If my dreams come true,
  I want to be with you.

*****************  presented by 紫龍sama  *****************


《ジェイド戦士とその戦友達がかえって来たぞ》

《世界を救った英雄達の凱旋だ》



 街が、世界中が興奮と感動の嵐の中にあった。
 その身にジェイドを宿した四人の戦士とその四人と共に戦った者達が、 【ダナンの箱船】で帰って来たのだ。
 ジェイド戦士達はそれぞれに英雄としての名が与えられ人々からもてはやされた。

 “金色(こんじき)の騎士 シオン ”
 “戦場に立ったメシア リザ ”
 “青き賢者 サーレント ”
 “疾風(かぜ)の寵児 デューン ”・・・・・・。

 そして、その戦友達にも名が与えられた。

 賢者サーレントについていたレギンと、 メシア・リザについていた元バベルレジスタンスリーダー・ガーライルは“聖銃士 (セントファイア) ”

 リザについていた爬虫族のピピンと言う少年は“爪撃(そうげき)の野生王 ”

 サーレントについていたロロというダナン族の少年、 騎士シオンについていたダナンの王・ラミレスと、 現在巨人の塔の番人となっているテュールという巨人族は “光の言霊師 ”

 現在騎士シオンの妻になっているフォクシーは“戦乙女(ヴァルキュリア) ”

 メシア・リザについていた水棲族の神官であるマリーナは “汚れなき水の意志知る者 ”

 賢者サーレントの兄弟子であり、かつてはターレスと肩をならべ、 クリューヌ一の剣遣いとして名を馳せていたソークと、 疾風のデューンについていたキッドは“舞剣師(ダンス・ソード)”と呼ばれている。

 おそらく、人間の歴史が続く限り、彼らの事は語り継がれていくだろう。 そう、遥か昔、魔を祓い、世界を創造した《四勇者》のように・・・・・・。

 でも、あたしは、そんな人達は知らない。

 あたしが知っているのは、いつもカスタギアのおじ様に怒鳴られている、 銃の扱いだけは上手だけど、どこか抜けている、 いつまでも子供な幼馴染みのレギン=カスタギア ≠ニ、賢者ソロン様の弟子であり、 いつもドジばかりのレギンを苦笑しながら柔らかく見守ってくれる、 優しくて落ち着いた雰囲気のサーレントさん =Aそれからサーレントさんの兄弟子で、 無口でクールで、でも時々すっごく危ない事を言うソークさん =Aそれから三人がアヤシイ教団から助け出したミステリアスな雰囲気のロロ君 =B

 他の人達は会った事はないけど、少なくともこの四人についてはこう言える。


*     *     *     *


「おい。何考え込んでんだよ」

 カウンターの中にある店番用の椅子に座っていたあたしの頭に少し大きな、 優しい手が乗せられ、手の主があたしの顔を覗き込む。

「なによ。考え事してちゃいけないの?」
「別にそんな事言ってないだろ。 さっきから客が来てるのにお前が何もしないから俺がさばいたんだぜ?」
「え。うそ」
「ウソなもんか。ま、 俺が目当てで来た客だったみたいだから丁度良かったけど・・・・・・」
「あ、そ。モテモテね」
「随分トゲのある言い方だな、おい・・・・・・」
「気のせいよ。あ、あたし、ちょっと買い物行って来るわね。 ついでだから店番よろしく」
「え、ちょっと待て! マジか、おい!」

 あたしはレギンの抗議の声を聞き流し、従業員用の、 おじ様のラボに繋がっている扉から出た。

「お、ミーミル。出掛けるのか?」
「はい。ちょっと遅くなるかもしれないけど」
「ああ、構わんよ。ゆっくりしてきなさい」
「ありがとう、おじ様」

あたしは軽く頭を下げ、大きな機械の横に取り付けられたはしごを下がって裏口から町に出た。





「・・・・・・馬鹿みたい、あたし・・・・・・」

 あたしは泣きたい気持ちを必死におし止めて、 何の気なしに街を出て樹海へ向かった。
 かつて、つい何日は前までは樹海は魔物が巣食う、 武器を待たない、言霊を遣わない一般市民が入るのは危険な所とされていて、 もし入っても入り口の僅かな所までとされていた。 でも、今は魔物の姿はなく、のどかで穏やかな場所になっているので、 あたしのように武器も言霊の技術も無い小娘が多少奥の方にまで入っても大丈夫だ。
 あたしは少し奥の方にある、 勝手に特等席と決めている日だまりになっていてとても暖かいちょっと小高い所に登って横になった。
 昔はレギンと他の悪ガキ仲間と一緒に探検に来て、 ここでこっそり御飯のあまりを詰めて作ったたお弁当を食べたものだが・・・・・・。
 《昔》と言っても十年くらい前の話だ。言葉に出せばとても短いように感じるが、十年≠ニ言う数字はやはり大きい。 悪ガキ仲間達はみんなマジメに働いていたり勉強したりしているし、 “金色の騎士”に憧れてか、クリューヌの兵士になった男の子も多い。

「・・・・・・ヤダ。あたし、何考えてるんだろ・・・・・・」

 あたしは何時の間にこぼれたのか、頬を伝う涙を拭き、 しばらくその日だまりの温かさの中でまどろんでいると、 本当にいつの間にか・・・・・・柔らかい草の上で眠っていた。




・・・・・・ャン・・・

・・・・・・シャン・・・

・・・・・・ピシャン・・・・・・




「・・・・・・ん・・・・・・?」

 あたしは、不意に顔に落ちた冷たい水で目を覚ました。
 あたりは薄暗くて、床と壁は全て石。 ひんやりしていて・・・・・・ 肌に当たる石の感触がちょっと気持ちいいかもしれない。

 ただし、両手両足を縄でしっかりと縛られていなければ。

「おやぁ? お嬢ちゃん、お目覚めかい?」

 不意にあたしの斜め前で焚き木を囲んでいた男の一人がこちらを向く。 赤い炎の光に照らされて映るその顔は下劣の一言。 ちゃんとした格好をすれば上流階級の人間に見えるかもしれないけど、 その顔ははっきり言ってスケベオヤジの顔と言っていいだろう。 肉付きはあまり良くなくて、ほっそりしてるけど、 イヤらしい目付きがネック(?)になって、まず「カッコイイ」とは絶対言えない。

「あんた達、何者? あたしみたいな小娘攫ってなにしようっての?」
「ほぉ、自分が攫われたって事 分かってるのか。物分かりが良いねぇ」

 最初にあたしを見た男の向かって左に座ってる男が言う。 こいつもまたイヤらしい目付きでこちらを見ている。 前の男の兄弟かなにかだろうか、何処となく顔が似ている。

「もちろん売り飛ばすんだよ。 お前みたいな小娘が好みって言うお偉いさんの所にな」

 今度は向かって右の男が言う。 こいつは前の二人みたいにイヤらしい目付きはしてないけど、 やっぱりどこかアブなそうだ。目の焦点が微妙に合っていない。
 この一言であたしは全てを理解した。 こいつら、多分街で噂に持ち上がっている連中だ。 確か若い女の子を攫って、どこかに売っている、 どこかの国のそれなりに身分のイイヤツらの息子達だとか聞いたような気がする。

「その顔は事態の全てを理解したな?  ま、呪うならあんなところで無防備に昼寝した自分を呪うんだな」

 向かって左の男があたしを嘗め回すように見ながら鼻で笑って言う。 ムチャクチャ悔しい・・・・・・けど、この男の言う通りだ。
 あの噂を信じるなら、売られるのは早くて三日後。 その間に男達はもっと多くの娘を攫ってきたり、 男達が攫った娘のデータを顧客に渡して返答を待ったり、 顧客が直々にアジトに来て娘を検分するとか言ってたかな・・・・・・。
 とにかく、無事が保証されるのはそう長く続かないはずだ・・・・・・。 噂はあくまでも噂、一日無事ならまだいいと考えたほうがいいかもしれない。

 何で、樹海になんか行く気になったんだろう・・・・・・
 せめておじ様にでも行き先言っておくんだった・・・・・・

 もしかしたら、レギン・・・・・・助けに来て、くれないよね・・・・・・・・・



 でも・・・・・・・・・お願い・・・・・・助けに来て・・・・・・・・・・・・!



*     *     *     *



「・・・・・・遅い!」

 俺は夕食の準備も整っていない食卓を叩いた。

「レギン・・・・・・気持ちは分かるが少し落ち着け。 今、爺が何か作ってくれると言っていたから」
「飯のコトで怒ってるんじゃねーよ」

 俺に店番を押し付けて出掛けたミーミルが夜になっても帰ってこない。 いつもならいくら遅くなると言ってもこの時間には帰るのに、だ。

「一体どこほっつき歩いてんだ、あいつは・・・・・・」
「気になるなら探しに行ってきなさい」
「バカ言え。何であいつの為に俺が・・・・・・」
「最近また賊の動きが活発みたいでな・・・・・・お前も聞いているだろ?」
「聞いてるけどさ・・・・・・」
「連中はあまり獲物を選ばないそうですからのぉ・・・・・・ アブナイ目にあってなければ良いですが・・・・・・」

 キッチンの方から爺の呑気な、 しかし、明らかに俺を煽っていると分かるコメントを発する。
 しばらくの沈黙の後、俺は舌打ちをして席を立った。

「ちょっと夜風に当たって来る。夕飯、二人分残しておいてくれよ」
「分かってますとも」

 俺はどこまでも呑気な爺の言葉を聞き流し、ドアを開けて夜の町を走った。



*     *     *     *



 男達は焚き火の前で酒盛りを始めた。あたしは久々の獲物だったらしい。 時折、チラチラとこちらを見ては三人でイヤらしく笑い、何事かを相談しあう。 多分、いや、確実にあたしにとっては是が非でも遠慮願いたいコトだろう。
 でも、あたしだって黙っているわけじゃない。 子供の頃街に来たマジシャンのおじさんに教わった縄抜けを懸命に試している。 さすがに縄の結びは強固だが、結構緩く結ばれている。 手の方はもう少しもすれば解けるはずだ。

「何をモゾモゾやってるのかと思ったら・・・・・・縄抜けなんてできるのか」

 不意にあたしの背後から男の声がする。 薄暗いのもあって良く分からないけど、歳はソークさんと同じくらい、 あたしが横になってるからかもしれないけど、 すごく背が高くて、フード付きのローブみたいなものを着てる。 声は言霊で変えてるのか、何だか気味の悪い声だ。

「グ、グラーズさん」
「お前達も甘いな。こんな小娘にもほどけるほど緩く結んでおくとは・・・・・・ ちゃんと訓練を受けた者ならものの数秒でほどけるぞ」

 男達にグラーズと呼ばれた男は言って、あたしの両手足の縄を結び直した。 凄く固くて、刃物でもないと解けなそうだ。

「でもグラーズさん、珍しいですね。アジトまで来るなんて・・・・・・」
「フン、久々に獲物が手に入ったと聞いたのでな、 お前達が先走った事をしないように見張りに来た」

 グラーズの言葉に男達は一様に色を失い、黙って酒に手を伸ばす。
 グラーズはあたしの側にどっかりと座り込んだ。 言葉通り男達の見張りと、あたしの逃亡防止だろう。




 レギン・・・・・・・・・助けに来てよ・・・・・・・・・!



*     *     *     *



「くっそ・・・・・・どこにいやがんだ、あいつ・・・・・・」

 俺は夜の樹海を探し回っている。今日が満月だった事が救いだ。 町の連中に聞きまわってミーミルが樹海の方に歩いていったというのを聞いたはいいが・・・・・・樹海は広大だ。 一体何処に行ったのやら・・・・・・。
 とりあえずそんなに奥までは行ってないはずだが・・・・・・。

 不意にあたりを見渡すと、小高くなっている所で銀色に光る物が見えた。 近寄ってみると、俺が戦いに身を投じる前、 まだ汚染されているなりに平和だった頃、ミーミルに渡したバレッタだ。
 ここは日が出ていれば丁度良く日光が当たって格好の昼寝スポットになる。 子供の頃、しょっちゅう悪ガキ仲間と一緒に探検に来てここで一休みとか言ってお弁当を広げたりしたもんだが・・・・・・。

 俺は銀色のバレッタを胸ポケットに入れ、あたりを捜す。 噂に聞く所だが、野盗どものアジトは樹海に有るらしい。
 ガキの頃、樹海を歩き回った記憶が確かなら、 今は落ちた橋の下に結構大きな洞窟があった。 普段は絶対見えない所なので秘密基地などにはもってこいだと話していたのを思い出す。
 何故だか、そこ以外に連中のアジトが思い浮かばない。

 俺は持って来たアンタレスをいつでも使えるようにして夜の闇の中を走って行った。



*     *     *     *



「ねぇ・・・・・・あんた達は、何者なのよ」

 あたしは小声で側に座る大男に問いかける。 さっきから何度も話しかけているが、男は腕を組み、 こちらに背を向けて静かに座しているだけだ。
 あたしはどうも、このグラーズという男が知り合いに思えて仕方ない。 根拠はないが・・・・・・でも、何となく、 こんな雰囲気の知り合いが居たはずなのだ。あれは・・・・・・誰だっただろう。


ドコォン!


 不意に入り口と思われる所から爆発音が聞こえる。

「な、何だ!?」
「奇襲か!?」
「馬鹿な、ここは誰にも知られてないはずなのに!」



「あまいんだよ、地元のガキをなめるなよ」



 爆発のある方から聞こえたのは、変声期を過ぎているが、 まだ何処かに少年っぽさを残した、でも、しっかりした声。
 不意に体が自由になり、あたしの体が宙に浮いた。
 あたしはグラーズというローブ男に抱きかかけられていたのだ。

「グ、グラーズさん!?」
「グラーズ? 誰だ、それは」

 フードの中から聞こえたのは、昔聞き慣れた声の面影を残した、低い声。 この、しっかりした腕の感触・・・・・・。

 ローブ男は無造作にあたしを抱きかかえてない方の手でフードを脱ぐ。
 焚き火の光を受けて輝く少し長くなった栗色の髪、 綺麗だけど見る者を射抜くような鋭い瞳、悪ガキ仲間の一人で、 クリューヌ城で兵士になったはずのグランザだ。

「クリューヌのグランザだ。 お前達三人はクリューヌ兵団第三隊長の俺の名においてここで捕縛する」
「おいおい、グランザ。オイシイ所一人占めかよ。 俺にもちょっとはわけろって」
「心配するな。捕まえたのは“聖銃士 レギン”ってコトにしてやるさ」
「ちっ、お前も相変わらずだな」

 呆然とするあたしをよそに煙の向こうから歩いてくる人影―― レギンとグランザは笑い合って言う。

「くっそ・・・・・・死ねぇ!」

 男達が傍らに置いてあった剣を取り、こちらに突っ込んでくる!

「ボム!」

 咄嗟にあたしは男達の方に手を翳し、言霊を発動させる!
 瞬間、あたしの言霊に答えた炎が柱となって男達の体を焼く!




「・・・・・・生きてるかな、あいつら」
「大丈夫じゃない? 一応力はセーブしたつもりだし」
「・・・・・・まぁ、大丈夫なんじゃないか? むしろこのくらいはイイ薬だ」
「そうかぁ・・・・・・? それでも効きすぎだろ、これは・・・・・・」
「それは・・・・・・まぁ、 世の中そんなに簡単に悪い事ができるわけはないという教訓になるだろう」
「そうだな」

 不意に三人の目が合い、三人とも、あの頃の顔で笑っていた。




「ホレ。落ちてたぞ」

 洞窟から出て街に帰る途中、レギンはあたしに銀色のバレッタを渡した。 一年くらい前の誕生日に貰ったプレゼントで、 いつも髪留めに使っていた。多分、攫われた時にでも落ちたのだろう。
 あたしの方は向いてくれない。

「ね・・・・・・ねぇ、レギン・・・・・・その・・・・・・」
「今度樹海に来る時は、必ず俺に声を掛けろ。 それから、言いたい事があるなら言え。怒りはしねーから」

 レギンはそう言って立ち止まり、あたしの方を向いてくれた。 丁度満月がレギンの前に有って、柔らかい月光がその顔を照らす。

「あんまり心配させんじゃねーよ」

 レギンはそういって再び前の方に顔を向けると、 あたしの方に手を差し伸べてくれている。

 いつか子供の頃に、そうしたように・・・・・・。

 あたしはその手に向かって駆け出した。




 今夜は満月・・・・・・。
 満月の夜に願い事をすれば、 その願いは必ず叶うって誰かが言っていたっけ・・・・・・
 お月様、もしあたしの声が聞こえるなら、 一つだけ・・・・・・あたしの願いを叶えて下さい。



ずっと、愛する人の側に・・・・・・・・・・・・





〜fin〜


by 紫龍sama





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