AQUA



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Presented by 紫龍sama


……恐れながらアクア様、あのリザと言う娘、なかなかの力と素質を持っていると見受けました。私は言霊山に入れても良いと思うのですが……?
……ダメよ。あの子は、まだ未熟すぎるわ。
アクア様がそうおっしゃられるなら……アクア様の決定に従います……

 聖域の壁にいいるソーマからの言霊が途切れる。

 いつかはこんな日が来ると分かっていた……
 分かっていて、わざと分からないフリをしていた……
 そう……あの子を産んだあの日から、運命は決まっていたのだ……
 ……救世主の証ホーリージェイド=c…
 あの子の額に、あの呪いの石が埋まっていた……あの時から……


神様、
どうして、あの子を救世主にお選びになったのですか……?
どうして、あの子に私の側に置いておけない運命をおかせになったのですか……?
どうして……私を選んで下さらなかったのですか……?

 泣いても仕方ない事くらい分かっている……
 泣いた所で……過ぎ去ってしまった過去が変わる事は、決して無いから……

   *   *   *   *   *   *   *   


 がさがさと言う葉がこすれ合う音に混ざって若い男女の声と子供の声が聞こえる。
 あの子と……あの子の運命を共にする者達……

 ……泣いた顔を見られるとまずい……後ろを向いていよう……
 あの子の顔を見ると、また泣いてしまいそうだし……
 何より、「守り神」としての仕事も出来なくなってしまいそうだから……


   *   *   *   *   *   *   *   

 バシッ!

「分かりましたか。あなた達は、まだ未熟です。この星の浄化は、私達に任せて今すぐ聖域から立ち去るのです」
「タダ者じゃねぇ。リザちゃん、かまうこたぁねぇぜ! 言霊山へいっちまおう」
 言霊の結界に跳ね飛ばされた金髪の青年が言って、彼らは修行場を後にする。

 ……どうして、あの子達は辛い道を選ぶのだろう……
 元の生活に戻れば、幸せな日常を過ごせるはずなのに……

 フフフフ……

 背後にただならぬ気配を感じ、即座に振り向いてみる。
「悪霊!? どうやって!?」
「あんたの知った事じゃないさ。さぁ、あんたの体、いただくよ!」
 言霊を唱える間もなく、悪霊が体の中に入って来る。
「フフフフ……さぁ……すべてを私に委ねるのよ」
 悪霊の言葉が聞こえたと思うと、ふっと目の前が暗くなり、体が自分の物でなくなるのを感じる……


リ……ザ……




<グランソア!>
<これでどーだ!>
<これでもくらえ!>

 リザと一緒に居た金髪の青年と爬虫類族の少年の声が聞こえる。
 リザの言霊は、陽系のグラン級。青年はアンタレスと言う紅い銃身を持つ炎の属性を持った魔法銃で悪霊の足を止め、爬虫類族の少年が爪で傷を負わせる。

「くっ……」
 悪霊の顔は真っ赤で、かなり追い詰められているようだ。
 私は引き剥がされそうになる意識を集中させ、悪霊の動きを止めようと試みる。
 どうやら悪霊の意識に干渉する事が出来たらしく、間もなく悪霊の動きが鈍った。
「何故邪魔をする……!」
 苦しそうな悪霊の声が心に響いてくる。
「何故邪魔をする……あの娘と一緒に居たいのだろう……? 今ここであの娘を殺せば、あの娘は永遠にお前の側に居るのだぞ……!」

 …………ドクン…………

 そうだ……ここであの子が死ねば、私とあの子は二度と離れる事はない……
 この身体が滅びようと、冥界で二人で静かに暮らせばいい……
 悪霊の言葉に、意識の集中が途切れていく……

「そうだ……あの娘と一緒に居たいなら、私の邪魔をせず、私にその身体を、力を委ねるのだ!」

 悪霊の言葉に従うように、私の自我が闇に溶けていくように感じる。
 聖域の守り神である事も……アクア≠ニいう存在である事も……何もかもがどうでもいい……




<悪霊よ! ここはあなたが居るべき世界ではないわ! その人から離れなさい!>
「いやなこった! この女は、自分から私に身体を差し出したんだ! 誰にも渡さないよ!」
 悪霊とリザの口論が聞こえる。
<くっそ! おばさんから離れろ!>
 言霊で威力をあげた爪を振るいながら爬虫類族の少年が言う。
<離れないなら、腕ずくで引き剥がすまでだ!>
 同じく言霊で威力が上がった銃を撃ちながら金髪の青年が言う。

 ……どうしてこの子達は……赤の他人であるはずの私をこんなに一生懸命に助けようとしているんだろう……
 赤の他人である、私を…………



<あたしは、その人の心を信じるわ!>



 ドクン…………!

 リザの言葉に答えたのか、心臓が問い掛けて来る。
 このままでいいのか……このまま、悪霊に利用され、我が娘をこの手にかけていいのか、と……


 そんなの、いい訳が無い!


 私は再び意識を集中させた。
 少しの間でいい、悪霊の動きを封じる為に!

「ぐぁああああ! 何故だ! 一度は我が言葉に耳を傾け、従ったのに! 何故また邪魔をする!」

……一つだけ教えてあげるわ。人間は、あなた達が思ってるほど脆い存在じゃないのよ!
 私は言って、再び意識を強めた!
 悪霊の動きはさっきよりも鈍くなり、リザ達の攻撃もあって、悪霊の体は血のようなどす黒い赤になっている。
<これで最後よ! メガグランソ!>
 リザの言葉に答え、今までで一番強い光がリザの手に収束し、巨大な光の球となって「私」に直撃する!
「ぁああああああ!」
 悪霊は、私の中で光に焼かれ、跡形も無く消え去っていく。





 私の魂も、光に焼かれ、ほんの少し、風前の灯火程度にしか残っていない。
 あの娘達の顔が歪む……最期の言葉が、どこまで言えたか、分からないけど……



 最後に……一言だけ………





「                    」






fine

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Presented by 紫龍さま




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