特集エッセイ(第5回)

演奏会 その4
「子供の可能性」

フレーベル少年合唱団 渡辺月彡子

昨年のある号で、子供集団の継続には、優れた指導者の存在と継承が必須条件であり、当団はそれがうまく行って今日があると書いた。

勿論、集団の継続が指導力のみに依存する訳ではないが、大きく影響することは事実であり、分野の如何に拘らず、その交代時に見苦しい争い事が生じ、果ては止むなく解散という事態に陥る例も決して少なくない。当団の場合、会社組織の運営故この辺はうまく行く。個人レベルでの判断が介入しないからだ。 かくて「継続は力」、少年合唱という日本では稀少価値集団において、当団は長い歴史を有するに至った。

今回はその「継続と力」の関係を、団員一人ひとりの立場で、またそこから派生する子供の力の無限と限界について、日頃感じている疑問を少し整理してみたい、秋の演奏会シーズンを前に、力の限界に挑まねばならない勇気を貯め込むためには、私自身心の整理が必要なのだ…。

疑問と間違い…年少者を育てるということ

その昔受け入れたことのある幼稚園児を、ここ文京区に越して以来当団はまた受け入れ始め、丸4年が経過した。そしてこの間私たちスタッフに不思議な疑問が生じ、日毎大きくなって行った。

この小さな団員に年々音痴が増えてきたのだ、…と感ずる、それも加速度的に。 何故だろう?

考えられる理由を幾つも挙げてみた。

  1. 幼稚園・保育園での「お歌の時間」が、大きな声で歌うことを良しとした結果、地声を張り上げる子供が多くなった。(が、これは随分昔からのこと)
  2. 誕生直後からあまりにも様々な音の中で育った結果、正しい音が身についていかない。
  3. 「自由にのびのびと…」という、いわゆる自由教育重視の結果、正しい音程を教えるより楽しく歌うことが先行した。…etc.

たぶん、上記各項は全部当っている。これを読みながらきっと皆さんが挙げて下さる理由もまた、正しい。環境が、弱者・年少者により強く影響することを考えれば、どの理由も正しく、加えてこれら様々な理由が全部合わさった結果と見る方が、むしろ、より正確。

私たちは様々な角度から多面的に検討してみたが、疑問など、或いは理由など幾ら列挙してみても、今回の場合問題解決にはならない。原因を分析して疑問点を洗い出し、そこから糸口を引き出すことは問題解決の当然の方法ではあるが、列挙各項はあまりにも大きな社会現象…、私たちスタッフは勿論、当社、家庭…、のレベルではとても無理なのだ。このまま音痴B組(幼稚園・保育園クラス)が増え続けたらと、愁いる毎日を私は送った。

しかし、ある時私は、私が大変傲慢だったのではないかと恥かしくなった。年少児に音痴が増えたことを、心の何処かで子供たち自身の所為にしている…。これはとんでもない間違い、が、陥りがちな間違いでもある。私はそこに陥っていた。子供たちの責任ではない、大人たちが育て得ていないだけだ。問題解決が難しいといって責任転嫁していけない。

この春入団した小さな団員たちにも、相変わらず音痴さんは多いが、やっぱりますます増えている実感は強くなる一方だが、そして問題解決は大変難しいが、それでも現実を正視して、一歩一歩丁寧に、階段を登らなければならない。 「ド」と「ミ」の音の違いを、年少者に分かる言葉で丁寧に、繰返し繰返し教え、正しい音感を育てて行かなければならない。年少者に音痴増加の現状は、100%育てる側の問題。私たちスタッフは、可能な限りの方法で、思考錯誤を繰返しながらも正しい音を教えて行く、ひたすらに我慢強く。

そこで賢明なるOB諸氏にお願いと提案です。
以下のことが音痴解消に役立つかどうか断言は出来ませんが、あなたのお子さんに取敢えず「音の高さの違い」を教えてあげて下さい。

1.「ドレミファソラシド」を1つの楽器で…
今子供たちが耳にする音は、余りに複雑過ぎて分かりません。どんなに素晴らしいアレンジであっても、子供たちには応用編。まず最初は正しい音の違いを教えること。「三つ子の魂…」の通り最初の音作りはご家庭で。楽器でも歌の得意なあなたの声でも、正しい音の第1歩をぜひ…!
2.何万回も繰返すこと…
その正しい音を、繰返し繰返し教えてください。話せなかった 赤ちゃんが、「アー」・「ウー」の幼児語から「ママ」・「パパ」を経て言葉の駆使に至るまでには、気の遠くなる反復があった筈、正しい音の習得も反復しかないのでは…。
3.美しい音を…
同時にご家庭内に、出来るだけ美しい音を響かせて下さい。幼児期に絶対音がある訳はないのです、植え付けて育ててやらなければ。このところの幼児期音痴は、どうも氾濫する音の洪水に、その一端があると思えてなりません。複雑な音の理解はもっと大きくなってから…、それまでに美しい音で正しい音の訓練をぜひお願い致します。もっとも、この「美しい音」の定義がなかなか曲者ではありますが、紙面の都合上今回はCUT。賢明なるOB諸氏の見識にお任せ致します。

子供の可能性の無限と限界

激しいスポーツ界で世界記録が塗り替えられる度、人間の持つ能力に、無限の可能性を感ずるのは私一人ではなかかろう。 その驚異的なスポーツ界ですら、選手は筋力の80%程度しか使っていないという。(但し、すみません、これは耳学問です。)

子供たちにも、同じようにその能力が無限だと言う人がいる。 なるほど日々成長する子供たちは、未来に向っては無限の可能性を持つと言える。が、当団のように、ある限定された期間内での可能性には、残念ながら限界がある。 7歳の子に12歳の子の理解力は、通常は無い。これは指導力如何の問題ではなく、人間として当たり前のこと。昨日の学習で育った理解力の上に、今日と明日が積重なって、可能性の遥かな無限が生まれる。

が、こと合唱に関しては、この年齢の持つ理解力に、更に年齢の持つ声質が加わって、子供の可能性はより狭まる。よしんば理解力に限界が無いとしても、3歳児に10歳の子の声は、生物学的に、当然、出せない。実はここが、当団の現在の泣き所である。

ウィーン少年合唱団に代表される「天使の歌声」は、たとえどのような訓練をしようと、現在の当団においては、年齢的に生物学的に、無理なのである。当団は今難しい局面に当惑している。 歴然と耳にある、あの「天使の歌声」をどうやったら追求できるか。平均年齢10歳弱、少年に生り切っていない少年合唱団が現在の当団…。しかも声変わりが非常に早くなっている昨今、この平均年齢をあと2歳上げ、12歳にするのは至難の業…。が、40年の伝統を守り抜くためは、どうしても、当団独自の「天使の歌声」を創り出さなければならない。

かくてまた私たちスタッフの、分けても指導の先生方の悪戦苦闘は、続く。どの声が当団にとっての「天使の歌声」なのか、その可能性を無限と信じ、その可能性の限界まで、戦いは続く。

活動報告と予定
12年5月13日(土)/西六郷「よいこの保育園創立45周年記念祝賀会」
12年7月15日(土)/西新宿ヒルトンホテル「松山中学(旧制)・松山東高校同窓会」
12年8月6日(日)/府中の森芸術劇場「全国ジュニアコーラス・フェスティバル」
 →7/26の朝日新聞に注目!当団取材記事掲載(の筈…。)
シリーズ第2弾レコーディング(9月下旬)弊社発行CD「こねこの まいちゃんと うたおう」
12年10月8日(日)/トリフォニーホール「墨田区合唱祭」出演
12年11月8日(水)/トッパンホール同ホールこけら落としコンサート
12年12月6日(水)/イイノホール「第40回記念定期演奏会」

backhomenext

フレーベル少年合唱団OB会