シオンが無事月から帰って、来ないはずの４００１年が明けて、 あっという間に１４日も経っちゃったわ。 世の中の混乱もちょっと落ちついてきたみたい。
　私もそろそろ行動開始。
　明日は西大陸へ行くわ。
　だってきっと、ダグと男二人じゃひっどい新年を迎えてるはずなんだもの。
　私が片付けに行ってあげなきゃ。

「男二人の住まいなんて、去年のカレンダーは貼りっぱなしの、 ３食インスタントしか食べてないうえに、 ごみは散らかしっぱなし」

　…だと思ってわざわざ西大陸まで行ったっていうのに、 何でシオンの家ったらあんなにキレイなわけ？！　ドア、あけたら畳貼りなんて反則よ！ 　しかも、あの緑の良い香りは絶対新品！
　もう、私の出る幕は微塵も無しだったわ。あまりの展開に、思わず
「何で畳になってんのよ…全然ちらかってないし」
って言っちゃったんだけど、その返事が
「何で畳かって？　正月だからじゃねえか」
ってすごすぎない？
　季節で家をカスタマイズしてんじゃないわよ！
　全く…何しに行ったのかしら？！
　しかもワケ分かんない黒尽くめの大男まで居候してる始末よ！
「誰よ　あんた！」
って訊いてるのに、完全無視！　感じ悪すぎるわ！
　無視した大男の代わりに、シオンが説明してたみたいだけど、 こっちはそれどころじゃなかったわ。
　今思うと、ちょっと頭に血が上りすぎてたかも。 別にシオンの話を聞く気がなかったワケじゃないけど、結論だけ言えば全然聞いてなかったのよね。 あの時の私、感じ悪くなかったかしら？　シオンが気を悪くしてないと良いけど…。
　でも、落ち着けッて言われても、あの状況じゃいくら何でも無理よ！ 　だって、あの大男、後ろからシオンに抱きついてんのよ！
　シオンは全然気にしてなかったけど、どうなのかしら、あの男の行動は！ 　絶対に怪しいわ。
　ターレスとかいう元クリューヌ兵隊長といい、シオンってばおやじにもてるのよね。 あの男も同じ穴のムジナかも知れないわ。 そういうことには全く鈍感なシオンに代わって、私が目を光らせてなきゃだめそうね。
　あ〜、そうよね。シオンってホント、そういうことには全く鈍感なのよね。 私の想いが届く日って来るのかしら？

　って、書いてたら一気にブルーになって来ちゃったじゃない！ 　それもこれも全部あの大男のせいよ！　もう、ホント頭くるわ！
　シオンだって気を悪くしてたら、絶対にあいつのせいなんだから！

　それにしても私、よくあそこで切れなかったものだわ。 でも、簡単に切れちゃ、それこそ女がすたるわよ。
　どんな挑発を受けたって、常に可憐！
　これが女の中の女のあるべき姿よね。
　だから、笑顔でいたわ。
「そういえばダグの姿が見えないけど？」
なんて、さり気ない風を装って。
　シオンは丁寧に答えてくれたわ。
「ダグならミラー牧師のトコだぜ。あそこは唯一の教会だからな。 初詣の客で人手が足りねえんだ。まぁ今年は…」
　くらいまではちゃんと聞いてたわ。せっかくシオンが私に話しかけてくれてるんだもの。 一言だって聞き逃したくなかったわよ。
　なのにまた、あの大男！
　何でわざわざシオンの食べてる伊達巻きを横から食べてるのよ！
「こっちの方がうまそう」
とか言ってたけど、絶対ウソ！
「きいてるか？」
ってシオンが声かけてくれて我に返ったけど、 その時はすでに大男につかみかかってたわ。 いくらなんでも、我慢の限度ってモノがあるのよ！
　第一このまま引き下がったんじゃ、女戦士の名折れよ！
　でも、女としてはちょっとはしたなかったかしら？　今になって少し反省してるわ。 よく考えたら、微少なりといえども、醜態をシオンにさらしちゃったわけだし。

　そう思うと、あそこで初詣のお誘いに来たリザ達には感謝しなきゃいけないわね。 そのお陰でつかみ合いが中断されたんだから。
　でも、サーレントが振り袖着てるのは何故？！ 　しかもどうして誰も突っ込まないの？
　だけど、初詣って聞いて、
「大男に留守番を押しつけて初詣に出かければ、もしかするとシオンと二人切りになれたり、 上手くいったら腕くらい組めるかな」
って、思いついたの。そしたら、
「女装したサーレントなんて、いっそ女だと思っちゃえば案外気にならないモンだし」
って気分になったわ。一緒に歩くのに、全く抵抗がなかったって言えばウソになるけど。
　なのに、シオンったら
「初詣？　まだ行かねえよ」
だって。
　単にダグが帰って来るのを待ってただけだったんだけど、 その時は、ほんと「どうしてよ！」って感じだったわ。 シオンってホントに「女心」が分からないのよね。 （実際にシオンが女心をよく分かってたら、それはそれで気味悪いと思うけど）
　でも、私だってお正月くらい好きな人と一緒に出かけたりしたいじゃない。
　この時の私、よっぽど悲しそうな顔してたのね。 見かねたリザとサーレントがいろいろ協力してくれたわ。
　二人とも、シオンからちょっと話を聞いたことがあるのと、 １，２度会ったコトがあるくらい。当然、二人だって同じよね。 でも、あんなに親切にしてくれるなんて、二人ともすごくいい人なんだわ。
　二人は、シオンが初詣に行く気になるように、 シオンに女装までさせてくれたんだけど、 彼女たちは女装じゃなくて「変装」のつもりだったらしいわ。
　良い人達なんだけど、ちょっとずれてるみたいね。 もしかして、サーレントのも変装だったのかしら？

　結局ごたごたしてるうちにダグが帰ってきて、シオンと一緒に初詣は行けたんだけど、 みんな一緒で二人切りになるチャンスなんてあったモンじゃなかったし、 男達だけでどんどん先に行っちゃうんだから、一緒に行った気がしないのよね。
　でも、
「フォクシー、何やってるんだよ。先に行っちまうぜ」
ってシオンが笑いかけてくれたの。あんなふうに笑顔で話しかけてくれたのって、初めてだったわ。
　だから、とりあえず今日は大吉…だったのかな？

　一日でいろいろあったから、もう寝ちゃおうと思ったけど、今思い出したわ。 あの大男の名前！　「４勇者のサイゾウ」とか言ったわね。確か地底で２回ほど会ったかしら？
　私に名前を覚えられたのが運の尽きってモノよ。 今日の恨みはきっと１００倍にして返してやるわ！