトヨリが、1尾ポツリと売っていた。すると、カミさんが、「イトヨリってこんなにきれいな魚なの。始めて見たわ。それにしても高いわね」と言っていた。たしか800何某かの値が付いていたように思う。そう、イトヨリは高い魚なのである。印象的な呼び名なので、名前を覚えている人は多いのだが、鮮魚店やスーパーでは、滅多にお目に掛かることはないので、実物を見たことがない人も多いはずだ。また、釣り物としても東京湾や相模湾で、マダイ釣りやマゴチ釣りの外道として釣れる程度で専門に狙うことはない魚。それだけにかなりベテランの釣り人でも「名前は聞いたことはあるが…」という人が多いはず。海中を泳ぐ姿が色糸をより合わせたように見えることからその名が付いたといわれるが、写真の通り、実に美しい魚体をしている。一見派手過ぎて「味の方は…」と思われがちだが、実は物凄く旨い魚である。魚類図鑑などでも「タイより旨い」などと紹介しているものもあり、味の良さは折り紙付き。小生も2、3度しか食べたことはないが、白身でコリッとしており、それでいてねっとりした舌触り…味の表現は難しいが、とにかく実に旨かったと記憶している。外道で釣れて来た時には、「熱帯魚みたいでイヤだ」等と言って捨ててしまわないように。

 

もうひとつ「キントキ」も意外と実物を見たことがない−という人が多い魚のひとつだろう。正式な和名はチカメキントキというが、“カゲキヨ”と呼ばれることもある。ご覧のように歌舞伎役者を思わせるような派手派手ないでたちの魚。色は生息場所などによって若干違うようだが、オレンジを濃くしたようなドギツイ色をしている。大きな目にしゃくれた顎も印象的で、およそ「旨そう」という印象は受けないが、これが旨い。大型(35cm級になる)のものは刺し身でもいけるし、小型のものでもタタキや煮付けで旨い。大きな群れを作る魚で、千葉県・外房地区や伊豆方面などで専門の船が出ることもあり、イトヨリに比べれば出遭うチャンスは多いはず。釣れる時は、サビキ仕掛けでズラズラと掛かってくる魚なので、乗合船が出たら1度釣ってみてはいかがだろう。

 

そして、番外をひとつ。キャリアのある釣り人なら、ほとんどの人が知っていると思うが、最近では随分と少なくなってしまった魚がいる。「タカベ」である。今でも伊豆・新島では、“塩タカベ”といって、盛期にとったものを冷凍にしたお土産があるくらいだから、、全くいなくなってしまったわけではないが、外房や伊豆方面では随分少なくなった。以前はイサキよりもポピュラーな魚(以前はイサキの方が値段が高かったが、今では逆転している)だっただけに、昔を知る釣り人には、「最近、見かけなくなった魚」のひとつに数えられそうだ。

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