◆ 花影 ◆
by: lumi 様(管理課9班)
薄曇りの空に響き渡る歓声。カーン、と乾いた音。
2月の河川敷に野球少年たちの色とりどりのユニフォームが散らばる。
冬枯れの土手に自転車を止め、彼は眼下を見下ろした。まだ風は少し
冷たいけれど春の匂いが感じられる。
犬の散歩をする人、子供連れの夫婦、空を泳ぐカイト。雲間から少し
陽が射してきた。
平和だ。

はるか後方にぶっちぎって置いてきた相方のことなどすっかり忘れ、
彼は早春の岸辺を眺めていた。
風がその赤毛を撫でる。
意外な冷たさに首をすくめたとき、ふと土手の反対側に目がいった。
早咲きの桜だろうか。
校庭の隅、そこだけ小さくパステルを擦り込んだように淡いピンクに
染まっている。細くしなった枝がフェンスを越え、舗道に垂れ下がり
小さな弧を描く。
その薄紅色のアーチの下、彼女はいた。
白のオーバーに赤のマフラー。誰もいない路地でひっそりと花影を見上げている。ずっと。
3月になればやってくる別れ。
きみはそれを知っている。
「ジェット、ひどいよ〜」
遠くからペダルをキコキコいわせ近づいてくる、見慣れたシルエット。
風でバサバサになった長すぎる前髪、その隙間から覗く茶色の優しげな瞳。
「いきなり飛ばすんだもんなぁ、もう」
自転車を止めゼエゼエいいながら、彼はジェットを見上げる。
「その勢いで頑張れば一緒に卒業出来たのに」
「ほっとけ」
「もうすぐであの校舎ともお別れかぁ」
息をまだ少し弾ませたまま、母校に目をやる。
「淋しくなるね」
にこっと笑うと、すぐまた視線を川岸のグラウンドに戻した。

―――いいの。あのひとを困らせるだけだから。
聞くつもりはなかった。でもあまりにも苦しそうに見えたから。
長い睫を伏せ微笑む。陽に透ける亜麻色の髪。
俺なら―――もし、俺なら。
「何?」
じっと横顔を見られていることに気づき、彼が振り向く。
「…べつに」
ひらりと自転車にまたがる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
こいつには教えない。
一生。
強くペダルを踏み込む。風がひゅん、と耳元で鳴る。
花びらが頬をかすめ、ふと路地を振り返る。
花の下から、彼女がこちらを見ていた気がした。
管理課9班 の lumi さま から、とっても胸キュンなパラレル SS を頂いてしまいました。桜が散らないうちにアップしたかったのですが、なんとか間に合いましたでしょうか(あ、でも、これは二月の桜のお話なんですよね)。
一読させていただいて「きれい! 景色が目に浮かんでくるー!」と思ったのですが、いざ、描いてみようとしたら……あらららでした(自転車とか、河川敷とか)。いえ、ヘタに絵などつけぬ方がよいのはわかっていたのですが、チャレンジしてみたかったもので、つい。アップが遅くなったのはそのためです。で、結局アバウトな絵だしな……。申し訳ないです。
3人の微妙な関係が、なんとも甘酸っぱいです。大人からみると「いいわね、そういうの」なんだけど、本人達は大変なんですよね……。うふふふ(なんで、そこで笑うよ)。
lumi さま、素敵なお話をありがとうございました。