バリ日記 1(1/Sep/01)
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 「いいホテルに泊まって、うまいもん食って、キレイな景色を見て、だらだらしたい」という欲求にそのまんま従い、バリに行くことにした。
 今回の旅の友は大学時代からの友人タミコ(思いっきり仮名)。某企業のベテラン・オーエルで、毎日帰りが11時だとかいう、たいへんな働き者である。だから疲れている。私はフリーターであるが、基礎体力がないために常になんとなく疲れている。ということで、疲れた女同士でバリでひと休みしようという、しごくまっとうなリゾート旅行である。

●出発
 出発に至るまでの7月末から8月中、当初の予定では暇にしているハズが、どういうわけか出稼ぎや単発バイトのオファーがひょこひょこ入った。これは「ここでひと稼ぎしてバリでゼイタクするがよい」という神様の思し召しと解釈した私は、いずれも断らず比較的せっせと働いた。とてもありがたい状況ではあったが、一方で、インドネシア語の自習や観光ガイドの予習をする時間がとれず、旅行気分を盛り上げる間もなく、あれよ、あれよという感じで出発日を迎えてしまった。ま、リゾートで食っちゃ寝するのに予習も何もないといえばないけれども。
 というわけで、9月1日。朝4時半起きで朝食をとり、片付け、ゴミ出しなどをして家を出たら、東京駅に6時に着いてしまう。成田エクスプレスは7時半発。いつものことだが、むちゃくちゃ早すぎである。駅内をうろうろするが、食べ物屋もキオスクも開いていない。自販機で缶コーヒーを買ってホームのベンチに座り、ガイドブックを読みながら時間をつぶしていると、なぜかタミコも7時ちょっと前に登場。大きめの Tシャツにストレッチパンツ、ツバが張り出したキャップを目深に被り眼鏡をかけた恰好は、なにやら人目を忍ぶ芸能人チックである。5月に銀座で夕飯を食べながらツアーの相談をして以来なので、彼女に会うのもえらく久しぶりだ。旅行中の仕事の引きつぎで忙しく、ずーっと残業続きだったとか。よしよし。疲れているからこそ楽しいリゾート。行って、存分だらけるがよい。かくいう私も、前一週間、人並みに働いたおかげで、ほどよく疲れたよいコンディションである。
 成田エクスプレスで、うとうと寝ながら空港へ。それにしても、久しぶりに乗って思ったのだが、成田エクスプレスって、どうして対面シートなんだろう。それも狭くて、前の人と膝くっついちゃうし。これで料金高いんだから嫌になってしまう。
 成田第二ターミナルに着き、旅行社からの案内通り集合 G カウンターへ。そういえば、ここから団体客として出るのは久しぶり。というか、もしかしたら初めてかもしれない。なぜだか、今まで第一ターミナル発のツアーばっかりだったのだ。うーん、かってがよくわからん、と思ったものの、G カウンターには、ちゃんとうちのツアー名が出ていて一安心。航空券と日程表、バッジを受け取って、今度はチェックインのために航空会社カウンターへ移動。JAL 側入り口のエックス線検査の行列がディズニーランド並みに長く「ひえー、これ何時間待つんだろう…。」と一瞬青ざめたが、幸い我々が乗るガルーダ航空のある側には、それほど人がおらず、スムーズにチェックインできた。
 パスポート審査の前にタミコは虫よけとフィルムと機内で飲む水(エコノミークラス症候群対策である)を購入。それから、二人とも早起きして食べた朝食がすでに消化されてしまったようなので、喫茶店で軽く食べて、いきなり一休み(くたびれやすい年頃なのである)。それから、たらたらパスポート審査を通過して搭乗口へ向った。

●飛行機に乗る
 搭乗を待つ間にタミコは眠くなる薬を服用。飛行機ギライなので、飛んでいる間は眠っていたいのである。彼女がベテラン・オーエルの割に海外旅行に行っていないのは、飛行機ギライのせいもあるのだろうと思う。旅行自体はキライでないらしく、誘えばのってくるものの、飛行機に乗る時には、毎度毎度、言わずもがなの「落ちないかな−、大丈夫かな−」を連発する。そう言われて、どう答えていいものやら私はいつも困ってしまう。「絶対、落ちっこないって」と言ってあげればいいものを、なぜか「まあ、100 パーセント落ちないとは言い切れないけど、たぶん、これは、大丈夫よ」とか「何に乗ってても死ぬ時は死ぬのよ。歩いてても、寝てても死ぬ事はあるんだし」といった中途ハンパなことしか言えないのである。「電車より飛行機の方が事故率は低い」という話を聞いたことがあるので、何度かそう言ってみたこともあるのだが。色々言っているうちに、どうして自分が心静かに飛行機に乗っていられるのか、わからなくなってもくる。あんなものが飛んでいることの方が不自然なのだから、恐いと思う方が人間のリアクションとしては正しいのではないか、などと思ってしまうのである。私自身は飛行機に乗るのがかなり好きだったりするが、それでも、離着陸の10分ぐらいは、いるかいないかわからない神様に祈っているし、無事着陸するたびに、一応、心の中で「ありがとうございました」と言っているのだ。まあ、ありがとうは、神様というより、パイロットに言うべきかも知れないが。



ジャカルタの空港
電話コーナーもおしゃれ
 タミコは、そもそも心配性な人である。何か不安材料がある場合、私などはたいがい見ないフリ、気付かないフリでやり過ごしてしまうのだが、タミコは、それを指差し確認してしまうタチだ。そんな彼女の性格は、例えば、エレベーターが来てドアが開いた時に、エレベーターの箱部分とホール床の隙間の暗闇を、わざわざ覗きこんで「これ、下までずーっとあいてるんだよねー」とコメントするところ(本当である)にも現れているように思える。
 それは、ともかく、機内に乗り込む時に、「落ちないよねー?」などと声に出して言うのはまずいと思うので、本人には、私以外の人のことも考えるようにと念のため注意して、搭乗した。
 ガルーダは二人とも初体験。感想は、まあ、普通である。スッチーさんの制服は悪くないし、愛想も悪くない。機内エンタテイメントのイアホンが聞こえなかったとか、水が欲しくて、いくら呼び出しボタンを押しても誰も来てくれなかったとか(水を買って入ったタミコは賢明だった。私も次からそうした。)、機内食のメニューがなくて口頭で「鳥か魚か?」と聞かれただけだった、とかいうのは、全て些末なことである。その機内食だが、鳥を選んだら、サテ(焼き鳥みたいなの)と甘いココナツライスが出て、なかなかおいしかった。
 幸い、機中、全く揺れず、タミコも「全然、揺れないねー」と一安心。私はここぞとばかり、「そうでしょー、東海道新幹線のほうがよっぽど揺れるわよー」と、飛行機のカタを持っておいた。すまん、東海道新幹線。
 途中、ジャカルタの空港でいったん降機。この空港がとてもキレイで感動。さりげなく現地風の建築、内装といい、熱帯植物のおいしげる庭といい、すでにリゾートの香りがただよっている。サテライトもホテルのラウンジのようだ。「まあ、こんなステキな空港、今まで見た事ないわ!」ということで、タミコと二人でいきなりハイになってしまう。私は、ここで写真を10枚も撮った。ついでに、両替もしておく(その時つけたメモによると、1ドル 8300 ルピアとなっているのだが、よくわからない。ともかく、ちょっとお金をかえても、0のたくさんついたお札がたくさんもらえるのだ)。売店で厚めの「えびせん」のような菓子と水を買い、再び、同じ飛行機に乗りこんで、いよいよバリである。

●バリ到着
 ングラライ空港に到着。この空港については、荷物が出てくるのが遅かったという以外、特に印象はなし。ジャカルタで既に夕刻だったので、ここに着いた時には外が暗くなっていた。迎えがどこに来ているのか、わからぬまま外へ出ると、いるわ、いるわ。現地風のハチマキやらサロンやらを巻いて、フダを持った旅行社の男達が、わんさとひしめいている。こりゃ、見つけるの大変だわー、と不安になるが、なんとか私達の名前が書かれたフダを持った男を発見。「ハロー」などと声をかけてみると「こんばんはー」と返される。おや、日本語かい。もう一組、同じツアーのカップルを待って、バンに乗って出発した。
 ガイドさんは、マデさんと言って、なかなか感じのよい小柄な兄さんである。そして日本語をよく話す。時々ちょっとヘンな所もあるが、言っている意味は全部よくわかる。語学学校とかに通ったのではなく、自習と日本人の友達に教えてもらっただけというから、たいしたものだ。そして、車中では助手席から、ずーっと私達のいる後方へ首を曲げて説明しっぱなし。よく酔わないものだ。旅程のことだけでなく、チップなどの習慣、両替、ご飯がどこで食べられるか、免税店がどこにあってシャトルバスにどうやって乗るか、電話のかけ方、買い物時の値段交渉の仕方、お土産は何がいいか、何をして遊べばいいか、などなど、ありとあらゆることを、ほとんど休みなく話し続けていたような気がする。お疲れさまである。
 そうこうしているうちに、ヌサ・ドゥア・ビーチの割れ門を通過し、ほどなく私達が泊まるグランド・ハイアットホテルに到着。カップルさん達は別のホテルなので、我々だけ先に降りる。
 グランド・ハイアットは想像以上に立派なホテルであった。広くて、解放感のあるロビー。この手のリゾート・ホテルによくある、屋根だけあって壁がない、素通しのエントランスである。まわりを蓮を浮かべた池で囲んでいる。ぼーっと見とれていると、ホテルスタッフが寄ってきて、白くて、いい香りのする生花の首飾りをかけてくれた。そして、歓迎のドラがどぉーんと鳴らされる。こういうの、慣れていないから、ちょっとこっぱずかしいのだが、ま、ともかく、チェックインである。チェックイン・カウンターから少し離れたソファ席に座らせてもらう。私達は用紙の必要箇所に書き込みをし、サインをするだけで、後は全部、マデさんにおまかせである。天井でゆっくり回る扇風機やら、机の横の象の置き物やらに見とれていると、民族衣装のサロンを着たお姉さんが、おしぼりを持って来てくれた。
 「うーん、もてなされてるって感じだねえ。はっきり言って、私、今まで、こんなにいいホテル泊まったことないよ。お金、出したかいがあったってものだわねえ。」などと、感想を述べる私に、タミコも「ランク・アップしてよかったでしょー。うちの会社で、前、ここに泊まったっていう子がいて、よかったって言ってたのよ。」と満足げである。実は、もともとのツアー設定はこのホテルではなかったのを、タミコが独自に(ホテル選択の設定があったわけでもないのに)旅行社にランク・アップを頼んで変更したのである。このあたりは、なにげに、さすがオーエルという感じである。
 マデさんが、手続きを終えてカギやら何やら一式持ってきた。ウブドへの移動日の出発時間を確認し、今日の所はこれでお別れである。私は人の顔をすぐに忘れるので、次に迎えに来てくれた時、気まずい思いをしないようにと、さりげに彼の横顔を観察してみたのだが、これといった特徴がないので、向こうがこちらを覚えていてくれることを期待することにした。
 案内係に連れられて、部屋に入る。部屋もなかなかステキである。白タイルの床は涼しそうだし、ベッドもツインで、充分広い。タミコは、ベランダ脇のカラフルなクッションをいっぱい並べたソファー・コーナーが気に入ったようだ。テーブルにはフルーツバスケット。どうせ食べないのだが、雰囲気作りにはかかせないものである。バスルームは、バスタブ横が窓になっていて、開けて部屋を見ながら入ることができるようになっていた。実際、そんなことやるかどうかは疑問だったが、とりあえず、着衣のまま窓を開けてバスタブに入り、部屋側から記念撮影というのはやっておいた(現像してみたら予想通りのマヌケ図であった)。洋服掛けに用意されていたバティックのガウンもおしゃれだ。しなしなと肌触りがよかったので、もしかしたら絹だったのかもしれない。

ラウンジ。昼間はこんな感じ。
 ひとしきり写真を撮ったり、荷物を広げたりした後、ホテルの素敵さに浮かれた私達は、外が真っ暗なのにもかかわらず庭の探検に出発。さすがに暗いのと、あらかじめ配置図を見ていなかったのとで、どこをどう歩いたのか全然わからなかったが、庭がとても広いことと、プールがにょろにょろと長いことが確認できた。ぐにぐに曲っているから全長 100 m 以上あるだろう。明日は平泳ぎで五往復ぐらいはしてやろう、とプール派の私はこぶしをぐっと握りしめた。ビーチにも出てみた。暗闇で見る黒い海は、距離感がつかめないためか、どこまでも続いているようには見えず、室内の「波のプール」のように十数メートル先が壁になっているみたいな、何だか変な感じだった。まあ、どんな海なのかは、明日になればわかるだろう。タミコは、どうせ寝椅子で爆睡だから、どんな海だろうがあまり関係なさそうだが。
 半ば迷いながらエントランス・ホールに戻り、せっかくだからというのでラウンジでカクテル(といってもフルーツ味のミルクシェイクみたいなやつ)を飲んで、まったりしてから、部屋に戻って就寝。明日は早起きして、人が出てこないうちに写真を撮りに行くことにしよう。


 バリ日記 1(1/Sep/01)
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