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  両親が出かけた僕の家
 
  いつかふたりで、僕の部屋に閉じこもって一緒にいたね。
 僕たちはふざけて、ネットの掲示板にいたずら書きしたり、大きな音でスピーカーを鳴らしたり、
 新しく買ったコントローラーでゲームの中のゾンビを撃ったり、
 両親が出かけて自由な僕の家で、いつまでも遊んでた。
 
 僕たちふたりとも恋をしていて、好きな人の話もした。
 君も僕も似たもの同士で、片思いばかりしてるんだ。
 その話をしてるといつも最後には、ふたりでため息ついて、おたがいに笑っちゃうんだよな。
 でも、俺たちつらいよなーって大人が冗談言うみたいな顔で笑った君は、
 ちょっと悲しそうでかっこわるかったぜ。
 
 それから、掲示板のなかで好きな人を決めて、どっちが先に落とせるかなんて賭けをした。
 僕は一人の女の子をくどいて、エロチャットにさそおうとムキになってて、
 気づいたら君は、僕の座ったイスの後ろに立って、むなしいからやめようぜって言った。
 
 そしたら急にしんみりしちまって、僕はさみしくなって下を向いた。
 君もきっとおんなじ気持ちだとわかってたけど、僕はズルして、君より悲しい顔をしてやった。
 君がやさしいのを知ってるからだよ。
 先に甘えたもん勝ちだ。この作戦で、僕はいつも君に勝ってる。
 
 君が僕の肩に置いた手は、小さいころ迷子になって、やっと家が見つかったときみたいに、
 ひとりぼっちの知らない街から僕を連れ出してくれた。
 
 窓から射し込む夕日がPCの画面を照らして、掲示板は見えなくなった。
 子供たちのさよならする声、近所の家で誰かがピアノを練習してる音、
 ベランダの手すりから、ハトが飛び立つ音。
 いつも聞いてる音が、君と一緒だと生きてるみたいにあったかくなる。
 
 ふりむいてくれない恋人に見せつけてやろうか。冗談で僕が言ったら、君にダメだとしかられた。
 でも、君はずっと、僕の肩にふれていた。オレンジ色の部屋で、僕たちは黙っていた。
 両親が出かけて自由な僕の家。君と僕がふたりきり。
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