バリ日記 7(6/Sep/01)
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●最終日
 楽しかったバリ旅行も、今日でおしまいである。ウブドに移動してからは、なんだかあっという間に時間が過ぎてしまった。

 プール・サイドで最後の朝食を食べながら、出発までの計画を立てる。といっても、要は昼ご飯をどこで食べるかという話で、私が、アユン川渓谷の眺めがよくて有名らしいホテル「クプ・クプ・バロン」に行きたいと言うと、タミコもそれでいいというので、コンシェルジュに予約を入れてもらうことにした。昨日のサイクリングで行きつけなかった「棚田ビューポイント」方面にあるホテルである(地図)。カマンダル・リゾートから空港へのピックアップ時間が4時なので、昼食後はネカ美術館で絵を見てまったりすることに決めた。

 例によって朝食に起きたのが遅かったため、昼食までの時間が中途半端だったし、ウブドの「素敵なお家」とも別れ難いしということで、昼食に出るまではホテルにいることにした。
 タミコが「せっかくなのでエステ行こうかと思うんだけど、コシバ、行かない?」と言ってきたが、私はどういうわけかそういうのに関心がないというか、金を使う気がない人間なので、即座に「行かない」と断った。
「えー、行こうよう。」
「いいって。だって、私、普段、そういうとこ行きつけてないし、仮にキレイになったとしても、どうせ長持ちしないような気がするし。」
「私だって行きつけてないけど、でも、こういうとこ来ると、みんな、やるみたいだよー。」
「みんな、って誰?」
「……オーエルは、みんな、やるみたい……」
 オーエルとしてのアイデンティティがかかっているなら、なおさらである。「アンタは、せっかくだから行ってきなさい。私は、いい。部屋で寝てるか、その辺で写真撮ってるから。」と言うと、タミコは私を巻き込むのを諦め、スパに予約の電話を入れた……のは、いいんだが、なんでか一番短い30分コースなんか頼んでいる。
「何、そんな短いのにしてるのよ? 時間はあるんだし、せっかくだから、一時間とか一時間半にしなよ。」と言ってみたが、ふんぎりがつかないらしく、「今日は、とりあえず、このくらいで様子見る。」と、なぜだか弱々しく笑うのであった。肝試しじゃあるまいし、何を躊躇しているのだろう。

 エステに向ったタミコを見送り、私は写真を撮りに出かけた。
 庭の写真を何枚か撮った後、ホテルの外を少し散歩した。ホテルを出て少し行った先は小さな集落で、ガイドのマデさんが言っていたように集会所があったり、独特な様式の住居が並んでいたり、頭に物を載せた人が歩いていたりで、今さらながら「ああ、外国だ!」という実感がひしひし感じられる場所だった。それでいて、側溝のある路地はどことなく日本の田舎道を思わせる雰囲気もある。
 歩いてみると、側溝にヒヨコが落ちててピーピー鳴いているし、門の前にはやせ犬が寝ているし、ニワトリが前を横切るしで、なんだか色んなものが眼を引くのであった。
 シャッターを切りまくっていると、ある家の門の前に出ていた女の人と眼があって、ニッカリ笑われた。そこの家はキオスクというか雑貨屋だった。彼女は英語を少し話せて「そこのホテルにいるの?」と話しかけてきた。中に入ってもいいわよ、と言うので、お礼を言って入れてもらった。こちらの家は塀で囲まれていて通りからは中が覗けないので、ちょっと見てみたかったのだ。
 その家の中庭には、二つ、壁のない東屋のようなものが建っていた。一つは居間なのか休憩コーナーなのかテレビが置いてあって、ウズベキスタンの中庭にもこういうのがあったことを思い出した。もう一つの中央にあるものは、たぶん、ヒンドゥーの神話か何かのタペストリーが飾ってあって、宗教的な意味があるのだろうと思ったが、説明を聞いてもよくわからなかった。あと、前から気になっていた、草葺き屋根のついた灯籠のような、祭壇のような物もいくつか並んでいたが(これは塀より高いので、通りを歩いていると頭の部分だけポコポコ見えるのである)、これも説明がわからなかった。地べたには、お供え物が置いてあった。
 写真を撮らせてもらっていたら、お婆ちゃんやら、娘やら、旦那やらがいつの間にか出て来ていた。皆、話をしたそうなのだが、英語がわからないので会話にならず、お互いに何か適当なことを言って、ニコニコ笑い合うしかなかった。それから、お婆ちゃんが木彫りの花と象の置き物を持って来て、「私が作った」と言い出した。ああ、こういうのを観光客に売ってるんだなあと気付いたものの、象は持って帰るには邪魔なので、「いらないか?」と言われたが「いらない」とお断りしてしまった。が、向こうから誘われたとはいえ、無遠慮によそ様のお宅の写真を撮りまくったお礼ぐらいはするかと思い、お店で水とお菓子とスイカの切ったのを買って、テリマカシ(ありがとう)を言っておいとました。
 暑かったので、それほど長くは歩かなかったのだが、それまで、ずっとホテルかショッピング街にしかいなかったので、普通の人がいる所をちょっと覗けたのは楽しかった。

 部屋に戻ってスイカを食べていると、タミコが帰ってきた。「どうだった?」と聞くと、「うーん、なんかね、いきなり知らない人の前で服を脱ぐのって恥ずかしいね。」という感想だった。そういうものなのか、エステって。私が、よくわからずに妙な顔をしていると「いや、エステシャンは女の人だったけどね。」と、フォローだかなんだかわからんことを言うのだが、全体的にタミコの話は要領を得ず、結局、気持ちよかったのか、そうでもなかったのか、どっちだろうと思っていると、タミコは話もそこそこにバスルームに向うのだった。どうして?と思ったら、最後に頭に何か塗られたので流さないといけないんだとか。そんなことは、向こうでやってくれないのだろうか? ということで、エステのことはわけがわからずじまいだった。


●クプ・クプ・バロン
 名残惜しいが、ウブドの素敵なお家ともこれでお別れである。といっても、現地ガイドのマデさんが夕方空港送迎のためにピックアップに来るのはここなので、また帰ってはくるのだが。
 さて、フロントで大きい荷物を預かってもらい、コンシェルジュに呼んでもらった車に乗ってクプ・クプ・バロンホテルに出発である。昨日、ギア調節のできない自転車で往復した道を、今日は車ですいすい走る。王宮を過ぎ坂道を登って、昨日、私が挫折したポイントまでは、車でもそれなりに時間がかかっていた。タミコに「この辺までは来たんだよ」というと、「うわ、それは、すごいわねえ」と呆れていた。
 そこからちょっと行くと、クプ・クプ・バロンがある通りに出る。右折して、少し行った所にホテルの看板が出ていたと思うのだが、そこからのアプローチがものすごい薮道だった。道幅は車一台ギリギリいっぱい、両脇から何かの茂みがバサバサと覆いかぶさり、しかも直線でない。バックミラーに写る運転手の顔が苦笑いになっている。「これ、向こうから車来たらどうなるの?」と言っていたら、本当に車が出て来たのには笑ったが、途中に対向車やり過ごし用のスペースがあって何とかなった、ような気がする(あまり覚えていない)。意外に長く、くねっている野趣溢れる小道をわさわさと進み、ようやっとホテル前のちょっとしたスペースに出た時には、思わず拍手が出てしまった。
 そんな奥まった所にあるクプ・クプ・バロンは、静かな隠れ家風の雰囲気が好印象だった。車寄せからフロントへ上がると、何でだか誰もいなかった。通りがかったスタッフらしき人が気が付いて、係を呼びに行ってくれた。レストランの場所さえわかれば、別に自分達で行けばいいだけなのだが、なんだか、フロントの雰囲気が静かでよい感じなので、ベンチに座ってぼーっとさせてもらうことにした。
「うーん、こういう所も静かでいいねえ」
「自然に埋もれてるって感じだね。しかし、ウブドはいいホテルがいっぱいあるねえ。」実際に見たのは2つだけなのだが、あとは推して知るべしというか。
 ぼーっとしていると、別に急ぐでもなくフロント係が出て来たので、レストランに予約を入れていると言って案内してもらった。フロントを出て、右手の階段に降りたとたん眼下に渓谷の緑が広がり、思わず、うわ、と声が出た。少し降りた脇がレストランだ。ああ、これは眺めいいわあ……。窓際のテーブルに案内してもらった。いや、窓はなくて柵だけでそのまま外。下にちょっとした植え込みがあり、その先はもう斜面である。はるか下方に、わずかに白くアユン川が光っている。

 見渡す限りの緑を眺めながらの食事に二人とも大満足だった。料理もとてもおいしかった。おいしかったのだが、なぜか、すぐにお腹ががいっぱいになってしまい、ウェイターが魅惑的な微笑を浮かべながら「デザートはいかがいたしますか?」とせっかくきいてくれたのに、断らざるを得なかったのだけが残念だった。
 時々、渓谷の底の方からかすかに、きゃあああ、という悲鳴が聞こえてきた。ラフティングをしているらしい。次来た時はやろうかね、などと話しつつ、店が混んでいないのをよいことに、もたれ気味の胃がこなれるまで座らせてもらっていた。


●あとは帰るだけ
 食事の後は、ネカ美術館でゆっくり絵を見ながら時間をつぶし、三時過ぎに迎えに来た車に乗って、いったん、カマンダル・リゾートに戻り、ガイドのマデさんを待った。
 4時に、相変わらず愛想のいいマデさんが迎えに来た。空港までは、もう一組の日本人カップルと一緒だ。彼らの希望で、空港に行く前に大きいショッピング・センターに寄ることになったらしい。実は、そのためにウブドからの出発時間が早くなったようなのだが、まあ、いいか。
 空港へ行く道は、前にヌサ・ドゥアからウブドへ来る時に通った道とは違い、ウブドの中心、モンキーフォレスト通りを抜け、そのまま南下していったような感じだったが、そこの景色がとてもよかった。ガイドブックには「棚田は北部」と書いてあったようだが、南側の田んぼも、平たんではあるが広々としてきれいだ。ところどころで乾かしたヤシの葉で作った背の高い鳥除けがたくさん並んで揺れていた。
 途中の街で、ハチマキをしてサロンを着た男達を 2, 30人だろうか、荷台いっぱいに載せて走っているトラックを目撃した。隙間なくびっしりと荷台に立っているハチマキ男達は、別にどうということもない様子でニコニコ談笑している。そういえば、こういう男満載トラックを、昨日のサイクリングの時も見かけた。タミコが「あれ、いったい何なんですか?」と聞くと、「寺院にお祈りに行くんでしょう」とマデさん。なるほど。
 道中は、その後も石細工をいっぱい売っている街が出て来たりして、なかなか楽しかった。今回の旅行では、存分に寝て食べてタラタラして、それはとても優雅で楽しかったのだが、次に来ることがあったら、町や村歩きもしてみたいなあと、ぼんやり思った。もう少し長期で来たいものである。
 連れてこられたショッピング・センター(その時は興味がなかったので名前を覚えていなかったのだが、どうも「プラザ・バリ」らしい)はとても大きく、当たり前だが品揃えが豊富で、区画分けも商品の陳列も整然としており、効率よく土産物の予備や買い忘れを補充するにはもってこい……というわけで、まだ、買うのかタミコ。
 かくいう私も、現地通貨が半端に余っていたので天然素材のシャンプーとリンスのセットを買った。ホテルのアメニティのようなかわいいセットで、パッキングがそのままでお洒落なので、誰かにあげてもよさそうだ……とは思ったが、結局、自分で家で使ってしまった。
 買い物時間が終わり、今度こそ空港へ。私達が買い物をしている間に、マデさんは空港カウンターでチェック・インをすませ搭乗券をもらってくれていた。こちらのガイドさんというのは、皆、こう、ソツなく働くんであろうか。たいしたものである。
 ということで、お世話になったマデさんとも、ここでお別れである。さようなら。
 さっさか出国審査が終わると、搭乗までにはまだまだ時間があるのだが……ここにあるのは、またしても、免税店。タミコはさっきの店で買った物をこちらの受け取りカウンターで受け取らないといけないので、どっちにしろ、しばらく待ってないといけない。適当に店をひやかして、「ココナツプリンの素」を買ったりして時間をつぶしていたが、つぶしきれないので、結局、ショボいマクドナルド・コーナーに入った。
 ぼーっとアイスコーヒーを飲んでいると、館内 BGM で聞き覚えのあるガムランと笛のメロディーが聞こえてきた。私が適当に買った CD に入っていた曲だ……と思っていたら、タミコも気付いたらしい。
「コレって、アレだよねえ?」
「うん、私が買ったやつだね。」
「売れてるんだ。」
「……どうなんだろ。そういうことかな。今週のガムラン・チャート一位、とか……。」
「こうして聴いてみると、なかなか、いいね。気がゆるむわー。」
「そうだね。ま、よかったら家に聴きにきな。」
などと、どうでもいい話をしながら、なんとなく拭きが足りない狭い机に肘をついて、おなじみのポテトをつまんでいると、いかにも旅の終わりの倦怠感が増幅されるのであった。

バリ日記はこれでおしまいです。
更新ペースがなんともアレでございましたが、
最後までおつきあい頂きまして、
どうもありがとうございました。

コシバ・ヤヨイ
 


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