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  風邪ひき722おやじへ
 
  俺のおっさんが風邪ひいたとか抜かすから、めんどくせえけどお見舞いに行ってやった。
 おっさんは小汚い部屋でふとんにくるまってゼーゼー言ってた。いい気味だ。
 でも、いつもいばりくさってるのに情けない顔して、ざまみろとか言っても「うー」しか答えないから、
 俺はおっさんが可愛くなって、アイスクリーム買ってきてあげたよ。
 
 ほら食いなって枕元に投げたら、おっさんは手ものばさない。
 溶けちゃうから早く食えって言っても、シカトしてふとんにもぐってる。
 俺はピンときて、ニヤニヤしながら食わせてやろうかって言ったら、なんとおっさんは「たのむ」だって。
 なんだかんだ言って俺に甘えたいんだな、あまのじゃくなおっさんよ。
 
 じゃあ、口開けて。バニラのアイス、少し入れてあげよう。
 俺たち、小鳥の親子みたいだね。こんなところ、あの人が見たらなんて言うだろう。
 あの人だって素直になれば、俺は可愛がってあげるのに。
 
 おっさん、熱で乾いた唇にアイスがついてるよ。どうやってきれいにしようか?
 おっさんは俺にナイショ話でお願いする。
 いいよ、じゃあそうしてあげる。これはふたりだけの秘密だな。
 
 次のアイスをあげようとしたら、またおっさんが何か言った。
 うーん、このお願いは微妙なところだ。
 約束してくれる?俺をいらないって2度と言わないなら、してあげるよ。
 
 今日のおっさんは、やけに素直だ。
 でも、気持ち悪いから目は閉じててくれよ。
 おっさんの体が熱い。
 俺は寒かったからちょうどいいや。
 
 雪と霧で真っ白な道を歩いて、おまえに会いにきたんだよ。
 このまま眠って、目が覚めたら春の森の中にいて、ずっとふたりで遊んでいたいな。
 
 だからおっさん、一生風邪ひいてて。
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