◆ いつか ◆
by: lumi 様(管理課9班






あなたが泣いている。
立ち上がることも出来ずにただ泣いている。

その涙をぬぐってあげたいけれど、わたしにはもうそれが出来ない。
あなたに謝らなければいけないわ。
ひとつはあなたをこんなに悲しませてしまったこと。
もうひとつはあなたのことを忘れその命を奪おうとしたこと。
間に合って本当に良かった。
なぜあんな男の言うことを聞いていたのかわからない、ましてや愛しているなどと。

ジョー、わたし今とても幸せなのよ。あなたを守ることができて。
だからもう泣かないで。最期にそんな姿を見るのはつらいの。
焼けこげた体の前から動こうとしない、力なくわたしの名を呼び続ける姿。
深い闇の中でなにも見えなくなってしまっている。
でもその闇はじきに消える。
涙が乾くとき本当の別れはやってくる。
それでもいい。わたしは最後まであなたを想い続けたのだから。

無人の街に突然現れたわたしに、あなたはとても驚いた顔をした。
厳しい顔つきが次第に困った表情に変わる。
心配そうに見守るあなたに近づきその胸に寄り添えばいい。プログラム通りに。
あなたはわたしを受け入れる。

指先から伝わる胸のぬくもりに、弾かれるように顔を上げた。

「だめよ、いけない!」

胸が締めつけられる。
なぜいままで忘れていたのだろう。
わたしはここで生まれた。つくりものの身体、金属のハート。
あなたを消し去るためだけにつくられたにせものの命。
なのにどうしてだろう。
血の雨の中で天を仰ぎ泣いた夜、穏やかな海を見つめ微笑みあった朝。
出会ってからの長い長い時を、共に駆け抜けてきた日々をすべて憶えている。
こんなに想っている。

胸を突き放す。

「どうしたんだ…?」

いまならわかる。

「来ないで!」

どうすればあなたを救うことが出来るのか。

「何を言ってるんだよ、それは僕の…」
「寄らないでよ!あなたは疫病神よ!」

幼い日のあなたが立ちすくんでいる。
階段を駆け上がる。
振り向いてはいけない。
振り向いて駆け寄って、今のは嘘、ごめんなさい―――そういって抱きしめることができたら。
お願い憎んで。わたしを嫌ってののしって、ここから離れて。

左胸に異様な発熱がある。
心臓部に爆破装置が仕掛けてあるのだろう。彼に抱きしめられたとき最も威力を発揮できるように。
哀れなスフィンクス。あなたには一生この謎は解けないでしょうね。

足がもつれる。時間がない。
場違いな微笑みが頬に浮かんだ。一瞬だけ触れた指先のぬくもり。
この身体で刻んだ、たったひとつの真実。わたしだけの記憶。
交わした言葉もまなざしも、この想いもわたしだけのもの。
今日生まれて今日消える、わたしだけの。

青空が迫る。目にしみるほどに青い。
さっき言いかけた、どうしても伝えたかったこと。
生まれてきて良かった。でも、ジョー、いつかあなたと―――。

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「ロボットだ」
「えっ」
爆発跡に降り立った002が003の腕を拾い上げる。
「そっくりにつくられてはいるが、これはクローンロボットだ」
「ロボット…?!」
自分をかばったのはニセモノだったのだ。009は愕然とした。涙が止まる。
いますぐ本物のフランソワーズを抱きしめたいと思った。
002が無造作に腕を投げた。009は無表情にそれを見やるとくすぶり続ける
部品を踏みしめ立ち上がった。部品は小さくショートして潰れた。

やがて清掃ロボットが近づく。
ちぎれた下半身と腕を回収し廃棄物処理場へ向かう。それらは溶鉱炉に投げ込まれ溶かされる。

ドルフィンの赤い機体が夕陽にきらめく。幸せな恋人たちを乗せて。
そして未来都市はなにごともなく。



管理課9班lumi 様 からいただきました。
解説は不要ですよね。あのお話を別視点から見ると……なのですが。
とはいえ、この視点はなかなか思い付きませんよね。いやあ、やられましたわ。そうですよね、中身コピーしてるんですもの。そして、彼女は自分の意志で彼をかばったのですから。
lumi 様ったら、会社を休んで W盃ご覧になりながら、同時進行でこのような素敵なお話を書いてくださったなんて! いつもありがとうございます。かたじけない。