GIANT HEART DELICATE presented by 紫龍sama [][][][][][][][][][][] |
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「あ。いたいた〜。テュール!」 一団の先頭に立っていた女性がこちらにやって来る。 以前に見た時の動きやすそうなライトメイル姿ではなく、美しいドレス姿だ。
「久し振りでござるな、フォクシー殿」 フォクシー殿の後ろから遅れてやって来たマントを羽織り、立派な白銀の鎧を纏った、 淡い金髪に眼帯の男性――シオン殿が憮然として答える。 クリューヌ城の南にある、我等のルドラが奉られた《巨人の塔》。 ミトラとの戦いの後、地球に帰って来た拙者はこの塔の番人としてこの塔に住んでいる。
「しかし珍しいでござるな。フォクシー殿とシオン殿だけならともかく、
クリューヌ騎士団がわざわざやって来るなんて」 拙者はちらりと後ろに控える兵士達を見る。
「ああ。心配いらねーよ。任務のコトは言ってあるし、肝の据わった奴だけを選んだつもりだ。
俺もたまにはこっちに来るしな」 拙者は言ってにっこりと笑顔を浮かべる。 このように笑顔を浮かべると言うのは、シオン殿達と旅をした時に覚えた事だ。
「んじゃ、ここの指揮官としてダグを置いて行くから。
何か言っておく事とかがあったらこいつに言ってくれ」
シオン殿は言って、
傍らに居た少し小柄な青年に何言か言い含めてフォクシー殿と共にクリューヌに帰っていった。
騎士隊隊長として色々雑務が有るらしい。
「一度面識はあるけど、ダグだ。改めてよろしくな」 ダグと名乗った青年は兵士の中から一人を呼んで、詳細を説明するよう言った。 その兵士の説明を整理すると、およそこういう事になる。
言霊山のゾラ殿、そしてトール火山のサーレント殿、そして北の大陸のカーンにいるリザ殿が、
最近になって――拙者が巨人の塔の番人をし始めて約一週間経ったあたりから自然には有り得ない、
邪悪な思念の波を感じ始めた。
「・・・・・・ふむ。大体の事情は察せたが・・・・・・」
拙者は、少し怯えながら言う青年に笑って答えた。
クリューヌ兵達が塔に駐在して早一ヶ月。
「良い兵士ですな。拙者にも打ち解けて言霊の事や一年前の戦いの事などを聞いてくる」 シオン殿は瓶の酒を一気に飲む。
「連中は、俺の下につく為にクリューヌに来たって奴等がほとんどだ。
でも、それは《金色(こんじき)の騎士 シオン》の下にって意味で、
《一介のクリューヌ兵 シオン》
の下にって意味じゃない」 シオン殿の顔が俯いて、表情が金髪に隠れる。
「・・・・・・それなら拙者とて同じ事。もし拙者がシオン殿の、《金色の騎士》の従者でなければ、
あのように受け入れられる事はないでしょう」
「アニキ!」 眼下からダグ殿がこちらを見上げて声を張り上げる。
「どうした! 何が起こったんだ!」
シオン殿は一息に拙者の肩から飛び降り、剣を構えて塔の中に駆け込む! 塔の中には、先程の音が満ちているが、振動は伝わらない。 実体を持つモノではないのだ。
「テュール、ラゴウ石の所に行くぞ! くっそ・・・・・・またあのルドラが暴れてやがるんじゃないだろうな?」 地を蹴って全力疾走するシオン殿の背を懸命に追いかける。 塔に入ってから、何かの思念が拙者にまとわりついてくる気がする。 いつかにも感じたような、この感覚・・・・・・・コレは・・・・・・・いや・・・・・・あれは、誰だったか・・・・・・・? 目の前がふっと暗くなる。 ドサァ! 「テュール!」 先に走っていたはずのシオン殿の顔がやけに近く見える。 不覚にも倒れてしまったようだ。
「溝に足を取られてしまっただけの事。シオン殿、拙者に構わず先に! すぐに追いつきまする故」
シオン殿の背が再び遠くなる。 「シオン殿!」 ラゴウ石のある最上階への階段を登り切り、金髪の兵士の名を呼ぶ。 最上階がその視界に全て収まった時、一瞬、これが夢だと思いたかった。
床に倒れる人影は正しくシオン殿・・・・・・全身から血を流し、
その手に血に濡れていない白銀の剣をしっかりと持っている。
おそらく、攻撃する間もなくやられたのだろう。
「スルト・・・・・・・!」
倒れたシオン殿の傍らに立つ、青を基調にした鎧を纏った巨人は言って、
ゆっくりとこちらに顔を向ける。
「なんだ、そのしけたツラは・・・・・・久々に会ったってのによぉ」
スルトは生きていた頃よりも凶悪な笑みを浮かべ、パチン、と指を鳴らした。
「我等巨人族の始祖、巨人族のルドラ アビリジャ。俺は、ルドラの加護を受ける事に成功した!」 スルトの口の形が邪悪に吊り上がる。
「さて、テュール。俺がわざわざ此処に来たのはな。お前を誘う為なんだ」
スルトの手がこちらに伸びる。 「なぁ、テュール。我等の手で再び巨人族の栄華を取り戻そうではないか。 お前も、人間族には随分な目にあわされただろう・・・・・・?」 スルトの手ともアビリジャの手ともつかない、とにかく亡霊となった巨人の腕が肩に触れる瞬間、 拙者はその腕を握り、そこで止めた。
「・・・・・・どういうつもりだ」 言って、俺は手の中に凝縮した光をスルトの顔面に押し付ける!
「テュー・・・・・・・ル・・・・・・・」 瞬間、あたりに広い光が満ち、スルトも、アビリジャも消えた。
「・・・・・・言ってろ」
不意に背後から言葉がかけられる。
「シ、シオン殿!? スルトに殺されたんじゃ・・・・・・・」 シオン殿は言って今登って来た階段を壁伝いに降りていく。 「シ・・・・・・シオン殿・・・・・・」 拙者の呼びかけに、シオン殿の顔がこちらを向く。 初めて会った時と同じ、無鉄砲なこと以外は何処にでもいる兵士の顔で・・・・・・
「おら、何ぼさっとしてんだ。帰るぞ」 拙者は笑いをかみ殺して、憮然としながらも階段を降りるシオン殿の後についてラゴウ石を後にした。
この時が、永久に続くようにと汝に願う事は、許される事だろうか? もし許されるなら・・・・・・我が願いを聞き届けたまえ・・・・・・
かくも平穏な日々。空に最も明るく気高い星が瞬いている・・・・・・・
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