プログラム

宇田川安明 編曲----「いま・哀愁の夏...モロッコから」

  • 時の過ぎゆくままに(As Time Goes By)----Herman Hupferd 詞・曲
  • SHOUF(Look)----Sidi Seddiki 詞・曲・英訳/青木文子 和訳詞&補作/宇田川安明 歌詞補作
  • BENT NASS(Daughter of the People)----Sidi Seddiki 詞・曲・英訳/青木文子 和訳詞&補作/宇田川安明 歌詞補作
  • LACHIR(Friend)----Sidi Seddiki 詞・曲・英訳/青木文子 和訳詞&補作/宇田川安明 歌詞補作
  • Marrakech----松本隆 詞、Steve Kipner/Paul Bliss 曲
  • カサブランカ・ダンディー----阿久悠 詞、大野克久 曲

プログラムノート

いま・哀愁の夏...モロッコから

 モロッコをテーマにした沢田研二”カサブランカ・ダンディー”と松田聖子”マラケッシュ”そして、名画”カサブランカ”のテーマ音楽”As Time Goes By”については、今さら書く必要もないでしょう。モロッコ音楽に関しては、ハプニングの連続でした。政府観光局からは、12本のテープを渡され、「お好きなものをお選びください。」と、軽く言われたものの、すべて歌詞はアラビア語、曲調もムードはあっても単調な繰り返し。しかし、そのうちSidi Seddiki氏のアルバム”Shouf”の3曲が私を引きつけました。やっと曲が決まってその楽譜を入手して編曲にとりかからねばと思っていたら、とんでもない誤算。観光局がロンドン在住のSeddiki氏と話しても、当のご本人は、「僕たち、楽譜がなくても演奏してるよ。」こちらは、びっくりするやら、あきれるやら。でも、ここで川井敬子さんと石原奈保子さんのお二人が助っ人として登場してくださいました。彼女達の多大な尽力をいただけなかったら、このステージは出来上がっていなかったと申しても大げさではありません。繰り返しの多い曲をテープ1本から辛抱強く聴き採ってくださいました。多謝。

 さて、彼の原曲はアラビア語。原詩の風合いを生かして編曲するのも難事業でしたが、観光局の青木さんがSidi Seddiki氏による英訳に日本語をつけて、私がそれをもとに編曲と歌詞の割付をしたのですが、いやはや気の遠くなるような作業でした。でも、今となると”日本とモロッコの音楽を通じてのカルチャーショック”も懐かしく感じます。

 それでは、日本ではまだお馴染のないこのシディ・セディキ氏について少々ご説明しましょう。

 Sidi Seddikiはアラビア語で”深い根(ルーツ)を持つ木”という意味。(その証拠に「ki」とある!)。1961年モロッコの首都ラバトで生まれ、敬虔なイスラム教徒として育てられ、11歳で作曲を手掛け、パーカッションや弦楽器にその才能を発揮し、名門リセハッサンII世学校に奨学生として入学しました。17歳の時、渡英。それが西洋音楽(Rock,Pops,etc.)との出会いになり、中でも、”POLICE”(イギリスのグループ)から影響を受け、自らバンドを組んでコンサート活動を開始しました。二万人いると言われているイギリス在住のモロッコ人の社会から大きな反響を得て、ヨーロッパ各地で活動に入っています。

 その後、彼の才能はFilm Dirctor-Tom Oriestry氏に見いだされBBC World Sevice Sessionに引き継がれ、さらに、Globestyle社とレコーディング契約を結び、1990年10月”Shouf”というタイトルのCDをリリース。このアルバムは非常に注目され、コンサート、ラジオ、テレビ番組へも出演し、モロッコ出身の新人Singer Song & Writerとして、高い評価を受けています。

 Seddiki氏の永遠のテーマは、愛、政治、宗教であり、モロッコへのあつい憧れでもあります。彼の創り出す世界との出会い、それは、もうひとつのモロッコを知る手がかりになることでしょう。

 ”Shouf(Look)”−振り返ってごらんで、彼は人間は権力や金に執着のあまり、親しかった人々が敵同士になったり、人の道をはずれた行為にはしる傾向を嘆く一方、世界平和の為の相互理解の重要性を訴え、また”Bent Nass(Daughter of the People)”−いとしい人にあっては、失恋後も恋情いっぱいに、”私の元に戻って来て欲しい”と切なさを吐露し、”Lachir(Friend)”−友よでは、たとえ過酷な運命が人々を引き裂く様なことがあっても、希望をもって再会を信じ、真実を直視し、謙虚に生きる姿勢が大切だと歌いかけています。

(宇田川 安明)

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