「うを〜い、今帰ったぞ〜♪♪♪」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どクソやかましい騒音と化して転がり込んできたデューンを、 シオンの、氷の瞳で一瞥した。魂すらも消し飛ばんかの怒迫力。
だが、既に大虎を通り超え、 サーベルタイガー並に出来上がってしまっているデューンには、 それが恐怖と認識されることはない。「あ?! なんだ〜、この家は! 客に茶もでねーのか〜っ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「やっだぁ★ ウソよぉ、アナタが浮気してるなんて思ってないわよぉ★ えー? 本当よぉ、信じて〜★」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一度耳に装備したら、絶対に外れなくなりそうな重く低いつぶやき。しかし、
「や〜ん、シオン君ってばセンジョーテキ〜♪ デューンさん桜萌え〜
」
「くたばれ、バカモノめ!」
シオンの、巨人族の腕さえ吹っ飛ばすパンチが、 デューンの顎にクリーンヒットする。
哀れな・・・否、自業自得なのだが・・・酩酊人は、 つきなげを喰らったかのごとく吹き飛び、ライゾウよりも悲惨な形相で、 フローリングに横たわった。「あ・・・アニキ? 今なんか凄い音がしたッすけど・・・?」
奥の部屋からおそるおそるダグが顔を出した。が、床に横たわる骸を見て、安堵の色を浮かべた。
「何だ。ただのデューンかぁ。泥棒かと思っちゃった」
「ん、ある意味こいつも泥棒だがな」涼しい顔で夕飯の皿を拭き食器棚に片付けると、シオンは、 ダグだけに時折見せる柔らかい笑顔で言った。
「さ、もう寝るぜ」
・・・同じ頃・・・「だから、お父さん、私はお見合いなんてする気ないの!」
フォクシーは、決して乱暴な語調ではなかったが、机に身を乗り出し断固とした拒否を強く訴える。
「フォクシー・・。せっかくだから会うだけでも会ってくれんか。 私も会って話をしたが、当家に迎えても遜色のない立派な若者だぞ?」
エレミアは、娘のフォクシーが「イヤだ」と言ったことは、 その拒絶が明らかに彼女のためにならない場合でない限り、 しつこく強要してきたりしなかった。 だが何の心境の変化か、ここ数ヶ月絶え間なく見合い話を持ってくる。
そんな父親に・・・というより性に合わない「見合い」というものに、 フォクシーは正直かなり閉口していた。
そしてついに・・・彼らしからぬ強行手段。
エレミアは、見合いの日付はおろか、時間、場所まで決めてきてしまったのだ。
気の強さは自他共に認めるところだ。 しかし愛して止まない父親に対しては、努めて温厚に接するようにしてきた。 それも、この件に関しては限界のようだ。
フォクシーは、知らず拳を机に叩き付けていた。「どこのどんなお坊っちゃまだか知らないけど、こればっかりはお断り! 例えお父さんの頼みでも、絶対にイヤよ!」
ガン、とはねつけるように言うと、フォクシーは豪奢なリビングを後にした。
自室へ戻ったフォクシーは、大袈裟なくらいに大きな溜息をついた。
父の気持ちは痛いほど分かる。彼ももう若くはない。 老いた、というような年でもないが、それでも「娘の花嫁姿」 というものに執着を覚えずにいられなくなって可笑しくない年だろう。
それに、この資産を維持しながら男手一人で自分を育ててくれた彼の苦労を考えただけでも、 並大抵のものではなかっただろうことが容易に想像できる。
資産家の娘という育て方はせず、ごく普通の娘として扱い、おおよそにおいて自由にさせてくれた。
そんな彼への感謝の気持ちは、言葉に尽くせない。
−それでもイヤよ! だって私には、もう・・・・
髪をほどきリボンを手中で玩びながら、フォクシーは悶々と思い悩んだ。
父親への感謝と愛情、そして、 自分の中でもはや無視できないほど大きくなってしまった存在への尊敬の念と恋慕の情。
どちらかを選び、どちらかを斬り捨てる。
そんな冷淡な二者択一など、出来ない。−それでも、答えを出さなきゃ・・・
フォクシーは、一つの決意をそのAAカップの胸に抱いていた。
翌朝早く、フォクシーはオリアブの定期船に乗った。東大陸から西大陸へ行くには、 定期船とは名ばかりのこのオンボロ船しかない。「全く! このいうのを羊頭を懸けて狗肉を売るって言うのよ。 今度から不定期船と改めるべきだわ!」
あんたどこの人間だ?! と突っ込まれそうなことを言いながらも、大人しく波に揺られること約半日。 オムパロス経由のために、飛んでもなく時間がかかってしまったが、 何とかまだ明るいうちにダヌルフに着いた。
ここからヴァドへは歩いてもそんなにかからない。シオンの家まではもうすぐだ。
そう思っただけでフォクシーは、身体の芯が熱くなるような気がした。
辺りは限りなく赤い夕焼けに包まれている。
きっと今の自分の顔も、夕焼けと同じような色をしているのだろう。
そんなことを考えながら、フォクシーはシオンの家のドアを叩いた。「・・・・・シオン・・・・! シオンいる?」
いつもはこんな叩き方はしない。こんな、何かを怖れるような叩き方は・・・・。
ドアへ向かって足音が近づいてきた。かしゃり・・とドアノブに手の掛かる音。−今日こそは言おう。私の気持ちを、ちゃんと伝えよう。それで駄目なら・・・
自分は、「振り向いてくれるまで、諦めない」という柄でもない。 もしもシオンが、自分をそういう対象で見てくれそうにないのなら、その時は、 父の持ってきた見合いの相手に会ってみよう。
最終的な判断をシオンに委ねるという、決断力に乏しい決意だったが、 今のフォクシーに出せる答はこれしかなかった。
拳を握りしめて、ドアをじっと見つめるフォクシーの目の前で、 彼女の運命を決めるであろうそれはゆっくりと開いた。
いつもなら何でもないシオンの顔が、今日はとても見られそうにない。
無意識にうつむいてしまったフォクシーの視界に、何故かシオンが入ってきた。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一大決心はどこへやら。とんでもなく間の抜けた呆け顔で、自分の腰の高さにあるシオンの顔を見る。
まだ肩口にも届いていない短い髪。ふっくらした頬に、吸い込まれそうなほどクリクリとして大きな瞳。 「きょとん」という言葉以外では言い表せないあどけない表情。「なんだ、フォクシーか。どうしたんだ?」
口調はそのまま。しかし・・・・声は高い。つまり・・・
「きゃああぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜、 可愛い〜〜〜〜〜〜〜〜〜
」
呆けていた半瞬の後、フォクシーは現状把握そっちのけで、 目の前の4歳児シオンにスパークした。
有無を言わせずシオンを捕獲し、前回よろしく手放しの抱擁と頬ずり。「だぁーっ! やめろー、フォクシー!!」
お前、俺の記憶がそのまんまっての忘れてるだろぉっ!! と、ジタバタと暴れる姿がまた可愛らしい。
「いやんもぉ、シオンってば髪の毛サラサラ〜〜〜〜♪ ほっぺふわふわ〜〜〜〜〜〜〜♪♪」
普段のシオンならいざ知らず、4歳児のシオンでは、フォクシーの馬鹿力からの自力脱出は不可能である。 何とか首から上の自由だけを確保し、奥に向かって助けを呼ぶ。
「ダグーっ! 客だーっ!」
「フォクシーだ」などと言えば、助けに来てくれない可能性が大だ。特に、自分がこういう状態の時は・・・。
案の定、ダグは罠にかかった。 「いつも頼ってばかりいるアニキが小さい分、自分がしっかりしなきゃ」と、強い使命感を抱いて、
「は〜い」
と出てくる。
ちらりとその姿が見えた瞬間、不意にシオンは、自分の行為に強い罪悪感を感じた。咄嗟に前言を翻して叫ぶ。「ダグ、デューンに用事らしいから、デューン連れてきてくれ」
「分かりましたッス〜!」間一髪。ダグは4歳児相手に子分口調で答え、きびすを返して奥の部屋へ向かっていく。
「デューン」という単語を聞いて、フォクシーの動きが止まった。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今更だけど・・・・」
その腕が、激情と呼ばれる種類の感情に打ち震え始める。その隙に、シオンはすかさず脱出した。 シオンがその可愛らしい足をとんっと床に着けると同時に、狙ったかのようなタイミングで、フォクシーがブレイクする。
「何でこんな大事な時にシオンがちっちゃくなってんのよおぉぉぉーーーーっ!!!」
後は爆進あるのみ。ダグが消えていった方向へ、ズカズカと足音も高らかに突っ込んでいく。
ダグがとばっちりを喰らうのではないかと心配したシオンが、あわててその後ろをトテトテと付いていった。「デューン! またアンタの仕業ね!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・★○×▲$!?」地の底より沸き起こる怨嗟の声も斯くやという怒声とともに、ドアを蹴破るような勢いでダグの寝室へと躍り込むフォクシー。
その剣幕に正面から遭遇してしまったダグは、恐怖のあまり硬直してしまった。 間髪入れずにシオンが手を引いて部屋から連れ出してくれたから良かったようなものの、もしあの一瞬のチャンスを逃していたら、 ほの白く立ち上る怒りと恨みのオーラを纏って仁王立ちになるフォクシーによって、 六道を彷徨う亡者のような目に遭わされていただろう。「助かりました、アニキ〜」
本気で涙目になって4歳のシオンにすがりつくダグをなだめながら、シオンはこの後のデューンのことを思い、 少し気の毒になった。・・・・・が、
「ま、自業自得だしな」
何とも淡泊のお言葉とともに、ダグと二人、台所へ夕飯の準備に向かう。
見るからに微笑ましい二人の背後から、耳にするだけで恐ろしい阿鼻叫喚の怒号と悲鳴が聞こえてくる。「あ〜もう、大声で怒鳴るなよぉっ、こちとら二日酔いで頭が割れそうなんだよぉっ!」
「や〜っぱりあんたが原因ね! 飲み過ぎたあげく図々しくもシオンの家に転がり込んだ上、 酔った勢いで<ミトラの知識>を発動させたワケね!」
「げっ! フォクシーっ! やっべぇ〜・・・・」
「私がどれっっっっっっっだけ深〜く決意してここまで来たと思ってんのよっ! あんたのせいで、全部台無しじゃない! この責任はどうとってくれるのよ! このうすらトンカチ!」
「はばばばばばばっっ! ほっへはふへふはほ〜ッ、はひほほっへははよふほひふんはほ〜、はふんはっはらほーふふんはほー (ほっぺたつねるなよ〜ッ、ガキのほっぺたはよく伸びるんだぞ〜、たるんじゃったらどーすんだよー)」
「五月蠅い(うるさい)! べらべらくっちゃべってる暇があったら、責任を取る方法をさっさと考える!」流石に、4歳児に手をあげるほど冷酷ではないらしい。 普段だったら、鳩尾に膝蹴りが突き刺さる鈍い音が連発で聞こえるはずだが、 今回聞こえるのは、びーびーと泣く4歳児デューンの泣き声(ちゃっかり外見を利用していると思われる)と、 それを脅すような容赦ないフォクシーの怒声だけだった。
やはりそれなりに心配で耳を傾けていたシオンも、これなら安心である。
小さくなったときにしか見られない愛らしい ・・フォクシーがまともに見たら、それこそ一発でノックダウンされそうに可愛い・・笑顔でダグを見上げる。「今日はグラタンにでもするか」
夜は、シオンの家の一角を除き、静かに更けていく。
・・・・・しかし、この事件はこれだけでは終わらなかったのである。翌日。
物凄く差し迫った顔の女性と、まるで生け贄にささげられる直前のような顔をした男の子が、 ほっぺたのぱんぱんに腫れた男の子の操縦する方舟でヴァドを旅立った。見送る少年は、空へ向かってそっと十字を切る。
目指すは言うまでもなくエレミアの洋館。
東大陸までのちょっとした空の旅は、 普段なら方舟と融合した陽気な老人の爆笑トークなどを聞きながらの楽しいものになるはずだった。 が、老人は敏感に、方舟の隅々にまであまねく広がる殺気を感じ取っていた。
賢明な老人は、ここで下手に口を開くことは自らの寿命を縮める結果以外のなにものも招かないことを素早く察知した。
身を削らんばかりの最大出力で、通常の1/2の時間で洋館へと女性と男の子を送り届けた。
方舟を下りた途端、鬼面の女性・・・であったフォクシーは、慈母のごとく柔らかく暖かいほほえみを、 生け贄の男の子・・・シオンに向ける。「さ、シオン。行きましょ」
しかし、フォクシーのフォクシーたるところのものを知るシオンには、その笑顔の奥にある脅迫と殺気がはっきりと感じ取れた。
笑顔が言っている。「余計なこと言ったら、ただじゃすまないわよ」
ビクビクして既に逃げ腰のシオンに、 これ以上のものがあろうかというフォクシーの優しい笑顔が追い打ちをかける。
「ほ〜ら、笑顔は?」
シオンは、必死の覚悟で顔の筋肉を総動員した。その覚悟たるや、ミトラに対峙するときの10倍に値せりの勢いで・・・。
「よし!」
満足げに微笑むフォクシーに引きずられるようにして、洋館の奥へ進んでいく。
フォクシーは、大広間へ続く大きな扉を勢いよく開けた。「ただ今、お父さん! 突然だけど、私、この子と結婚の約束をしたの。 お父さんには申し訳ないけど、私の花嫁姿、あと20年くらい待ってもらえるかしら?」
いきなり許嫁にされてしまったシオンが、卒倒あと一歩のところで辛うじて踏みとどまったその根性は相当なものであったが、 フォクシーの爆弾発言に対して、
「いや、たどり着く場所が見えているなら、お父さん、待つのは全然平気だよ」
と、実に幸せそうに言ってのけたエレミアも相当な強者であった。
そのころ西大陸に一人残されたダグは、城の仕事もそっちのけの上の空で、 「ああ、アニキの無事を祈りに教会へ行った方が良いんじゃないだろうか?」とか 「この際巨人族のルドラでも良い! 拝みに行こう!」などという突拍子もないことを真剣に考えていた。
そんな彼の後ろ姿を見つけて、大臣が声をかけた。「ダグ、シオンはどこだ? 昨日も今日も姿を見ておらんぞ? まったく、これから私が仲介人になってエレミア家に見合いに行くことになっているというのに・・・」
・・・・・・そういうことは、直前になってから言うなよな・・・・・・♪
ダグは前頭葉から魂が抜けていくのを感じながらも、
「アニキが帰ってこなかったら大臣のせいだぁぁぁーっ! 大臣のバカやろぉぉぉーーーーーっ!」
と、最大音声で暴言を吐きながら、水棲族のルドラを拝み倒しに行くべく、ダヌルフの東海岸へ全力疾走せずにはいられなかった。
HAPPY END
かなりあんぽんたん。どうしようもないほどイカレポンチ。 以上、この作品の批評でした。(おい)
ああ、いやもちろん冗談です。他に「無駄に長い」「話が支離滅裂」「文章の言い回しが変」など、
いちいちあげたら切りがないくらい大量の欠点がありますね。
特に致命的なのは「フォクシーの恐ろしさが充分に伝わってこない」です。
こんな幼稚園児な文章を、最後まで読んで下さってどうもありがとうございました。
from 劉@こめむらさき
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