山本周五郎の著作に「鼓くらべ」という短編小説がある。中学くらいの国語の教科書に出てくるやつだ。以下に要約を掲載します（他人Webで偶然見つけたのだが）

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　時は江戸時代のとある城下町、十五の娘、お留伊は鼓を打っていた。誰が聴いても名手と思われる演奏である。その演奏にひかれて、ある老人が庭先にたたずんでいた。「誰？」と問うと、その老人は「旅の者で、名もない絵師でございます。」と答えた。
　お留伊は、老人を能登屋のスパイと勘違いしたのだが、柔和な趣のその老人に、不思議と心ひかれるものを感じていた。

　実は、近々お城で鼓くらべがあり、お留伊にとって最大のライバルが能登屋のお宇多という娘だったのだ。
　お宇多はこれまでに二度城に上っているが、まだ賞を授かったことはない。お留伊は、今年が初めてであるが、満を持しての登場である。

　ある日、お留伊が師匠の元での稽古から家に戻ると、使いの者が来ていた。例の老人の様態が悪化して、是非お留伊の鼓を聴いてから死にたいという。
　お留伊は鼓を持って、老人の泊まっている宿に向かった。老人は床に伏しており、お留伊が到着すると静かに語り始めた。

「その昔、市之丞という者と六郎兵衛という者が鼓くらべをしました。名勝負でしたが、市之丞の気迫が勝り、ついに気合で六郎兵衛の鼓を割らせてしまいました。一同は、その神業に驚嘆して『友割りの鼓』と、今に語り継がれております。しかし、しばらくののち、市之丞は鼓を持つ方の腕を折り、生きている限りは鼓を持たぬと行方をくらませました。
　私は、その話を聞いたとき、こう思いました。全ての芸術は人の心を楽しませ、清くし、高めるために役立つべきもので、そのために、誰かを負かそうとしたり、人を押しのけて我が欲の満足に用いるべき道具ではない。
　お嬢様、あなたは優れた鼓の打ち手だと存じます。城に上がるのはお止めなさい。人と優劣を争うのはお止めなさい。音楽はもっと美しいものでございます。人の世で、最も美しいものでございます。」

　お留伊は、「友割りの鼓」の話は知っていた。お留伊は、老人のために鼓を打ち、帰宅した。

　時しばらくして、お留伊はお城で出番を待っていた。それまでの幾人かの演奏は、どれも彼女を恐れさすものではなかった。
　いよいよ出番。お宇多と並んで、鼓くらべの始まりである。序盤でお留伊の優勝は決まったようなものだった。それほどまでに、見事な鼓だった。
　ふと、お宇多の方を見やると、何とも醜い形相で鼓を打っていた。顔は蒼ざめ、唇はゆがみ・・・
　その時である。お留伊の脳裡に、あの旅絵師の姿が浮かび上がった。

　あの人は市之丞様だった！

　そういえば、いつも左手を懐に入れていた。あの左手は、自ら折った腕だったのだ。老人の言葉がよみがえってきた。
「音楽はもっと美しいものでございます。」
　お留伊の右手は、はたと止まった。
　舞台から降り、お留伊は師匠のとまどいをよそに、「打ち違えました。」とだけ言い残し、老人のいる宿へ向かった。

　しかし、老人は既に亡くなっていた。一日遅かった。安らぎに満ちた顔で、目覚めることのない眠りの床に就いていた。
「わたし、目が覚めましたの。今までどんなに醜い心で打っていたか・・・それで、急いで帰って参りました。お目にかかって、誉めていただきたかったものですから。」
　お留伊は、さめざめと泣いた。
「今日こそ、本当に聴いていただきます。どうぞ、お聴き下さいまし、お師匠様。」
　鼓は、よく澄んだ、荘厳でさえある音色を、部屋いっぱいに反響させた。

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とまあこんな内容。あ〜あ〜知ってるなんて人も多いでしょう。現在　新潮文庫-山本周五郎-松風の門　で読むことが出来ます（教科書と同じとは限りませんけどね）

　で、今日のお話なのですが、赤字の部分をご覧ください。何ゆえか国語の授業のとき、赤字の部分が気になって先生に突っ込んだことがあります。いわく「おるいはこのとき鼓打ってないよね」と。
　原文には
『「（略）お聞かせください」といって老人は静かに目を閉じた。』
でその章が終わっています。まあ今の俺が読んだら決して上記の突っ込みはしませんね。常識的に考えてこのときおるいは鼓を打っていると思います。
　では、何ゆえそんな風に思ったんでしょう？中学期特有の世の中全てに対する反抗的な気持ちも有ったことは否めませんが‥
　１：老人が鼓くらべにけちをつけたので心が乱れているおるい
　２：今生最期になるかもしれない演奏なのに心が乱れている
　３：のち、登城時、悟って、一目散で老人宅に急行する
　４：本当の演奏が出来そうだ　うんぬん
　５：老人宅で物凄いイイ音が鳴る
　こんな事象を挙げていくと、赤字の部分の演奏は、なんだかとってもちっぽけな感じがした。やっつけ仕事な感じがした。ドラクエで言うとＬＶ４くらいな感じだ。人が死ぬ時だって言うのに‥。これが許せなかったんでしょうね。そして即効で老人宅に向かっているし。すごい音なるし、ＬＶ４３くらいの。そう考えるとＬＶ４なんかやっぱ打ってないでしょう！！こんな思考になったと思います。
　もうどーにも納得がいかないので先生に質問した。授業時間の終わりの頃だったので軽くあしらわれて終了。クラスのやつらからは「あほか？関係ない部分突っ込みやがって」みたいな目で見られるし、先生には電波君みたいに感じられただろうし、物凄い赤恥をかいているのは承知の上。でも、納得がいかなかった。ギヤマンの壺なんていう活かす表現が出てきて好きだったこの物語に、裏切られたような感じがしたのかもしれない。

　授業後、クラスにいた頭のいい不良が俺のところにきて「俺もそう思うぜ」といってくれた。これはうれしかった。

　それを思い出して新潮文庫を読んだんですが‥　玉砕。
どう読んでもケチつけてるようなもんだわ。まだ若かったね、俺。