競馬雑記帖

NO.3  今年も夏の福島に“旅打ち”!

昔ながらの“競馬狂”にとって、夏のローカル競馬場は大きな楽しみだ。競馬場自体は、一流馬が休養に入るのと勝ちあぐんでいる未勝利馬中心の番組になるので、決して充実したものではないのだが、1泊2日、あるいは2泊3日で気の置けない仲間同士で遠征(これを称して“旅打ち”という)するのがいいのだ。

 

今年も飯坂温泉1泊の「旅打ち」に出掛けた。6月5日の土曜日、東京駅、午前6時44分発の東北新幹線に乗った。指定席は全て満席、しかし、いつもの年と何かが違う。その理由は、新幹線が那須塩原駅に到着した時に分かった。何と乗客の半数近くがそこで降りてしまった。例年なら、土曜日早朝の東北新幹線は、大半が我々同様“福島競馬場行き”なのだが、今年は違った。家族連れやゴルフ組のグループが半数近く占めていたというわけだ。

 

午前8時43分、定刻通り福島駅に到着。例年なら、タクシー乗り場に向かって駆け出すグループが必ず居るのだが、今年は皆のんびりと歩いている。同行者の一人、120kgの巨漢、通称・ブーが、「話には聞いていたが、本当に人がいねえな」と呟いた。ホーム下の蕎麦屋でそばを啜り、改札口に向かう頃には、回りに誰もいなくなったのだ。
  タクシー乗り場、誰も並んでいない。「本当にどうしちゃったんでしょうね。日本経済も沈没寸前ということですか」。もう一人の同行者、40ウン歳の独身男、通称・邪道馬券師が脳天気にほざく。

いよいよ一年ぶりの“旅打ち”のスタートである。友人のスポーツ新聞競馬担当者に手配してもらったネクタイ着用が義務付けられている(いかにも田舎風。失礼!)“来賓席”にも人は疎らだ。そのせいか、もうひとつ気分が盛り上がって来ないが、目の前で馬が走り出した途端、「差せー!」、「そのままっ!」と絶叫大会。競馬はこうでなくっちゃいけない。しかし、馬券は当たらない。
  9時55分に函館の1レースがスタート、続いて10時に福島競馬場の1レースのスタートが切られた。とにかく忙しい、函館競馬と福島競馬のスタート時間には5分から10分のタイムラグがあるのだが、福島競馬の枠入りに時間がかかったりすると、このタイムラグが“命取り”になる。福島競馬の馬券を取られ、ボケーッとしていると、たちまち函館競馬の絞め切りベルが鳴る。何も両方買う義務はないのだが、3人とも馬さえ走っていれば、未勝利戦だろうが、障害戦だろうが、とにかく馬券を買わなければ済まない面々。マークカードを塗り散らかして廊下をバタバタと走り、田舎のオジさんたちのひんしゅくをかった。

この日の函館競馬、午前中は石のように堅く、3連複の最高配当が3020円、第2レースの3連複を的中させたが、配当はなんと460円。

「先週の日曜同様(3連複万馬券ゼロ、最高配当6320円)、函館は今週も堅いぞ」。ブーと二人でそう思い込んだのがこの日最大の間違い。昼休み明けの6レース、いきなり3連複で4万5430円の大穴が飛び出し、続く7レースも3連複1万4880円の万券、その後も9レースで3連複1万7980円、12レースでも4万1340円と荒れに荒れた。

 

福島競馬、勝負をかけたメーンレース、中心に狙ったコスモフライト(3番人気)は、8着に沈み、12番人気のフィールドスパートが勝ち、2着にも9番人気のタカラサイレンス、3着には5番人気のマチカネホクシンが入り、馬連6万4550円、馬単、13万2130円、3連複に至っては、21万3250円の超万馬券、これでは手も足も出ない。
  「明日がある、明日がある」。呪文のように繰り返し、早々飯坂温泉に向かった。一晩の内に3回温泉に浸かり、気分を一新して午前9時30分に競馬場に到着。邪道馬券師が、競馬場正面にある銀行ATMに並び、小生とブーは「うーん、手持ちで賄う」とうめくように呟きながら、函館競馬第1レースがスタートした。

この日は、日曜日のためか“来賓席”は、前日よりも随分賑やかだった。それでも空席がかなり目立ち、満席にはほど遠い状況。しかし、そんなことはどうでもいい。まずは昨日の負けを取り戻さなければ…。
  この日は、福島も函館も前半戦は堅かった。3連複も福島第3レースで1万3220円の万馬券が1本出ただけで、それ以外は3連複の配当は全て5000円以下、両競馬場の第6レースが終了するまで何本か的中させたが、“取りガミ”が相次ぎ、資金は目減りする一方。そんな中で函館、福島、阪神の3競馬場のメーンレースを迎えた。 福島のメーン、ラジオたんぱ賞、小生の本命は4番サウスポール。4コーナーまで軽快に逃げ、ゴール前50mでもまだ先頭、猛追してきた11番ヴィータローザ、14番クレンデスターンへの馬単は共に勝負馬券、このままゴールすれば、「昨日の負けを取り戻し、土産代が出る」と思った瞬間、サウスポールは急激に失速、アッという間に2頭にまとめて交わされてしまった。このレースに限り、3連複は遊び馬券(4・14固定で人気薄に5点)しか買っておらず、1万1230円の3連複馬券4・11・14は持っていなかった。

呆然としている間に函館のメーン、函館スプリントSがスタート。中心に期待したタイキトレジャーが馬群に沈み、万時休す…と息消沈しているところで阪神のメーン、米子ステークスのスタートが切られた。小生の本命は1番オースミコスモ、対抗は9番エイシンハリマオー。この馬連配当は40.4倍。「これが来ればまだ何とかなる」。そんなことを思っていると、4コーナーで先頭に躍り出したのは、11頭立て8番人気のキタサンチャンネル。「あ〜あ」。絶望の声を上げたが、そのままキタサンチャンネルが先頭でゴールイン。オースミコスモは3着、エイシンハリマオーは2着だった。
  「うっ」。その時突然思い出した。確か1・9固定で3連複の総流しをしていたはず。ポケットを探ると1・4・9の3連複馬券が確かにあった。3連複配当3万3990円也。昨日の負け分までは無理だったが、この日のマイナスはチャラになった。
  そして福島の最終レース、小生の本命、4番ダイワエッセンスは4着に沈んだものの、対抗の6番アキノコーヨー、単穴の16番イットウリョウダンが1、2着に入り、馬単3810円も仕留め、いい気分で帰路に就くことが出来た。

 

同行者の“戦果”。ブーは「藤代三郎調に言えば全治1ヵ月」、朝方ATMに並んだ邪道馬券師は「全治1.5ヵ月」、小生は、後半の僥倖で「全治10日程度」で済んだ今年の“旅打ち”だった。

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