競馬雑記帖

NO.18 正念場の釣り船業界

平成15年4月、待望の『遊漁船業法』が施行になり、釣り船業はそれまでの届出制から認可制へと移行した(正式には半年間の猶予期間があったため、10月1日をもって施行)。これにより、それまで3万3,000余軒の届け出があった釣り船業者は、10月1日現在、1万4,000余軒に激減した。これまで漁の片手間に客を乗せていたような兼業船は、費用も手間もかかる認可を受けず、事実上釣り船は廃業したわけだ。したがって、今回認可を取った1万4,000余軒の船宿が、現在の日本の釣り船業者の実数ということになる。

 

釣り業界全体では、20年ほど前からあらゆる分野が急成長、一時は全体で3500億円を稼ぎ出す業界だったが、数年前からまさに“バブル崩壊”、レジャー産業の中でも際立つ不況に見舞われている。2002年度の業界全体の“稼ぎ”は2000億円を割るに至り、釣り具メーカー、大規模小売店、釣り雑誌関係の出版社などの倒産が相次いだ。さらに一昨年あたりから船宿の中にも廃業するところが目立ち出している。そんな時の『遊漁船業法』施行だったこともあり、予想を遥かに下回る数(当初2万軒前後は残ると予測されていた)の船宿しか認可を取らなかった。

船宿業はまさに正念場を迎えることになり、これまでのようにスポーツ新聞や釣り雑誌に情報を載せていれば、漁業を遥かに凌ぐ収入が得られる−などということはなくなるだろう。すでに一部の船宿では、数年前から危機感を持ち、広告、宣伝などに費用を捻出するなどの“企業努力”を始めている所もある。今後は、さらに競争は激化、「漁をしているよりお客を乗せている方が楽」といった安直な考え方の船宿は淘汰されていくはずだ。

 

現在、各船宿の集客方法は、スポーツ新聞釣り欄、各釣り雑誌、釣り新聞、ネット(自社ホームページ、委託)などだが、この内、最も集客力が高いのがスポーツ新聞である(少なくとも今のところは…)。

各スポーツ新聞に釣り欄が掲載されるようになってざっと30数年になるが、当初、新聞社としては、新規読者獲得や釣り関係の広告掲載に結び付くといったメリットがあったため、各紙こぞって釣り欄の充実を図った。しかし、前記したように業界全体が下降線を辿るようになると同時に釣り関係の広告も激減、最近では、盛期の数分の1(3分の1から5分の1)にまで落ち込んでいると言う。それに伴い、各紙とも釣り面の縮小に取り組み、釣果速報こそほぼ毎日掲載されているものの、いわゆる“特集面”は、週2、3面になり、現在、週7面を維持しているのは、関東地区では1紙のみである。今後、スポーツ新聞では、釣り面の縮小がさらに進むことが考えられ、集客をスポーツ新聞に頼りきってる船宿は衰退を余儀なくされるだろう。

 

しかし、日本人は、世界的に見ても異常と思える程に釣が好きな国民であり、文部科学省のレジャー白書では、常に2000万人以上が「釣りが趣味」と答えている。この数字は鵜呑みにはできないものの、コアなファンだけでも900万人前後は確実と思われる。釣り業界の衰退は事実ではあっても、今もところ釣り人口そのものが減ったというデータはどこにもない。つまり、釣りそのものが衰退したのではなく、別の要素(主に経済的なもの)が原因と考えてよいだろう。高くなり過ぎた釣り具や釣り船の乗船代金も大きな要素のはずだ。

 

現在、釣り船1隻の造船代金は、安いものでも5000〜6000万円、少し装備を充実させると8000万円、1億円という価格になる。これに燃料費、そして人件費などを考えれば乗船代金が高くなるのは無理もないのだが、世の中全体でデフレが叫ばれ、物の値段が大幅に安くなっている時に、船宿業界だけは「我関せず」を貫いてきた。言わばそのつけが回ってきているのである。

 

釣り業界は変わる。と、言うよりも変わらざるを得なくなる−と考えている。西洋諸国において、釣り(特に船を使った釣り)はゴルフを凌ぐハイソサエティーな遊びと位置付けられており、費用もゴルフの比ではない。我が国でも沖釣りの世界は徐々にではあるが、“西洋化”の傾向が現れており、現に乗合船の料金(最低でも7000、8000円、1万円を超えるものも少なくない)を考えると、平日のゴルフ場よりも高くつく場合も少なくない。

 

そうした現状を背景にして業界内でも営々努力している企業などでは、むしろ業績が上がっている所も出てきている。つまり、釣り船業は、これまでのような「漁師の副業」といった色合いを無くし、真のレジャー産業として新たな時代に突入すると言うことだと思う。それについていけない釣り船店は、業界から退場せざるをえなくなるはずだ。

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