競馬雑記帖

NO.16  つくられた偶像、ハルウララ

高知競馬の106戦0勝馬、ハルウララ(牝8歳)が異常な人気を集めている。106連敗目には、中央スタージョッキーである武豊騎手が騎乗、高知競馬場始まって以来の大フィーバー(早い話が大騒ぎ)となった。当日は中央との交流レース「黒船賞」(1着賞金3000万円)が行われたが、同レースの売り上げが、2億円と少しだったにも拘らず、ハルウララが出走した10R(1着賞金11万円)は何と5億円を超える売り上げがあり、同馬の単勝だけでも1億2000万円も売れたそうだ。いずれも1レースの売り上げとしては、同競馬場のダントツ記録だそうである。

 

しかし、ちょっと冷静に考えてみればハルウララは、全く特別な馬ではない。日本では、年によって若干のバラつきはあるものの毎年5000頭近くのサラブレッドが“生産”されている。その内、一体何頭が勝利をものにすることが出来るかと言えば、中央、公営含めて概ね2000頭である。残る3000頭近くは1勝も挙げることもなく、我々の知らない内に“処分”されてしまうのである。デビューして2、3年以内に1勝も挙げることが出来ない馬は、特別な事情がない限り中央競馬で走ることは出来なくなる。

 

公営競馬では、未勝利のままでも走り続けることは出来るが、それには厩舎関係者と、何よりも経済的負担を強いられる馬主の“理解”がなければ不可能なのである。ハルウララが106戦走って稼いだ総賞金は106万5000円也。1戦1万円である。これでは、彼女の“食費”もでない。それどころか、少なくとも毎年100数十万円の負担をしなければならないはずである。つまり、彼女が106回も走り続ける事が出来たのは、馬主と厩舎に恵まれたからに他ならない。

 

    

悲しい話だが、サラブレッドは経済動物なのである。走らなければ、“処分”されてしまう運命にあるのだ。その数、年にざっと3000頭と言うわけである。稀な馬主と調教師に恵まれた結果が生んだ連敗記録なのである。

    

不景気、リストラ、世界情勢の不安等々…彼女が人気を集める理由は分からなくはないが、所詮造られた偶像でしかないのである。「イワシの頭も信心から」彼女の存在は、まさにそんな気がしてならない。

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