◆ 小さな嫉妬 ― 009の場合 ― ◆
by: 坂崎ようれ様(ようれわーるど


パリから再びブラックゴーストの基地を探すべく、進み出したドルフィン号。
003は009と皆のコーヒーを入れていた。
「あらいやだ、コーヒーがあまり残ってないわ」
「あとどの位残ってるの?」
「そうね……三・四人分くらいかしら。悪いけど、皆に言って来てくれないかしら?」
「うん、分かった」
そう言って009はやかんに並々水を入れ、火にかけてから台所を出ていく。
003はテーブルの上のトレイに10個のカップを並べていく。

操縦室に向かう途中、002とすれ違う。
「003、台所か?」
「? うん、そうだけど?」
「ありがとな」
009は立ち止まり、002の背中を見る。
(……)
009は早く台所に戻ろうと操縦室へ急いだ。

「おい、003。俺のコーヒー、砂糖多く入れてくれよ!」

台所へ顔を覗かせる002。
「あら、002。009に会わなかった?」
「会ったけど?」
「実はあまりコーヒーが残ってないのよ。でも、あなたはコーヒーがいいわよね?」
「ああ」
003は002のカップにコーヒーを入れる。
「やだ、砂糖もないわ。もう、006ったら……」
そう言いながら、砂糖が入っている棚に手を伸ばすが届かない。
002が003の隣まで行くと、代わりに取ってあげる。
「ほら」
「ありがとう、002」
003が礼を言う。002は腕を組んで話を続ける。
「俺はどうもコーヒーだけは砂糖を多く入れないと飲めないんだよ。どうも変に苦味を感じるんだよなぁ」
そう言って009が用意した菓子をつまみ食い。
「うふふ……改造された後に初めて会って、皆でお茶した時もそう言ってたわね。『俺はコーヒーに砂糖がないと飲めないんだ!』って」
「ああ。004に『ガキみたいなこと言うな!』って怒られたなぁー」
そう言って二人の思い出話に花が咲く。

「おい、003」
002が真面目な表情で言う。
「何?」
「お前、これからあんまり一人で行動するなよ」
「? どうして?」
普通に聞き返す003。002は大きなため息をつくと、少し怒ったように言う。
「『どうして?』って――お前なぁ……自分がどういう状況になったか覚えてないのか!?」
003はパリでの幻覚騒動を思い出す。
「あれは……反省してるわ。だから大丈夫よ、もう」
「お前が反省したってブラックゴーストは何してくるか分からないんだぞ! 今回はたいした幻覚じゃなかったみたい だから良かったものの、またやられたらどうするんだ?」
002の真剣な表情に003は視線をそらす。
「いいか? お前が思ってるほどブラックゴーストは甘くないぜ。サイボーグとは言え、お前は俺たちとは違って攻撃重視じゃないんだ。それにお前は女だ。奴らがその気になれば、お前なんか簡単に――」

「それは差別だわ!」

003が叫んだ。
「女だから何? 私だって皆と同じサイボーグよ! 男も女もアイツらには関係ないわ!!」
「だけど、事実、そうじゃねーか! だいたい、お前一人で戦ったことがあるか!? いつも誰かと一緒じゃねーか!?」
002は言ってから「しまった」と思った。

003は唇を噛みしめ、零れそうな涙を堪えていた。

002は頭をかきながら、次の言葉を選ぶ。
「……悪りぃ」
003は何も言わない。ただ、じっと床を睨んでいた。

009は一部始終を台所の外で聞いていた。
あまりに二人が仲良く見えたので、中に入れずにいたのだ。

002の言ったことは009も思っていた。
003はスパイ型サイボーグ。自分たちより戦闘能力が劣っているのは当然のことだ。
そこをブラックゴーストが狙うのも、ある意味、当然だった。

003の気持ちが痛いほど伝わって来る。
『女だから』――それは彼女にとって禁句[タブー]だ。

009はどうしたらいいか分からず、じっと立っていた。
こんな状況なのに、なぜか002がうらやましかった。
(何を考えてるんだ、僕は……)
002と003が仲良く見えたから?
言いたいことを素直に言い合ってるから?

別に皆が003と仲がいいのは構わない。009は最後に作られたサイボーグなのだから、皆より003と出逢った時間が遅いのだから。
でも、それはそれで009には胸にひっかかる何かがあった。

(別に僕と003がどうってワケでもないのに……)
そうは思っても、その理由は009自身では見つからない。

ピー……と鳴るやかんのけたたましい音によって、三人とも我に返る。
003は無言のまま、キッチンミットを手にはめようとするが、002がその手を掴む。
003も009も一瞬、ドキッとした。
「悪かった、003。そういうつもりで言ったんじゃない。」
「……」
「ただ、俺はお前のことが心配で……」

更に漠然とした感情が009を支配する。
「だからつい……キツク言い過ぎた。すまない」
そう言って002は片手を003の肩にのせ、顔を覗き込んだ。
009にはそれがまるでキスしようとするように見えた。

「003!!」

009は003の名を呼びながら台所へ入っていた。
「009!?」
「!?」
二人は驚いた様子で009を見ている。
「あ……」
003は002にまだ手と肩をつかまれていることに気付くと、やんわりとその手を払う。

「ありがとう、009、聞いてきてくれて。で、どうだった?」
まだ少し目の赤い003は普通を装って尋ねる。
「あ、うん……004と005とギルモア博士は紅茶でいいって。僕も紅茶でいいよ」
「そう、分かったわ」
そう言って準備を再開する。
「003……」
「002……心配してくれてありがとう。嬉しいわ」
003が笑顔で言う。
「なのに私……ごめんなさい。突然、怒鳴ったりして」
「いや、俺の方こそ悪かった」
002もすまなそうに謝り――ようやくいつもの002に戻る。

三人で全員分のお茶を用意し終える。
二人は先ほどのことなどすっかりなかったかのような様子だ。
009は少しだけ寂しい感じを受けた。
(何だろう……さっきから変な感じがする)

003がトレイを運ぼうとするが、十個も乗ったトレイはそれなりに重い。
「ああ、002、いいわよ。私が持ってくわ」
「いいって、いいって。俺が持ってく」

その会話に009は我に返り――思わず言葉を失った。
一瞬の隙(?)をついて、009がやろうと思っていた最後の仕事を002にとられてしまった。
「これぐらいしないとな。さっきの詫びだ」
「まぁ」
003が嬉しそうに笑う。
(……安い詫びだな)
無意識に009はそんなことを思った。
「009、手伝ってくれてありがとうね」
急に003に声をかけられた。
「あ、ううん……」
慌てて作り笑顔で返事をする。あの綺麗な目でまっすぐ見てくる003に今考えたことが見透かされたかと思った。
009は自分の考えていたことを深く反省する。

002はトレイに乗った十個のカップに注意を払いながら、先に台所を出る。
「009?」
003が出て行った後に009がついて来ないので、顔だけ出す。
「――ジョー?」
003が名前で呼んだ。すると、まるでそれを待っていたかのように009が反応する。
「フランソワーズ……何?」
嬉しそうに微笑む009。003は苦笑に近い微笑みを浮かべる。
「行きましょう」
「うん」
すでに彼の中には漠然とした気持ちはなかった。
009は軽い足取りで台所を後にした。



ようれわーるど の坂崎ようれ様から、またまた、SS の寄付を頂きましたよ!
ええと、一応キリ番リクなのですが、実を言うと、本当のキリ番設定は2039だったのを、私が2093を踏んで「これ、どうですかね?」と交渉し、無理矢理書いていただいたという……。何でも言ったもん勝ちでございますよ……ではなくて、坂崎さん、スミマセンでした。
「なんで、いっつもフランソワーズばっかヤキモチ焼かされなきゃいけないのよ。何か間違ってる! フランはこんなに素敵な娘なんだから、こっちがヤキモチ焼かせるのが本当じゃないのよ!」という私の常日頃の思いが、坂崎さんに通じたのでしょう。「小さな嫉妬」、親交記念 SS と合わせてシリーズになりました。バンザイ!
いや、キリ番の数字にあわせたように2と3と9が出てくるリクエストをしたのですが、これは狙ったワケではなくて、平成アニメ設定の2&3が好きだからなのです。なんか、いいですよね、この取り合わせって。これからも、イルカ・マスコットの時のようなエピソードがどんどん出て来てくれると嬉しいのですがねー。二人には仲良くケンカしててほしいです。
それにしても、この、名前で呼ばれたとたん機嫌がなおるジョーさん、犬っぽくてカワイイ。


「ようれわーるど」様は、2002年12月25日をもって閉鎖されました。坂崎様、お疲れさまでした。(2002/12/28)