無量歴4001年224日
親類のおばさんに書いたお手紙のメモ。
前略 お元気ですか?
残暑お見舞い申し上げます。
明日、オムパロスにいきます。海の浄化と、天空落下の影響で湧きだした温泉のおかげで、
ちょっと前とは比べものにならないくらい人でにぎわっているそうです。
実は、私がオムパロスへ行くのは、とある人に誘われたからなんです。
誘ってくれたのが男の人っていう場合って、いろいろ期待しちゃってもいいんでしょうか?
これ、おばさん以外に見られたら、ちょっと恥ずかしいわね。
でも、おばさん一人暮らしだし、この日記見るような人もいないし、心配ないわね。
もし、不躾にもこの日記を盗み見る様な人がいたら、タダじゃすまさないけどね。
無量歴4001年225日
オムパロスについたのは、ちょうどお昼頃。
ホントはお昼過ぎてから到着の予定だったんだけど、
デューンが方舟で送ってくれたから、予想以上に早く着いたわ。
船室ではシオンと二人きり。到着が早かったせいで二人きりだった時間は短かったけど、
定期船に乗ってたらそのチャンスすらなかったんだもの。
絶対方舟の方を選ぶわよね。
でも、方舟を降りたら、デューンのバカでかい声が聞こえてきて、気分台無し。
「はーい、到着〜♪ 運賃はお一人様50ラグでーす」
何いってんのよ、方舟はアンタのモンじゃないでしょうが!
盗品で商売なんて、盗人猛々しい!
デューンをはりたおしで軽く片付けた後、辺りを見回したわ。
やっぱり島の海は、大陸沿いにある海とはスケールが全然違うわね。
こんな素敵なところにシオンと一緒に来られるなんて、最高についてるわ! そう思ったのに、
何で勢揃い?!
リザが宿屋のお手伝いのバイトに来てるわ、
サーレントは仲間にピピンを加えてトゥーラの遺跡の調査に来てるわ…。
当のシオンといえば、私をほったらかしでオムパロスのおばあさんに、
魔物がどうだのなんだの、熱心に聞いてるし。
更にそこに現れないでくれる!? サイゾウ!!
しかも、こっちには魔物はいないとか、噂も聞かないとか、
二人だけで話を進めて…。さすがに疎外感感じるわよ。
「ちょっと待ちなさい!! 何の話してんのよ!!」
って騒いでたら、サイゾウが「まかせとけ」って感じの合図をしてくるの。
あいつの言うコトきくのなんて気にくわないけど、
ちょっと気になるし二人の会話を黙って聞いてみたわ。
「なぁ、オムパロスにモンスター出現の噂は、どうやら誤報みてえだ」
「じゃあ戻って王様に報告しなきゃ…」
「ああ、本来なら報告しに行かなきゃいけねえところだが…休暇もたまには必要だと思わねえか?」
一瞬耳を疑ったわ。サイゾウがシオンを引き止めようとしてくれてるんだもの。
もしかしてサイゾウって、私が思ってるほどイヤな奴じゃないのかな? って思ったわ。
だけどシオンの答えはものすごくあっさりしてた。
「それじゃ、タダの公金横領になっちまうだろーが」
っていうか、公金横領以前に、
1ヶ月の給料が100ラグって時点で完全に労働基準法違反よ!
それなのに、シオンってばなんて律儀なのかしら!?
そのあまりに健気なシオンがむしろ痛ましいのと、どこまでも報われない自分がとことん哀れで、
ホントもう冗談抜きに泣けてきたわよ。
しかも、一瞬いい奴だと思ったサイゾウはっていえば、
「なーなーいいじゃんか、王様には後でちゃんと言えば。
一緒に遊んでいこーぜ?! なー、シオンー」
だって。
さんざん期待させてくれたけど、それがサイゾウ、アンタの本音なのね。
私は完全に切れたわ。具体的に言えば、
[1]背後からのはりたおしがクリーンヒット。
[2]吹っ飛んだ身体が着地する直前にスライディングで追い打ちをかけて、
[3]身体が浮いたところを、下段からのムチの振り上げ攻撃で上空へ跳ね上げ、
しかるべく後にジャンプ・追尾の上、
[4]上段からの空中はりたおし攻撃で地面へと叩き付ける
という4HITコンボを我ながら見事にこなしてやったわよ。
今になって思えば、シオンがさっさと現地調査に行っちゃってて、現場を見られなかったのが、
今日最大の幸運だったわね。
いろんなコトで頭が一杯でシオンの後を追う余裕が無かったから、
とりあえず宿へ向かったわ。それによく考えたら、私たちまだチェックインしてないんですもの。
宿に着いたら、食堂でサーレント達がリザの給仕でお昼を食べてたわ。
誘われたから、私も一緒に食べることにしたの。
最初はサーレント達と一緒に食べてたけど、目のやり場に困ってつい席を変えちゃったわ。
サーレントとソークって、必要以上に仲が良いのね。
一人で密かに泣いてるレギンの苦労が、何となく分かっちゃった。
でも、私の苦労だって相当なモノだわよね。
そんなこと考えてるのが顔に出てたのね。
「隣、良いかしら?」
って、リザがさり気なく声をかけてきたわ。
私も、気持ちを分かってくれる人が欲しくて、ちょっと弱気になってたのね。
思わずリザに、自分の気持ちを全部話しちゃったわ。
私の、シオンに対する想いや、シオンがそれに気付いてくれないことのもどかしさ、
それに、シオンが私を「一緒に闘う仲間」としてしか見てくれてないことの切なさとか。
いちいちあげたら切りがないくらいたくさん話したのに、
リザはそれを全部真剣に聞いていてくれたわ。
「闘うってことは、命に関わることよ。そのパートナーに、シオンはフォクシーを選んだんでしょ?
確かにそれって、男の人が女の人を選ぶのとはちょっと違うけど、
でもそれに選ばれたってことは、お互いに自分の命を預け会う相手に選ばれたってことなんだから、
女の人として選ばれるよりもすごいことだと思うわ。
だから、フォクシーは自信持って良いのよ。
だって、あなたはシオンの命を半分預かってるくらいシオンに近いヒトなんだもの」
リザは、そう言ってくれた。単なるなぐさめでも、涙が出るほど嬉しかったわ。
その時、初めて自分がどれだけ長い間話してたか気がついたの。
もう、外が暗くなりかけていたわ。そんなに長い間、リザは私につき合ってくれたのね。
感謝してもしきれないくらい。
その上、笑顔でこう言ってくれたの。
「そろそろ夕食にしましょう。シオンを呼んできてくれる?」
って。
海岸線の辺りを探してたら、シオンとサイゾウの話し声が聞こえたような気がして、
声のした岸壁の方へ行ったら、予想に反してシオン一人きり。
さっきリザと話したばっかりだし、今思うと、なんか意識しちゃって変に緊張してたのね。
なぜだか分からないけど眼帯をはずしてたシオンの、
「悪いな。あまり気分いいもんじゃねえだろ?」
っていう言葉に、何だかうろたえちゃって、
「私、眼帯していないシオンも嫌いじゃないわよ。そのジェイドの赤、シオンによく似合ってるし、
右眼の赤と左目の青とがならぶとすごくキレイ…」
だなんて、一気に口走っちゃったりして…。
そうしようと思ってしたワケじゃないけど、この時の私、すごく大胆だった。
今こうやって思い出してても、思わず顔が赤くなって来ちゃうくらい。
でも、この時はっきり思った。今なら言えるって。だから思い切って言ったわ。
「私、シオンのこと、ずっと…」
って。もちろんすごく勇気がいったわよ。
それだってのに!
絶対に許せないわ! 私があんなに勇気を出したっていうのに、
ものすごく良いところで、いきなり横から乱入して
きやがった
きた
あンのひげおやじ!
元クリューヌ兵隊長!!
お盆だかなんだか知らないけど、死人がほいほい気軽に帰って来るんじゃないわよ!
アンタなんか、私の「あいのむち(陽属性)」で瞬殺よ! 女の敵!
おかげで、リザの好意は全く無駄になっちゃったわ。
途中まではホントに良い感じだったっていうのに!
もう気分は最悪! 今までずっと続けてきたから、この日記だけはきっちり書いたけど、
これが書き終わったら、速攻でふて寝してやるわ!
無量歴4001年226日
昨日はもう、ホント最悪な日だったわ。今思い出してもムカムカしてくるくらい!
あんまり頭に来て、もう一刻も早くここを去りたい気持ちで一杯だったから、
今日中に帰るつもりだったわ。
だけど、予定変更よ。だって、シオンが王様から正式に休暇をもらえたんだもの。しかも1週間も!
急に休みがもらえるなんて、何だか怪しいわ。
昨日の夕方以降、全くサイゾウの姿を見てなかった上に、
今日になったら昨日以上にごきげんになってた辺り、ものすごく胡散臭いわ!
でも、そんなことどうだって良いのよ!
大事なのは、シオンとあと一週間も一緒にいられるってコト!
狙ってれば、きっとチャンスはおとずれるわよ!
まぁ、取り敢えず今日は訪れなかったけど…。
って、わざわざ自分で自分のテンション下げるようなこと、書かなくても良いじゃない!
何やってるのよ、私! あー、やっぱり舞い上がってるのね。ちょっと冷静にならなきゃ。
そのためには、ちょっと頭を休ませた方が良いわね。
今日はいろんなコト考えすぎてたように思うし。
明日にはチャンスが訪れることを祈るわ。
無量歴4001年227日
ちょっと待って! いま気がついたけど、サーレントって男よ!
だけど、ソークとの様子見てる限り、絶対私とシオンより進んでるわ!
何か悔しい! じゃなくて、それ以前にまず突っ込まなきゃ!
でも、ああいう「愛」もありなのかしら!?
ああ、ダメ! 錯乱してきたわ! 今すぐ寝ないと! 寝る! 寝るわ、私!
無量歴4001年227日
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