慌しく帰宅した後、父と琥珀の元へ車を走らせようやく家に戻った4人だった。
車は明朝早くにディーラーがタイヤ交換のために引き取りに行くようだ。
「すまんな、弥勒君。後夜祭途中で呼びつけたりして」
夕食後のお茶をすすりながら父が謝った。
「いえ・・・・そんなことは・・」
にこやかに笑う弥勒の顔は心なしか引きつっているように見える。
それに気付いているのかいないのか。
父は構わずに話を続けた。
「早めに帰ったはずの私達がなぜあんな山の中にいたのか
疑問に思ってるとは思うが」
そうなのだ。
珊瑚が眠ってしまったあと父と琥珀は
『一足先に帰宅するからゆっくり楽しんでこい』
・・・とメールをくれたのではなかったか。
それなのにパンクした車があったのは何にもない山中だった。
紅葉を見るにはすでに日が陰ってくる時間で適当ではない。
「どうして・・・・・あんなところに行ったのです?」
別に父と琥珀がどんな時間にどんな場所へ行こうとまったく
干渉などするつもりはない弥勒である。
が、珊瑚の了承まで得て(いたと思う)さぁこれから・・・というときに
呼び出されさえしなければ、だ。
「すぐに帰っても特にすることもないからな、琥珀と二人きりでのドライブも
たまにはいいだろうと思ったのだよ」
手の中の湯飲みをゆっくりと回す父。
「珊瑚を今度連れて行ってやろうと紅葉の穴場を探そうとしたのがまずかった」
熱いお茶をずずっとすすりながら苦笑いした。
「ナビには古い地図しか入れてなくて道に迷ってしまうわ、どんどん悪い道になって
変なものを踏んでタイヤがパンクしてしまうわ・・・で困り果てて最初君の携帯に
電話したんだが」
そういう父の視線がなぜか痛い弥勒(笑)
何をしていたんだ、と暗黙の問いかけをされているような気がする。
「すみません、気が付きませんで」
疑惑の視線をなんとかかわしながらさらりと答えた。
き・・・・気まずい・・・・・
最初は問い掛けていた側のはずがいつのまにか
逆の立場にたたされてしまっている。
なんともいえない緊張した雰囲気を飲み干すように弥勒もお茶をすすった。
「あーっ気持ちよかったーっ!弥勒先生も入っておいでよ」
「ほんと疲れた体にはお風呂が一番ね」
またまた一緒に風呂に入った琥珀と珊瑚が二人さっぱりとした顔で
弥勒たちのいるダイニングに戻ってきた。
一転して空気が和やかなものに変わる。
いつもなら眉間にしわがよることも今回は大歓迎だ。
「今日は色々あったから疲れただろう。ゆっくり疲れをほぐしてくるといい」
うってかわってにこやかな表情の珊瑚の父が促した。
「はい、それでは・・・・」
ほっとした笑顔で弥勒が立ち上がったそのとき。
「あ、姉さん!こんな時期の虫刺されにはちゃんと薬塗っといたほうがいいよ」
天使の笑顔の琥珀が姉にム○を差し出した。
「えっ?虫になんかさされてな・・・・」
最後まで言い終わらないうちに慌てて自分の首筋あたりを
抑え見る見るその面を真っ赤に染める珊瑚。
ぴきっ・・・・・!
虫刺されの真実の意味を悟った父のなにかが切れた・・・・ようだ(笑)
一瞬にして回りの空気が絶対零度に凍りついた。
いや、正確には琥珀を除いて・・・・だ。
あっちゃー・・・・・・・・・・・・
思わず己の顔を覆いあさっての方向を向く弥勒。
ばきぼきっ
指を鳴らしながら立ち上がる父。
「・・・・・・風呂の前に一汗流さんか・・・なぁ弥勒君」
限りなく含みのある笑顔が恐ろしい。
当然断れるはずもなく引きつれた笑顔で頷くのみ。
傍らで珊瑚は頬を染めたままぼーっと立ちすくみ
琥珀は天使の笑顔で○ヒを持ったまま(笑)
(まったくなんて日だ・・・・・・・)
当分風呂には入れないだろう事は明確である。
半ば諦めた弥勒が道場へ向かう。
「・・・・・マイナス100点」
昼間のプラスはどこへやら(笑)
小さく呟く父の評価をはたして弥勒が回復できるのか。
やはりまだまだ本当の花嫁を迎える日は遠そうな弥勒先生である。
おまけ完
幻の花嫁 :おまけ