- 1日目 -


 さて、無事に朝4時半に起きた私は、たらたら支度をし、成田エクスプレスの車内で食べるマフィンをカバンに入れ、途中のコンビニでコーヒー牛乳を買って、睡眠不足の割には元気に池袋駅に向った。やや早めに着いてホームで待っていると、ほどなく旅の友 W がやって来た。
 私が海外旅行に行く時に、いつも一緒に行ってくれた旅の友 W。彼女も今や一児の母で子育ての真っ最中なのだが、会社勤めをしていたころは二人して色々な所へ出かけていた。私達は、もちろん別々の人間であるから、それなりに違う性格をしているのだが、同じくらいの経済状態で、同じくらいの体力のなさで、同じくらい面倒くさがり屋で、同じくらい写真を撮るのが好きで、同じくらいハイになりやすく、同じくらい食い意地がはっていた。こういう部分の価値観が似ていると、旅行の時は楽なのである。特に香港の場合、食に対する執着度の低い人(例:うちの母)と行くと悔いを残すことになる。 W ちゃんは、また、タイガーバームガーデンのような、ヘンでカワイイ物に愛情を抱くところも、私と似ていた。
 予定通り「3時間しか寝てない話」を延々やっているうちに、成田エクスプレスがホームに入って来た。いつもは日暮里からスカイライナーなのだが、この時は奮発してみたのである。私達にとって成田エクスプレスは「ワン・ランク上」の交通手段であった。よく考えてみれば高いというだけで、すごく早く着くわけでもなく、おまけに池袋発は本数が少ないなど別にいいこともないのだが、当時の私達は、いい年してて中味がガキだったので、早速記念撮影をした。そして、ガキらしく「朝ごはんは東京駅過ぎてから食べようね」などと決めていたのである。

 この日の飛行機はキャセイ・パシフィックの 509便、9時50分発の早便であった。このツアーは行き帰り、それぞれ3便ある選択肢の中から好きな便を選べたので、1日目の午後から遊べるように一番早い便にしたのだ。キャセイ・パシフィックは、CI 活動で深緑に赤い線、白い毛筆で跳ね上げたような例のシンボルマークを使い始めた頃だったと思う。飛行機のペイントも古いパターンのと、新しいのと二種類あった。新しい方(現行)のマークと色はなかなかお洒落だと思う。
 お楽しみの機内食であるが、写真(角度が悪くて見にくいが)のメニューは「スモークサーモンの前菜サラダ 牛のヒレステーキ・ワインソース添え パスタ パク・チョイ パンナ・コッタ ロール バター 飲み物 チョコレート」。あまり記憶してなかったのだが、95年にパンナ・コッタなどというハイカラなものが出ていたとは、ちょっとびっくりである。あの頃からあったんだっけ。しかし、機内食のメニューって、どうして肉の付け合わせに二つぐらいついている人参や、パンにつけるバターまで、いちいち列記するのだろう。いいんだけど。

 香港啓徳空港着は2時前。ホテルまで現地係員に送ってもらって、ひと休みしても、まだ夕方。充分、散歩できる。ホテルは九龍側のオムニ・ホンコンで、スターフェリーの乗り場に近く便利だった。
 さて、部屋に入ったところで、早速、カード会社のツアーデスクへ電話である。この時の私達はいやに用意周到であった。あらかじめ飛行機の中で、どこで食事をしたいか意見をすり合わせ、今晩と先二日分のレストランを決定。で、あらかじめ予約をいれてしまおうということなのだが、自分達で各レストランに電話するのは面倒だし、話が通じるかどうか不安だから、ツアーデスクに全部やってもらうことにしたのである。これまで、カード会社のサービスなんてロクに使ったことはなかったのだが、これは、とても楽ちんでよかった。ツアーデスクのお姉さん(日本人)に、レストランの名前を言って、「ここを明日の夕方、ここはあさっての昼に予約して下さい。じゃ、お願いしまーす。」とお願いしておいて、後は、折り返し電話が来るのを待つだけ。手数料もとられない。果たして、20分ほど待ったら、ツアーデスクから「全部とれました」との電話が入った。これでオッケーである(こういう手回しの良さが、仕事ではなく旅行の時に発揮されるところが、しょうもないのだが)。

 その日の夕ご飯は、早速、水上レストラン・ジャンボへ。香港島へスターフェリーで渡り、アバディーンまではタクシーに乗った。着いてみると夜の8時だから周囲は真っ暗、どういう場所なのかよくわからなかったが、暗い水の上には、とても船とは思えない、四階建てぐらいの建造物がライトアップされて浮かんでいた。ガイドブックで見たまんまである。
 岸から出ている送迎ボートでレストランに近付くと、これがまた、ライトアップ以上に装飾過多な、ゴテゴテ・キラキラの世界。東照宮の陽明門もびっくりである。内装もセクション毎に壁の模様が違うし、色合わせも派手派手でやりたい放題。うーん、これが香港なのだね。ついついハイになって、写真を撮りまくった私と旅の友 W であったが、ひとしきり騒いだ後、そういえば食事をしに来たのだということを思い出し、受付に向ったのであった。
 肝心の食事は、あまり考えずに、チャーハンとか鳥の唐揚げとかオーソドックスなものばかり頼んだが、これがなかなか、おいしかった。「水上レストランは観光客向けだから、味はたいしたことない」という話をよく聞くが、別にそんなこともなかったように思う。
 ああ、昨日の今頃は、寂しいオフィスでお腹をすかして数字とにらめっこしていたのに、今日は竜宮城で中華を食べてお腹いっぱい。旅の幸せをかみしめた一日目であった。


(水上レストランは一度は行ってみる価値あり。ご飯を食べたら、ゆっくり船内を探検してみましょう。壁を見ているだけでも飽きませんし、「魚鑑賞コーナー(いけす)」があったりして楽しめます。左は散歩中に見つけた業務用のお茶入れ。右から菊花、プーアール、水仙、香片、寿眉茶が入っています。ガメてもばれなさそうでした。ちなみに、このコーナーの壁紙は「ジャンボ」の壁の模様を一部拝借して、単純化したものです。オリジナルの配色は壁が真っ赤、龍がオレンジ、口から吐いている水が白、プラス水色の水しぶきと、足下にエメラルド・グリーンの波でした。想像してみて下さい。)