───俺はそのとき天使に出会った
10年前
ある晩のんびりとリビングでくつろぐ妻がふと思いついたように
古いアルバムを持ち出し懐かしそうにページをめくっていた。
「グレイシア、それはずいぶん前のアルバムだろ?
どうしたんだい急に引っ張り出してきて」
コーヒーのカップを口に運びながら問いかけた。
エリシアが生まれてからのアルバムは何度でも見返すマースだが
それ以前のものは時折手にするくらいであった。
それはグレイシアも同じだったが。
「あら?あなたは覚えてないのね」
そう言うと少し不機嫌そうにアルバムをパタンと閉じた。
それを見てマースは慌てて愛しい妻の傍らに腰を下ろしその肩を抱き寄せる。
ヒューズ家には夫婦喧嘩という言葉は存在しない。
なぜならここの主は己の妻にベタ惚れで弱いのだ。
「怒らないでくれグレイシア、俺が悪かった」
いつもこうやって理由がわからなくても本当にすまなそうに謝る夫。
「もうマースったら、いつもずるいわよ。怒れなくなるじゃないの。」
しょうのない人ねと苦笑しながらグレイシアがマースにアルバムを広げて見せた。
そこには10年前のまだ士官学校時代の己と同じく学生の妻がいた。
並んで写るその姿は緊張しているのがありありとわかる初々しいものだ。
「懐かしいな。そうか今日・・・だったか」
「ええ、あなたと私が初めて出会った日よ」
嬉しそうにグレイシアが写真を見つめている。
10年前のそのときに思いをはせているのであろう。
「私もこの頃は若かったわ」
「君はいまでも若くて美しいさ」
そう言う妻の美しい横顔は10年前となんにも変わらない、とマースは思う。
出会った頃のままグレイシアはマースの天使だった。
そして───
愛しい妻の傍らで眠るもう一人の大切な天使。
その頭を優しくなでてマースは微笑んだ。
なんて幸せな10年だったのだろう
守るべきもの守りたいものが出来て不安もあるがそれ以上の喜び
この先もずっとこの天使たちがいる限りそれは変わらない───
「これからの10年もよろしくね、あなた」
「おいおい、グレイシアそれは違うだろ?」
おどけた表情のあとにふっと真顔で答えた。
「これからもずっと死ぬまで一緒だ」
「ええ・・・あなた」
幸せそうにグレイシアが美しいその微笑を向ける。
「ずっとね・・・約束よマース・・・」
───それから数日後
マースは妻との約束を守ることが出来なく・・・・・・なった───