|
「民謡」というのは、サンマの刺身のようなものだな。だから非常にアシがはやい。獲れたてを現地でいただくのが一番!けれど、その味を知っていても、いつでもそこへ出かけていくわけにはいかない。ならばどうする?冷凍して運んできて焼いて食すのもいい。けれど、「ヒラキ」にすれば、凝縮された別の味わいが出てくる。
「民謡」を素材にしてアレンジされた作品は、ことバルトークの場合のみならず、その「ヒラキ」なのだと思います。だから「さばき方」によっては、ひからびた干物になってしまう場合もあれば、刺身以上にウマイこともある。そして、同時に、これは「料理であって料理でない」といった行為だとも思います。なんぼサンマが脂っこいといっても、それにフランス料理風のオレンジソースをかけてしまうと、どんなにウマイとしても、それは刺身のそれとはあんまり違いすぎる...。
だから、「民謡」を扱う「作曲家」は、同時に「民謡研究者」であらねばなしません。そのナマの味わいを良く知って、それを別の形で再構築するために。
ベラ・バルトークは、23歳(1904年)の時、一人の女性が歌う民謡を耳にして以来、母国ハンガリーの民謡を収集し始め、2年後にはコダーイと共同研究を開始しました。ハンガリー、ルーマニア、スロヴァキアの民謡を採譜あるいは円筒式録音機を用いて収集し、それを分析・整理したのでした。「5つのスロヴァキア民謡」はその活動の中で1917年に書かれ、翌年ウィーン男声合唱団により初演されました。
(斎藤 令)