最後のときまでそばにいて

「老いた犬と生きる」制作記(鋭意更新中であります)
【高齢犬花子との出会い】

「この犬紹介しようよー」
2004年3月 ディレクターのWちゃんが持ってきた写真にはなんとも困ったせつな系の顔つきの白くて小さな犬が写っていた。
私たちが勤める職場に届いた一通の手紙。
そこには、犬を写した二枚の写真が入っていた。

写真には、不思議な犬の散歩風景が写っていた。



おなかの下にタオルをつなげたようなベルトを通し吊り下げられるようにして散歩している小さな犬。
これが老犬花子との出会いだった。

私たちは、広島県のあるテレビ局で視聴者からの情報を元に取材に出かけるコーナーを任されていた。
犬はかわいい。
それに写真は見ただけで「どうしてこんな風に歩いているのか」「この犬はいったい何なのか」と疑問=興味がわいてしまう
さらに写真から、犬がいる団地のなんとも暖かな目線を感じた私たちは、デジタルビデオカメラを片手に、さっそくその団地へ出かけることにした。


広島県神辺町に住む柴犬の花子は18歳。
人間の年齢でいうと90歳のおばあさん。
子宮の周辺に腫瘍ができ、その治療をして以来下半身が動かない

しかし、趣味はお散歩で
飼い主お手製のお散歩ベルトをつけるとえっちらおっちら歩き出し、
犬のジョン君ネコのみみちゃん
ご近所のお仲間たちの様子を巡回して周る
「どうも若い男の子が好きみたいで・・・」
と飼い主の渡辺さん
今花子がご執心なのはゴールデンレトリバーのジョン君。
たしかに花子の家から一番遠いのがジョン君の家だが、そこまで何とか歩いていって、帰ってくるのが花子のお気に入りの散歩ルートのようだ。

花子のベルトは「お散歩ベルト」
下半身が動かない花子のために近所の人の提案で渡辺さんが作った散歩用のベルトだと判明した。


花子が渡辺家にやってきたのは17年前。
花が好きな渡辺さんが花子と名づけた。
外で遊ぶのが大好きな犬。
子育てが終わった渡辺さんは花子を家族のようにかわいがっていた。
そんな花子ががんになったのは8年前。
薬で治療を続けたが、おととしの正月に症状がひどくなり、寝たきりになってしまった。
外で遊ぶのが大好きな犬
面倒を見るのが大変なので家のなかにあげようとしたが、
どうしてもそとにでていってしまう。

体が不自由になり、排泄の世話をしなくてはならなくなったとき
かかりつけの獣医さんに安楽死という方法もあると教えられたそう。
しかし、渡辺さんは最後まで生きさせてあげたいと考え、花子の介護生活をスタートさせた

花子の面倒を見やすいように、犬小屋の足を取ってバリアフリーに。
中には座布団を引いて、足を引きずっても出入りしやすいようにした。
さらに入り口を表と裏の二箇所に開けて、犬小屋の中をのぞきやすいように改良した
中のシーツは、どろどろになるので毎日洗う。
渡辺家の洗濯物は人間のものより犬のもののほうが多くなった。

花子はおばあちゃんだけど散歩が大好き
特に花子が住む団地は犬を飼っている家が多く、
友達に会いに行くのが楽しみなんじゃないかと思われる
せめて前足だけでも衰えないようにと
渡辺さんが花子の腰を持ち、前足だけを動かすよう歩くリハビリを続けていたのを近所の人が見かけ、渡辺さん自身の体の負担を心配して「お散歩ベルト」を提案した。

花子は近所の看板犬でもある
17年前から近所の番犬として役目を果たしてきた犬。
若いときはきりりと気位が高く、愛想を振りまくことのない犬だったそう。
そんな花子が年老いて、下半身が動かなくなって、でも元気に毎日団地の中を散歩している姿は、なんともユーモラスでなんとも感動的。
団地の皆さんも、「花ちゃんからは勇気をもらっている」と口々に話す。


全国放送の反響に続く